上 下
280 / 375

2-3

しおりを挟む
2―3
 次の日、三内まで歩いていく大人はロウさんとウドさん、途中の二ツ森までお兄ちゃんとコシシさんが行くことに決まった。子供は僕とイケだけだ。山道は急で、オクやズイでは大変かもしれないからだ。
「たまには、山にも登らないとな?」
 お兄ちゃんが、コシさんを揶揄う様に言った。コシさんは最近、海でヤンさんとの仕事を、平地では木の切り倒しをウドさんと行っていた。山には、あまり入っていなかったそうだ。
「アラさん、俺の足腰が鈍っているとでも言うんですか?」
珍しく、コシさんが強気に物を言った。
「何だかコシさん、張り切っている様な気がしますね」
 僕がロウさんに囁くと、ロウさんは「ナホさんが乗り移ったみたいだ」言い、軽く笑った。
「他の村からは、誰も来ないんですか。バクさんがいれば、心強いと思いますが」
 僕がウドさんに尋ねると、ウドさんは「留守番だってさ」と、苦笑しながら答えた。
「何でも、『弓ばかり射ていないで、たまには土器を造ってみなさい』って酋長から言われたそうだ。代わりに、ラドが来るって言っていたぞ」
 バクさんとラドさんのいる久慈村とは、栗の木などの木の実を落とす木々の維持・管理を共同で行っている土地があり、双方の交流も以前よりはるかに多くなった。
「もしかして、カラはバクさんがいなくて寂しいのか?」
 ロウさんに言われ、僕は「ロウさんこそ、仁戸田島の事が知りたいんじゃないですか?」と言い返した。
「ま、ロウはそっちに住むことに決めた人たちとこの村で別れたから、気になるんだろ」
ウドさんはそう言って、ロウさんの肩を叩いた。
「天候が悪くなければ、一週間後くらいに出発するぞ。それまでに食料と水、履物の準備をしておくように。特に、イケは初めての山越えだ。履物も擦り切れるだろうから、予備も持っていくといいだろう」
 お父さんはそう言って、この場は解散となった。 
「カラさん、山越えってそんなに大変なんでしょうか?」
 イケの問いに、僕も二ツ森から先は行ったことが無いので答えようがなく、ロウさんに受け流すような形で尋ねた。
「方角を間違えなければ何とかなる。もし迷っても、太陽や月の位置から考えて、北の方に進めば何とかなるだろうな。一応、山にも集落があるし、遭難することは無いだろう」
 イケはロウさんの話を聞き、少し安心したようだ。
 そして、僕はレイが考えた創作話を思い起こした。太陽と月の昇る位置さえわかれば、方角がわかる。そして、動かない星もあるという。
 サキさんもまだ、動かない星を断言できるほど夜空を見上げてはいないが、レイはすでに分かっているらしい。三内に着いたら、その事も誰かに尋ねてみようと思った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

天威矛鳳

こーちゃん
歴史・時代
陳都が日本を統一したが、平和な世の中は訪れず皇帝の政治が気に入らないと不満を持った各地の民、これに加勢する国王によって滅ぼされてしまう。時は流れ、皇鳳国の将軍の子供として生まれた剣吾は、僅か10歳で父親が殺されてしまう。これを機に国王になる夢を持つ。仲間と苦難を乗り越え、王になっていく物語

かくまい重蔵 《第1巻》

麦畑 錬
歴史・時代
時は江戸。 寺社奉行の下っ端同心・勝之進(かつのしん)は、町方同心の死体を発見したのをきっかけに、同心の娘・お鈴(りん)と、その一族から仇の濡れ衣を着せられる。 命の危機となった勝之進が頼ったのは、人をかくまう『かくまい稼業』を生業とする御家人・重蔵(じゅうぞう)である。 ところがこの重蔵という男、腕はめっぽう立つが、外に出ることを異常に恐れる奇妙な一面のある男だった。 事件の謎を追うにつれ、明らかになる重蔵の過去と、ふたりの前に立ちはだかる浪人・頭次(とうじ)との忌まわしき確執が明らかになる。 やがて、ひとつの事件をきっかけに、重蔵を取り巻く人々の秘密が繋がってゆくのだった。 強くも弱い侍が織りなす長編江戸活劇。

皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音
歴史・時代
六世紀初頭、皇統断絶の危機に実在した、手白香皇女(たしらかのひめみこ)が主人公です。 旦那さんは歳のうーんと離れた入り婿のくせに態度でかいし、お妃沢山だし、自分より年取った義息子がいるし、、、。 頼りにしていた臣下には裏切られるし、異母姉妹は敵対するし、、、。 そんな中で手白香皇女は苦労するけど、愛息子や色々な人が頑張ってザマァをしてくれる予定です(本当は本人にガツンとさせたいけど、何せファンタジーでは無いので、脚色にも限度が、、、)。 古代史なので資料が少ないのですが、歴史小説なので、作中出てくる事件、人、場所などは、出来るだけ史実を押さえてあります。 手白香皇女を皇后とした継体天皇、そしてその嫡子欽明天皇(仏教伝来時の天皇で聖徳太子のお祖父さん)の子孫が現皇室となります。 R15は保険です。 歴史・時代小説大賞エントリーしてます。 宜しければ応援お願いします。 普段はヤンデレ魔導師の父さまと愉快なイケメン家族に囲まれた元気な女の子の話を書いてます。 読み流すのがお好きな方はそちらもぜひ。

処理中です...