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 僕たちは罠を習い、太陽が真上に昇った頃に戻って来たお兄ちゃんとランさんが、一匹も魚を獲ってこなかった事に呆れ気味だった。
「本当に、釣れなかったんだよ」
 お兄ちゃんはそう言ったが、僕にはそれが嘘だと分かった。お兄ちゃんが嘘をつくときには、口元の癖があるからだ。
「明日、俺たちは三内に行くけど、アラもちゃんと是川に帰れよ?」
ロウさんはお兄ちゃんに厳しめに言い、戻って来たウドさんとラドさんを驚かせた。
「少しぐらい、浮ついても仕方ないさ」
 ウドさんがそう言ってロウさんをなだめたものの、ロウさんの機嫌は直らなかった。
 夕暮れになる頃には、イケの足もだいぶ良くなったようだ。
「この葉っぱを煮詰めてかき混ぜると、打ち身にも効くのよ」
 酋長の妻が言い、僕とイケはその葉っぱを覚えておくことにした。効くか効かないかは、これから試す必要があるだろう。偶に、効かない物もあるからだ。
 僕とイケは、お兄ちゃんが行かなかった場所で魚を釣り、ロウさんが鳥を射落として夕食の材料とした。
「バクって奴よりも、上手くなったんじゃないか?」
 大人の男性に言われ、ロウさんは満更でもなさそうな顔をしつつ、「まだまだですよ」と言い、謙遜した。
 夕食後、僕たちが用意してもらった家で横になっていると、そっとお兄ちゃんが家から抜け出した。そして、ロウさんがお兄ちゃんの後を追い、外に出て行った。
 僕もみなを起こさないように、そっと家を抜け出し、お兄ちゃんとロウさんの後を追った。
「アラ、俺はお前の色恋沙汰について、責めるつもりはない」
ロウさんの声が聞こえ、僕は木の後ろに隠れた。
「俺は、一度お前に家出を止められた身だから、大きな声では言えない。だが、お前は『二ツ森との交流の挨拶』のために、ここに来たんだ。それを、忘れないで欲しい」
 ロウさんの言葉に、お兄ちゃんは何事かを答えたようだが、僕には声が小さくて聞き取れなかった。
「じゃ、明日は朝が早いから、寝坊すると本当に置いていくからな」
ロウさんはそう言って、僕の隠れている木に向かって歩いてきた。
僕はとっさに身をかがめ、見つからないようにした。ロウさんは僕に気がつくことなく、家の中に入っていった。
 僕はホッとしつつ、木の陰から出ると、背後から声が聞こえてきた。
「カラも起きていたのか」
 僕は突然のお兄ちゃんの声に、思わず悲鳴をあげそうになった。
僕が後ろを振り返ると、月明かりに照らされ、何だか不安そうなお兄ちゃんの顔が見えた。
「俺は、浮かれすぎているのかな?」
 お兄ちゃんの問いかけに、僕は「わからない」としか答えられなかった。
 何故なら、僕には異性を好きになった事が無いからだ。
 僕はそれ以上何も言うことが出来ず、「僕は寝るね」と言い、家に戻った。
 家は静かで、ロウさんもすでに眠っているようだった。僕も横になり、眠ろうとしたけど、目がさえて眠れなかった。お兄ちゃんは、帰ってこない。
『お兄ちゃんは、何をしているんだろう』
 僕はそんなことを考えつつ、いつの間にか眠っていた。

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