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カラSide 3-1
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カラSide
3―1
大人の儀式の前日、僕たち子どもも含めて大人たちの会議に参加した。議題は食料不足についての話だった。
「今年は飢饉になるかもしれない。それを意識してこれからの事を、年齢に関係なく自由に意見を言って欲しい」
お父さんが僕たち子どもや、装飾品造りをしているナホさんやミイも含めて、集まっている全員の顔を見渡した。
こんなに大勢が一度に集まるのは祭事の時くらいで、とても珍しかった。
「食料不足って、もう貯蔵してある食料も無いってことですか?」
イケが恐る恐る、声をあげた。
「いや、そこは大丈夫だ。去年採れた木の実の類の多くは冬の間に食べたが、土の下に蓄えてある木の実類はまだ残っていている」
ウドさんの言葉に、イケはホッとしたような顔つきになった。
「だが、病人や女性の食べる精のつく物が足りないのは事実だろう?」
イケの隣にいるガイさんが、ウドさんとヤンさんの顔を見ながら言葉を発した。そして、ヤンさんが口を開いた。
「問題はそこです。ガイさんの懸念の通り、妊娠した女性や、産後の女性に食べさせるべき食料の欠乏があります」
ヤンさんが話し終えると、皆の顔がキンさんに向いた。主にキンさんが、女性の食料管理をしているからだ。
「すぐに無くなる、という事は無い。タケは『干しキノコなら十分にある』と言っておった。食料に困るという『飢饉』という言葉はあまり適切ではないと、私は思っている。12年前と違い、備蓄はあり、山菜もある程度採れ、魚が全く獲れないという事も無い」
キンさんの言葉に、ガンさんが頷いた。
「ワシらの村は大丈夫だと言える。だが、他の村はどうだかはわからん。ワシらが率先して村同士の交流を行おうとしておるのに、他の村が食料不足になっていたらどうするか。この村が手助けしないというのはおかしな話になってしまう」
ガンさんの言葉に、僕は困惑した。
「僕が、村同士の交流をしようと言ったのがいけなかったのでしょうか?」
「無い。カラは、悪くない」
僕の言葉が口から出た瞬間、真っ先に口を開いたのは意外にもシキさんだった。僕とシキさんは顔を合わせた事はあっても、ほとんど話したことが無かったからだ。
「僕もそう思います。第一、村同士の交流があってこそ、村は発展します。今こそ助け合うべきじゃないでしょうか?」
コシさんが少し、早口で言った。僕はそれで、少しホッとした。
「みんな、前提がずれているぞ。まだ他の村が全て食料不足になっているという確証は無いんだ。今は、俺たちの村が食料不足になるかもしれないという話し合いのはずだ」
ジンさんの言葉に、多数の人たちが頷いた。
「ジンの言う通りだ。いったん話をまとめよう。是川の村は、半年分の食料はある。問題は秋からの食料と、精のつく物が少ないという事だ」
お父さんが、皆を見渡しながら言った。
「まず、現段階で私たちに何が出来るかを考えましょう。私たち女性は、装飾品造りが出来ます。入江との交流もあり、三内に持って行っても恥ずかしくない物が出来ていると、私は考えています。12年前は異変が少なかった地域もあります。その様な場所との交易を行い、足りないものを今から確保すればいいと思います。そのため、情報が集まりやすい三内に行くべきだと私は思います」
エンさんの言葉に、主に女性たちが頷き、ナホさんとミイさんも「交易品となる物はたくさんあります」と、言葉を続けた。
「そうだな。現段階で出来る事を、まとめる必要があるな」
お父さんが言うと、「交易品となる物品と、三内に行って情報を集める必要がある」と、ガンさんが言葉を続けた。
「よし、明日の大人の儀式の前に、交易品となる物品の確認を女性たちが、三内に行く丸木舟の準備をヤンとガイが中心となって行ってくれ。子供たちはウドとシキと一緒に、山菜が取れる場所の確認と、獣がこの付近にいるかの確認をしてくれ」
お父さんが役割分担を話し終え、この話は大人の儀式が終わった次の日に、もう一度行う事になった。
3―1
大人の儀式の前日、僕たち子どもも含めて大人たちの会議に参加した。議題は食料不足についての話だった。
「今年は飢饉になるかもしれない。それを意識してこれからの事を、年齢に関係なく自由に意見を言って欲しい」
お父さんが僕たち子どもや、装飾品造りをしているナホさんやミイも含めて、集まっている全員の顔を見渡した。
こんなに大勢が一度に集まるのは祭事の時くらいで、とても珍しかった。
「食料不足って、もう貯蔵してある食料も無いってことですか?」
イケが恐る恐る、声をあげた。
「いや、そこは大丈夫だ。去年採れた木の実の類の多くは冬の間に食べたが、土の下に蓄えてある木の実類はまだ残っていている」
ウドさんの言葉に、イケはホッとしたような顔つきになった。
「だが、病人や女性の食べる精のつく物が足りないのは事実だろう?」
イケの隣にいるガイさんが、ウドさんとヤンさんの顔を見ながら言葉を発した。そして、ヤンさんが口を開いた。
「問題はそこです。ガイさんの懸念の通り、妊娠した女性や、産後の女性に食べさせるべき食料の欠乏があります」
ヤンさんが話し終えると、皆の顔がキンさんに向いた。主にキンさんが、女性の食料管理をしているからだ。
「すぐに無くなる、という事は無い。タケは『干しキノコなら十分にある』と言っておった。食料に困るという『飢饉』という言葉はあまり適切ではないと、私は思っている。12年前と違い、備蓄はあり、山菜もある程度採れ、魚が全く獲れないという事も無い」
キンさんの言葉に、ガンさんが頷いた。
「ワシらの村は大丈夫だと言える。だが、他の村はどうだかはわからん。ワシらが率先して村同士の交流を行おうとしておるのに、他の村が食料不足になっていたらどうするか。この村が手助けしないというのはおかしな話になってしまう」
ガンさんの言葉に、僕は困惑した。
「僕が、村同士の交流をしようと言ったのがいけなかったのでしょうか?」
「無い。カラは、悪くない」
僕の言葉が口から出た瞬間、真っ先に口を開いたのは意外にもシキさんだった。僕とシキさんは顔を合わせた事はあっても、ほとんど話したことが無かったからだ。
「僕もそう思います。第一、村同士の交流があってこそ、村は発展します。今こそ助け合うべきじゃないでしょうか?」
コシさんが少し、早口で言った。僕はそれで、少しホッとした。
「みんな、前提がずれているぞ。まだ他の村が全て食料不足になっているという確証は無いんだ。今は、俺たちの村が食料不足になるかもしれないという話し合いのはずだ」
ジンさんの言葉に、多数の人たちが頷いた。
「ジンの言う通りだ。いったん話をまとめよう。是川の村は、半年分の食料はある。問題は秋からの食料と、精のつく物が少ないという事だ」
お父さんが、皆を見渡しながら言った。
「まず、現段階で私たちに何が出来るかを考えましょう。私たち女性は、装飾品造りが出来ます。入江との交流もあり、三内に持って行っても恥ずかしくない物が出来ていると、私は考えています。12年前は異変が少なかった地域もあります。その様な場所との交易を行い、足りないものを今から確保すればいいと思います。そのため、情報が集まりやすい三内に行くべきだと私は思います」
エンさんの言葉に、主に女性たちが頷き、ナホさんとミイさんも「交易品となる物はたくさんあります」と、言葉を続けた。
「そうだな。現段階で出来る事を、まとめる必要があるな」
お父さんが言うと、「交易品となる物品と、三内に行って情報を集める必要がある」と、ガンさんが言葉を続けた。
「よし、明日の大人の儀式の前に、交易品となる物品の確認を女性たちが、三内に行く丸木舟の準備をヤンとガイが中心となって行ってくれ。子供たちはウドとシキと一緒に、山菜が取れる場所の確認と、獣がこの付近にいるかの確認をしてくれ」
お父さんが役割分担を話し終え、この話は大人の儀式が終わった次の日に、もう一度行う事になった。
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