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カラSide 3-4
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カラSide
3―4
僕は何度も『会ったら、こう言おう』と、思いつく限りの想像を頭の中で繰り返していた。しかし、実際に会ってみないと相手の考えている事は分からず、勝手に相手の考えを想像しているだけなのだ。
「どうしようかな」
僕の呟きに答えたのは、いつの間にか近くにいたヌイさんだった。
「どうするとは、ただ『ごめんなさい。僕をもう一度村に入れて下さい』とでも言えばいいだろう?」
ヌイさんはサキさんの作った物の臭いをぷんぷんさせつつ、僕に臭い息を吹きかけた。
「そうですけど。僕にはまだ、知りたいことがあるんです」
僕の頭にあるのは、やはりお父さんとシキさんの事だった。シキさんは、お父さんの事をどう思っているのか。お父さんは、昔の事をどう思っているのか。僕は今、直接尋ねられない問題に頭を抱えていた。
「ふむ。実はな、もしお前さんが入江に移住するのなら、ワシは次の酋長にお前さんを押すつもりだったんじゃぞ?」
突然の言葉に、僕は「本当ですか?」と、驚きの声をあげた。
「嘘じゃ」
「え?」
「酋長とは、村の人間を全員見る目を持っているか、ワシのように朗でいることが条件じゃ。お前さんは一人で悩んだり、二人で悩んだり、皆で悩んだりする。お前さんの目は、村の人間を全員見る目を持っておらず、ワシのように朗でもない」
ヌイさんに言われ、僕は「そうですね」と正直に答えた。確かに、僕は酋長に向かないと自分でも感じている。
「それに、悪知恵も無い。実はな、ワシはずいぶん前から元気になっておったんじゃ」
突然の言葉に、僕は「本当ですか?」と、驚きの声をあげた。
「本当じゃ」
「え、どうしてですか?」
「お前さんらが色々と考えている間に、ワシはグエを使って情報を逐一集めておったんじゃ。北黄金集落の『忘れ物』についても知っておるし、横になっておっても、村の事は考えておったんじゃ。そして、ワシがちょうどいいと思った時期にリウの件を言い、グエにリウの話し相手になる様に頼んでおいたんじゃ」
ヌイさんの話を聞いて、僕は『元気になった時から、ヌイさんが動いていれば良かったんじゃないか』と思った。
「ワシは老い先短いんじゃぞ。次の若者に任せる事も必用じゃ。レイにサキ、トウやハムなどの女子供、大人たちも混じり、問題の解決を考えさせる必要があったんじゃ」
僕の考えを読んだかのように、ヌイさんは言った。
「僕は、役に立ったんでしょうか。それとも、問題を引き起こしてしまった原因でしょうか?」
僕がヌイさんに尋ねると、ヌイさんは「そんなの、ワシにわかるわけがない。わかるのは、ずっと後になってからじゃ」と言い、また僕に臭い息を吹きかけた。
「ただ、ワシがわかるのは足を止めてはならんという事じゃ」
「足を、ですか?」
「悩んで立ち止まる事が、一番駄目な事だ。いや、お前さんのように逃げてしまう事の方が、駄目な事かな?」
ヌイさんは僕の目をじっと見た後、口を開いた。
「親が、一番心配していると思うぞ?」
僕はヌイさんの言葉を聞き、自然と目頭が熱くなるのを感じた。
3―4
僕は何度も『会ったら、こう言おう』と、思いつく限りの想像を頭の中で繰り返していた。しかし、実際に会ってみないと相手の考えている事は分からず、勝手に相手の考えを想像しているだけなのだ。
「どうしようかな」
僕の呟きに答えたのは、いつの間にか近くにいたヌイさんだった。
「どうするとは、ただ『ごめんなさい。僕をもう一度村に入れて下さい』とでも言えばいいだろう?」
ヌイさんはサキさんの作った物の臭いをぷんぷんさせつつ、僕に臭い息を吹きかけた。
「そうですけど。僕にはまだ、知りたいことがあるんです」
僕の頭にあるのは、やはりお父さんとシキさんの事だった。シキさんは、お父さんの事をどう思っているのか。お父さんは、昔の事をどう思っているのか。僕は今、直接尋ねられない問題に頭を抱えていた。
「ふむ。実はな、もしお前さんが入江に移住するのなら、ワシは次の酋長にお前さんを押すつもりだったんじゃぞ?」
突然の言葉に、僕は「本当ですか?」と、驚きの声をあげた。
「嘘じゃ」
「え?」
「酋長とは、村の人間を全員見る目を持っているか、ワシのように朗でいることが条件じゃ。お前さんは一人で悩んだり、二人で悩んだり、皆で悩んだりする。お前さんの目は、村の人間を全員見る目を持っておらず、ワシのように朗でもない」
ヌイさんに言われ、僕は「そうですね」と正直に答えた。確かに、僕は酋長に向かないと自分でも感じている。
「それに、悪知恵も無い。実はな、ワシはずいぶん前から元気になっておったんじゃ」
突然の言葉に、僕は「本当ですか?」と、驚きの声をあげた。
「本当じゃ」
「え、どうしてですか?」
「お前さんらが色々と考えている間に、ワシはグエを使って情報を逐一集めておったんじゃ。北黄金集落の『忘れ物』についても知っておるし、横になっておっても、村の事は考えておったんじゃ。そして、ワシがちょうどいいと思った時期にリウの件を言い、グエにリウの話し相手になる様に頼んでおいたんじゃ」
ヌイさんの話を聞いて、僕は『元気になった時から、ヌイさんが動いていれば良かったんじゃないか』と思った。
「ワシは老い先短いんじゃぞ。次の若者に任せる事も必用じゃ。レイにサキ、トウやハムなどの女子供、大人たちも混じり、問題の解決を考えさせる必要があったんじゃ」
僕の考えを読んだかのように、ヌイさんは言った。
「僕は、役に立ったんでしょうか。それとも、問題を引き起こしてしまった原因でしょうか?」
僕がヌイさんに尋ねると、ヌイさんは「そんなの、ワシにわかるわけがない。わかるのは、ずっと後になってからじゃ」と言い、また僕に臭い息を吹きかけた。
「ただ、ワシがわかるのは足を止めてはならんという事じゃ」
「足を、ですか?」
「悩んで立ち止まる事が、一番駄目な事だ。いや、お前さんのように逃げてしまう事の方が、駄目な事かな?」
ヌイさんは僕の目をじっと見た後、口を開いた。
「親が、一番心配していると思うぞ?」
僕はヌイさんの言葉を聞き、自然と目頭が熱くなるのを感じた。
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