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動かない空の神様

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動かない空の神様
 空の神様は動かない神だと、他の神々から言われていました。太陽と月を空に打ち上げてから、何も仕事をしていなかったからです。
  海の神様は魚たちを育み、山の神様は木々や獣を育みました。しかし、空の神様は何もせず、空の上から人間たちを見守っていました。
 そんなある時、海の神様が言いました。
「人間たちは魚を獲りすぎている。ちょっと困らせてやろう」
 そう言うと、海の神様は大風を吹かし、漁をしている人間たちを困らせました。
「人間たちは山の木々を切り、獣を獲りすぎている。少し困らせてやろう」
 そう言うと、山の神様は木々を大きく成長させ、人間たちを暗い山に迷わせてしまいました。
 その様子を空の神様は、ただ眺めているだけでした。
「どうしたんだ空の神よ。お前は何もしないのか?」
 二人の神様に言われても、空の神様はただ空の上から人間たちを見守っているだけでした。
 そんなある時でした。海をさ迷っていた人間が叫びました。
「太陽はいつも同じ方向から昇ってくる。そっちの方角に進んでいけば、いつか陸地が見えるかもしれない」
 人間たちは一生懸命舟を漕ぎ、ついに陸地に辿り着きました。
山をさ迷っていた人間も叫びました。
「どんなに暗くても、月の明かりが私たちを照らしてくれる。月が昇る方角に進めば、いつかは山から出られるはずだ」
 人間たちは懸命に木々をかき分け、ついに山から脱出しました。
 それを見ていた二人の神様は、面白くありませんでした。
「よし、なら太陽と月の昇る位置を、勝手に動かしてしまえ」
 二人の神様は太陽と月を、空の神様に黙って、勝手に時期によって昇る位置を変えてしまいました。それでも、空の神様は空の上から人間たちを見守っていました。
 太陽と月の位置の違いに驚いている人間たちを見た二人の神様は満足げに頷き、居眠りをし始めました。
 それにも関わらず、空の神様は太陽と月の位置を直そうとはしませんでした。
 二人の神様が目覚めると、なんと人間たちは以前と変わらぬ、それ以上の暮らしをしていました。
「空の神よ。お前が何かしたのか?」
 二人の神様は空の神様を問い詰めましたが、空の神様は人間を見守っているだけで、何もしていませんでした。代わりに、口を開きました。
「人間は、お前たちが太陽と月の位置を変えた事で、いつ魚が獲れるか、いつ木々に実がなるかを知ったようだぞ?」
 二人の神様は大慌てで、空の上から人間たちを眺めました。
 空の神様の言った通り、人間たちは太陽や月の位置から四季を予測し、その時々にあった暮らしを育んでいました。
それを見た二人の神様は、「もう人間を困らせるのは止めよう」と言いました。何故なら、人間は困らせれば困らせるほど、強くなっていく生き物だったからです。
 それを聞いていた空の神様はようやく重い腰を上げ、夜に見える小さな星をたくさん打ち上げました。
「そんなもの、打ち上げてどうするんだ?」
 二人の神様は口を揃えて言いました。そして、空の神様は口を開きました。
「私はずっと、空の上から人間たちを見守ってきた。空の上から私たち神々が人間を見つめてきたように、空の下から人間たちも、私たち神々を見つめていたのだ。私はもっと、人間たちを試してみたい」
 しかし、空の神様が打ち上げた星々は勝手気ままに飛び散り、どれがどれだかわからなくなっていました。
「この中で一つだけ、動かない星を打ち上げた。人間は、これに気がつくだろうか?」
 空の神様は少し笑いつつ、たった一つの動かない星に住み始めました。
空の神様は、他の神々が人間にあらゆる物事をしても動じる事無く、人間たちを見守っていました。
 空の神様は何もしていないように見えましたが、一つだけ他の神々とは違ったことがありました。それは、人間を信じているという事です。
人間は神々が苦難を与えても、それを乗り越えて生きていく。だから自分が動かずとも、見守っているだけでいいと考えていたのです。
空の神様は今日も、いつか人間たちが自分のいる星を見つけてくれることを信じつつ、空の上から人間たちを見守っています。

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