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サキSide 4

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サキSide 4
 どろどろとした臭い物が完成した。北黄金集落に『忘れ物』を探しに行った人たちに食べてもらった物とは違い、これは完全に臭い物だ。これで冬の間、大人の男性たちは過ごしたようなものだ。
「あ、そう言えば秋田の人に名前を聞くのを忘れていたわ」
 名前というのは、この『どろどろとした臭い物』の名前と、造り方を教えた人の名前だ。
「会ったことは無いのに、一緒に造ってみたら、何となく誰かに似ていた気がするのよね」
 私は男性の事を思い出しつつ、凄まじい臭いのする土器の蓋を厳重に締めた。
「サキ、出来たのかい?」
 どろどろとした臭い物専用の廃屋の外から、モニさんの声が聞こえた。
「出来ましたよ。これで、是川の人たちをもてなす準備と、冬の間の食料は大丈夫です」
 私が答えると、モニさんは笑いながら「冬は、男どもにみんな食べられちゃうだろうけどね」と言いつつ、中に入って来た。
「相変わらず、臭いわね」
「ありがとうございます」
 モニさんのこの言葉は誉め言葉だ。と、私は思っている。でも、モニさんはこれを食べない事に、少しの寂しさがあった。
「ちょっと、ヌイに食べさせる分を貰ってもいいかい?」
「あ、まだヌイさんは寝込んでいるんですか?」
 ヌイさんは季節が変わる頃から、体調を崩している。ちょうど、カラが来た時期だ。
「こいつを無理矢理口の中に突っ込めば、元気になりそうな気がしてね」
 私はモニさんが持ってきた小さな土器に、アレを入れた。
「さて、レイの神様扱いを止める手段は考えついたかね?」
 モニさんに問われ、私は「まだ、わかりません」と答えた。
 モニさんはヌイさんの、酋長の代わりに雑事を行っており、多忙な日々を送っている。そのため、カラの事や、村が二つの派に分かれている事に、あまり関わらせないようにしてきた。
「まあ、出来ないでしょうね」
 モニさんは鼻を抓みつつ、土器の蓋を厳重に締めた。
「出来ないって、どういう事ですか?」
 私が尋ねると、モニさんは「年をとらなければ分からない。経験しなければわからない。言えない事も多いのよ」と答え、廃屋から出て行った。

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