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 僕は宿泊所の床を木の枝で掃いているハキさんに「一応、話し終わりました」と言い、入江でレイに会うよう勧めたことを話した。
「それが良いとは俺も思うが、秋田の人たちがカラの話を受け入れてくれるかが問題だぞ?」
 僕も、それが一番の問題だと思っていた。それでも後ろを振り返り、コマさんと周りを覗った。
「大丈夫ですよ。もし、コマさんが治らなくてもいいと考えていたら、わざわざ秋田から来たりしませんよ。きっと、後は彼らで、何か答えをだしますよ」
 ハキさんもその集団を見て、「ああ、わざわざ秋田から治す方法を探しに来たんだもんな」と、僕に同意した。
 僕はコマさんらの話し合いの結果を待つ間、土偶を見に行ったロウさんとイケを探しに行った。
 二人は何処にいるのだろうと、僕は辺りを見渡したが、相変わらずの人ごみで、中々見つけられないと思った。
「すみません。土偶を持ってきている方たちを見かけませんでしたか?」
 僕が近くにいた人に尋ねてみると、「ああ、祭壇の方で見せ合いをしていたぞ」という有力な情報を得て、祭壇の方に向かった。
「あれ、いないな」
 祭壇近くには、確かに土偶がいくつか置かれていたが、そこに人はいなかった。
「おや、あれはお前の所の土偶かい?」
 僕は後ろからお爺さんに話しかけられ、僕は「いえ、僕の所の土偶ではありません」と、正直に答えた。
「まったく。土偶を放ったらかしにするとは、何処の村の者だか」
お爺さんはぶつぶつと呟きつつ、「土偶は神聖。土器を神聖する連中もいると聞いたが、まさかあんな物を造る連中がいるとは」と、長々と僕の側で呟いた。
「お爺さん。あんな土器って、どんな土器なんですか?」
 僕が尋ねると、お爺さんは「お前さんは人間が造る土器と土偶、どちらが大事か?」と突然聞き返され、僕は「えーと、人間?」と、お爺さんの質問とは全く違う答えを言ってしまった。
「人間か。確かに土器も土偶も人間がいなくては造れん。お前さんの言う通りかもな」
 お爺さんは難しい顔をしつつ、一人で頷いた。
「お前さんも見てくるといい。人間と、神への土偶について考えてくるといい」
 お爺さんはそう言って、三内の一角を指してくれた。
「ありがとうございます」
「ああ。あと、ここの土偶を放ったらかしにしている輩がいたら呼んできてくれ。ワシが説教をしてやる」
 僕がお爺さんの指した方に行くと、そこには人だかりが出来ており、ロウさんとイケもそこにいた。
「ここにいたんですか」
 僕が驚きの声をあげると、ロウさんは「ごめんな。ちょっと珍しかったんだ」と言い、イケの目線の先を指した。
 そこにあったのは土器だ。いや、土器と呼んでいいのかもわからない造形物だった。
「何、これ?」
 僕の口からは、感嘆のような息が出た。
 土器は普通、円形等で、底が円いか尖っているか、多少の文様があるかぐらいの差でしかないと僕は思っていた。
 しかし、目の前にあるのは下の方は線上の模様が付き、中部は春に生えるワラビかゼンマイのような模様、上部はまるで生きているかのようにうねり、荒波や焚火の火を連想させた。
「どうすれば、こんなの造れんだよ」
 誰かの声が聞こえ、それがこの土器を見ている人たちの心の代弁であろうと思った。
「あの、焼いてあって、水で濡らしても大丈夫なんですよね?」
イケが驚きの声をあげつつ、この土器を持ってきた男性に尋ねた。
「ああ、ちゃんと焼いてあるそうだ。俺たちも使ってみたが、火で煮炊きしても平気だった」
 男性はそう言って、複雑怪奇な土器を手で軽く叩いた。
「なんだ。お前が造ったんじゃないのか?」
 集まっている人の誰かが言い、男性を苦笑させた。
「はは、そうだ。俺は山形から糸魚川のヒスイをとりに行こうとして、間違って違う川に入ったんだ。途中で気がついて引き返そうかと思ったんだが、道中の村で『変わった土器を造る集団がいる』って話を聞いて、行ってみたんだ。そこで、これを貰って来たんだ」
男性はそう言いつつ、土器の文様を指でなぞった。
「造っている所は見たんですか?」
 イケが尋ねると、男性は「見たけど、真似は出来そうになかった」と、またも苦笑した。
「一人が粘土を捏ねて、二人で形を造って、三人で代わる代わる土器を焼く火の強さを加減していたんだ。これを造るのには、子供の内から練習して、爺さんになる頃に造れるようになるそうだ」
 男性は土器を持ち上げ、回転させるようにして、土器の全体の模様見せるようにした。
「ところで、俺はこれを何かと交換したいんだが、等価交換する奴はいないか?」
 男性はそう言ったが、集まった人は互いに目と目で見合い、囁き合い、手を挙げる人はいなかった。

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