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次の日、三内まで歩いていく大人はロウさんとウドさん、途中の二ツ森までお兄ちゃんとコシシさんが行くことに決まった。子供は僕とイケだけだ。山道は急で、オクやズイでは大変かもしれないからだ。
「たまには、山にも登らないとな?」
お兄ちゃんが、コシさんを揶揄う様に言った。コシさんは最近、海でヤンさんとの仕事を、平地では木の切り倒しをウドさんと行っていた。山には、あまり入っていなかったそうだ。
「アラさん、俺の足腰が鈍っているとでも言うんですか?」
珍しく、コシさんが強気に物を言った。
「何だかコシさん、張り切っている様な気がしますね」
僕がロウさんに囁くと、ロウさんは「ナホさんが乗り移ったみたいだ」言い、軽く笑った。
「他の村からは、誰も来ないんですか。バクさんがいれば、心強いと思いますが」
僕がウドさんに尋ねると、ウドさんは「留守番だってさ」と、苦笑しながら答えた。
「何でも、『弓ばかり射ていないで、たまには土器を造ってみなさい』って酋長から言われたそうだ。代わりに、ラドが来るって言っていたぞ」
バクさんとラドさんのいる久慈村とは、栗の木などの木の実を落とす木々の維持・管理を共同で行っている土地があり、双方の交流も以前よりはるかに多くなった。
「もしかして、カラはバクさんがいなくて寂しいのか?」
ロウさんに言われ、僕は「ロウさんこそ、仁戸田島の事が知りたいんじゃないですか?」と言い返した。
「ま、ロウはそっちに住むことに決めた人たちとこの村で別れたから、気になるんだろ」
ウドさんはそう言って、ロウさんの肩を叩いた。
「天候が悪くなければ、一週間後くらいに出発するぞ。それまでに食料と水、履物の準備をしておくように。特に、イケは初めての山越えだ。履物も擦り切れるだろうから、予備も持っていくといいだろう」
お父さんはそう言って、この場は解散となった。
「カラさん、山越えってそんなに大変なんでしょうか?」
イケの問いに、僕も二ツ森から先は行ったことが無いので答えようがなく、ロウさんに受け流すような形で尋ねた。
「方角を間違えなければ何とかなる。もし迷っても、太陽や月の位置から考えて、北の方に進めば何とかなるだろうな。一応、山にも集落があるし、遭難することは無いだろう」
イケはロウさんの話を聞き、少し安心したようだ。
そして、僕はレイが考えた創作話を思い起こした。太陽と月の昇る位置さえわかれば、方角がわかる。そして、動かない星もあるという。
サキさんもまだ、動かない星を断言できるほど夜空を見上げてはいないが、レイはすでに分かっているらしい。三内に着いたら、その事も誰かに尋ねてみようと思った。
次の日、三内まで歩いていく大人はロウさんとウドさん、途中の二ツ森までお兄ちゃんとコシシさんが行くことに決まった。子供は僕とイケだけだ。山道は急で、オクやズイでは大変かもしれないからだ。
「たまには、山にも登らないとな?」
お兄ちゃんが、コシさんを揶揄う様に言った。コシさんは最近、海でヤンさんとの仕事を、平地では木の切り倒しをウドさんと行っていた。山には、あまり入っていなかったそうだ。
「アラさん、俺の足腰が鈍っているとでも言うんですか?」
珍しく、コシさんが強気に物を言った。
「何だかコシさん、張り切っている様な気がしますね」
僕がロウさんに囁くと、ロウさんは「ナホさんが乗り移ったみたいだ」言い、軽く笑った。
「他の村からは、誰も来ないんですか。バクさんがいれば、心強いと思いますが」
僕がウドさんに尋ねると、ウドさんは「留守番だってさ」と、苦笑しながら答えた。
「何でも、『弓ばかり射ていないで、たまには土器を造ってみなさい』って酋長から言われたそうだ。代わりに、ラドが来るって言っていたぞ」
バクさんとラドさんのいる久慈村とは、栗の木などの木の実を落とす木々の維持・管理を共同で行っている土地があり、双方の交流も以前よりはるかに多くなった。
「もしかして、カラはバクさんがいなくて寂しいのか?」
ロウさんに言われ、僕は「ロウさんこそ、仁戸田島の事が知りたいんじゃないですか?」と言い返した。
「ま、ロウはそっちに住むことに決めた人たちとこの村で別れたから、気になるんだろ」
ウドさんはそう言って、ロウさんの肩を叩いた。
「天候が悪くなければ、一週間後くらいに出発するぞ。それまでに食料と水、履物の準備をしておくように。特に、イケは初めての山越えだ。履物も擦り切れるだろうから、予備も持っていくといいだろう」
お父さんはそう言って、この場は解散となった。
「カラさん、山越えってそんなに大変なんでしょうか?」
イケの問いに、僕も二ツ森から先は行ったことが無いので答えようがなく、ロウさんに受け流すような形で尋ねた。
「方角を間違えなければ何とかなる。もし迷っても、太陽や月の位置から考えて、北の方に進めば何とかなるだろうな。一応、山にも集落があるし、遭難することは無いだろう」
イケはロウさんの話を聞き、少し安心したようだ。
そして、僕はレイが考えた創作話を思い起こした。太陽と月の昇る位置さえわかれば、方角がわかる。そして、動かない星もあるという。
サキさんもまだ、動かない星を断言できるほど夜空を見上げてはいないが、レイはすでに分かっているらしい。三内に着いたら、その事も誰かに尋ねてみようと思った。
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