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僕は少し、予想外だった。お父さんもキドさんのように叩いてくるか、怒って来るかと僕は思っていたのだ。
しかし、お父さんはいつも通りの表情で、シキさんと共に歩いてきた。シキさんも、いつも通りの表情に僕には見えた。
ふと、後ろが騒がしくなったと思い振り返ると、皆が船に近づき、荷を降ろしていた。最初から海岸近くにいて、僕の見えないところにいたのだろう。
僕は会いたい人たちの顔を思い浮かべようとする心を、必死に押しつぶした。自分の弱い部分が出て来てしまい、泣き出しそうになってしまうと思ったからだ。
磯につくと太陽が海に沈み、赤い光となって僕たちを照らした。
「僕は、村に帰りたいです」
僕は二人に向かって言った。
「で、聞きたい事、あるんだろ?」
シキさんに促され、僕は他人の過去に土足で入り込む事への罪悪感が胸内にあふれながらも、口を開いた。
「シキさんは、お父さんの事をどう思っているんですか。怨んだり、していませんか?」
僕が言葉を口から発すると、お父さんは『やっぱりか』という様な表情をしたが、シキさんの表情は変わらなかった。
「カラは、ヲンが変わってない。他人を、傷つける。レイっていう入江の子にも、そうするだろうと、思っているのか?」
シキさんの問いに、僕は「かもしれないと思って、僕はお父さんを軽蔑しました」と、正直に答えた。
しばらく僕らは黙り込み、太陽が完全に海に沈んだ時、シキさんが口を開いた。
「俺は、ヲンが嫌いだ」
シキさんの言葉が間違いであって欲しいと僕は思った。シキさんは、まだお父さんを赦していないのだ。
「たぶん、ずっとだ」
僕はシキさんの口から出る言葉に、耳を塞ぎたくなった。聞くんじゃなかったとさえ思った。
「でも、カラは好きだ。それじゃ、駄目なのか?」
シキさんが僕の名前を言い、僕は戸惑った。
「え、どういう事ですか?」
「俺は、カラが好きだ。それじゃ、駄目なのか?」
シキさんは同じ言葉を言い、僕はさらに戸惑った。
「シキさんは、お父さんが嫌いなんですよね?」
僕が確認するように尋ねると、シキさんは頷いた。
「カラは、俺がヲンを好きにならなければならないとでも、思って、いるのか?」
シキさんに言われ、僕は自分の勝手な理想を、シキさんに押し付けている事に気がついた。
「そんな事までは思っていません。ですが、僕はお父さんがシキさんを仲間外れにした頃と、変わっていないところがあると思っています。それを、シキさんに尋ねたくて」
僕が言うと、シキさんはお父さんの顔を眺めた。
「無い、とは言えない。ヲンは、何か隠している。だから、ガンさんやキンさんに、遠慮している所がある、と、俺は思っている」
僕も、それは感じていた。お父さんは酋長だが、どこかガンさんやキンさんに遠慮するような、何かを決める事に迷う事が多い気がしていたのだ。
「ヲン、俺はそれが聞きたくて、カラと来た。いつまで、お前は一人で苦しんでいるつもりだ?」
シキさんの珍しく重い声色だった。お父さんは僕たちから顔を背けそうになったが、一度目をつぶり、僕の方に向き直った。
「俺はカラの思っているような、軽蔑されるような人間だ」
お父さんは僕の見た事も無いような、今にも泣きそうな顔つきになった。
「俺は是川の村人よりも、妻とアラ、カラを優先させたんだ。そんな俺が、どうして酋長なんてやっているのか、分からなくなる時があるんだ」
それから、お父さんの口から12年前の真実が語られた。
僕は少し、予想外だった。お父さんもキドさんのように叩いてくるか、怒って来るかと僕は思っていたのだ。
しかし、お父さんはいつも通りの表情で、シキさんと共に歩いてきた。シキさんも、いつも通りの表情に僕には見えた。
ふと、後ろが騒がしくなったと思い振り返ると、皆が船に近づき、荷を降ろしていた。最初から海岸近くにいて、僕の見えないところにいたのだろう。
僕は会いたい人たちの顔を思い浮かべようとする心を、必死に押しつぶした。自分の弱い部分が出て来てしまい、泣き出しそうになってしまうと思ったからだ。
磯につくと太陽が海に沈み、赤い光となって僕たちを照らした。
「僕は、村に帰りたいです」
僕は二人に向かって言った。
「で、聞きたい事、あるんだろ?」
シキさんに促され、僕は他人の過去に土足で入り込む事への罪悪感が胸内にあふれながらも、口を開いた。
「シキさんは、お父さんの事をどう思っているんですか。怨んだり、していませんか?」
僕が言葉を口から発すると、お父さんは『やっぱりか』という様な表情をしたが、シキさんの表情は変わらなかった。
「カラは、ヲンが変わってない。他人を、傷つける。レイっていう入江の子にも、そうするだろうと、思っているのか?」
シキさんの問いに、僕は「かもしれないと思って、僕はお父さんを軽蔑しました」と、正直に答えた。
しばらく僕らは黙り込み、太陽が完全に海に沈んだ時、シキさんが口を開いた。
「俺は、ヲンが嫌いだ」
シキさんの言葉が間違いであって欲しいと僕は思った。シキさんは、まだお父さんを赦していないのだ。
「たぶん、ずっとだ」
僕はシキさんの口から出る言葉に、耳を塞ぎたくなった。聞くんじゃなかったとさえ思った。
「でも、カラは好きだ。それじゃ、駄目なのか?」
シキさんが僕の名前を言い、僕は戸惑った。
「え、どういう事ですか?」
「俺は、カラが好きだ。それじゃ、駄目なのか?」
シキさんは同じ言葉を言い、僕はさらに戸惑った。
「シキさんは、お父さんが嫌いなんですよね?」
僕が確認するように尋ねると、シキさんは頷いた。
「カラは、俺がヲンを好きにならなければならないとでも、思って、いるのか?」
シキさんに言われ、僕は自分の勝手な理想を、シキさんに押し付けている事に気がついた。
「そんな事までは思っていません。ですが、僕はお父さんがシキさんを仲間外れにした頃と、変わっていないところがあると思っています。それを、シキさんに尋ねたくて」
僕が言うと、シキさんはお父さんの顔を眺めた。
「無い、とは言えない。ヲンは、何か隠している。だから、ガンさんやキンさんに、遠慮している所がある、と、俺は思っている」
僕も、それは感じていた。お父さんは酋長だが、どこかガンさんやキンさんに遠慮するような、何かを決める事に迷う事が多い気がしていたのだ。
「ヲン、俺はそれが聞きたくて、カラと来た。いつまで、お前は一人で苦しんでいるつもりだ?」
シキさんの珍しく重い声色だった。お父さんは僕たちから顔を背けそうになったが、一度目をつぶり、僕の方に向き直った。
「俺はカラの思っているような、軽蔑されるような人間だ」
お父さんは僕の見た事も無いような、今にも泣きそうな顔つきになった。
「俺は是川の村人よりも、妻とアラ、カラを優先させたんだ。そんな俺が、どうして酋長なんてやっているのか、分からなくなる時があるんだ」
それから、お父さんの口から12年前の真実が語られた。
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