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3―3
 家を出ると、バクさんがラドさんと話をしていた。
「一緒に行くのはいいけど、寄り道はしたくないぞ?」
「わかっているよ。もう、洞窟の中を探検しようなんて言わないよ」
ラドさんはバクさんの扱いに慣れているのか、互いに揶揄しあうように話をしている。
「話は終わったのかい。ロウは弓を持っているね。今日会った時から挑発的な目をしているけど、勝負したいのかい?」
バクさんの言葉に、ロウさんは頷いた。
「勝負か。今の時間帯だと、あっちの海岸近くに海鳥が来る頃だ。それを獲りに行こう」
 ラドさんを先頭に、僕たちは海岸まで歩いて行った。
海岸は砂浜が少なく、是川よりも岩場が多かった。
「この村は、タコの干物が交易品になりそうなんだ」
 ラドさんは木の棒を手に取り、岩場の穴を棒で突っつくと、すぐにタコが現れた。
「どうして、タコのいる場所がわかったんですか?」
 僕が不思議そうに尋ねると、ラドさんは「岩の形が、タコにとって住みやすそうだったから」と、僕たちにはよくわからない事を言った。
「あそこに鳥がいますね」
 ロウさんの視線の先には海鳥が数羽おり、羽を休めていた。
「じゃあ、二人で一緒に矢を放とう。逃げ遅れている鳥に当たった方の勝ち、という事でいいかな?」
 バクさんの言葉にロウさんは頷き、「歩くのは無しで」と条件を付けた。
「わかった。合図はお願いね、ラド」
 ラドさんは「じゃあ、俺が貝を叩いたらそれが合図な」と言い、近くに落ちていた貝殻を拾った。
 ラドさんはしばらく貝殻を持ったまま黙り込み、海鳥の様子を眺めている。どうやら、海鳥が油断しているか確かめている様だ。この真剣な空気に、僕は手に持っていたヤリが汗で、手から滑り落ちそうになった。
 カチンという乾いた音がした瞬間、集まってた海鳥が羽ばたきだし、その動きに一羽がついて行けなかった。
 僕は汗で滑り落ちそうになっているヤリを持ち直しながら、羽ばたいている海鳥の中に潜り込み、飛び立てないでいる海鳥にとどめをさした。矢は二本刺さっていた。
「すごいヤリ捌きだな。飛んでいる鳥も刺せるんじゃないのか?」
ラドさんが笑いながら走ってきた。
「僕は、ロウさんや他の大人たちが放った弓矢に刺さった獲物のとどめを、よくしていますから」
 僕は海鳥が絶命していることを確かめつつ、ヤリを引き抜いた。ほとんど血は出ていない。
「二本刺さっているな。尻の方がロウで、胸がバクだな。どっちが致命傷になるかと言ったら、バクだな」
 ラドさんの判定に、ロウさんは悔しそうな表情を隠せなかった。
「カラに磨いてもらった石器を使ったのに」
 ロウさんは刺さっている矢を引き抜き、石器が破損していないかを確かめた。
「カラが使っているヤリ、すごく細いな。しかも鋭い。これがバクの言っていた二ツ森でとれる石か?」
「いえ、これは是川の村の山でとれた石で造った物です。是川には他にとれるところが無くて、二ツ森で交易品としてもらえないか、お父さんと相談しています」
 僕が言うと、ラドさんは僕のヤリを貸してくれるよう頼んできた。僕が渡すと、ラドさんは軽く振り回し、目の前に獲物がいるような格好で素早く突いた。
「軽くて振りやすい。これで、深く突き刺せるんだろ?」
 ラドさんは、絶命した海鳥の穴に指を突っ込んだ。その穴は、僕のヤリで刺した穴だ。
「そう言えば、ロウが使った矢じりの石器も、去年の物とは違うね」
「はい、カラのヤリの石とは違いますけど、カラに磨いてもらいました」
 僕は冬の間、狩りをする大人たちのために石器を磨いていた。
「二ツ森の石で矢じりを造ったら、どうなるんだろうね。きっと、たくさん獲れるだろうな」
 バクさんはワクワクとした表情になった。
「バクには使わせない方がいいな。海鳥がいなくなっちまうぞ?」
ラドさんの発言で、僕たちは笑った。ただ、ザシさんだけが呟きを漏らし、笑わなかった。
「いいな。俺以外、みんな何か取り柄があって」
 僕は、ザシさんの事を詳しく知っているわけではなかった。ザシさんは、海で漁をするときは船を磨き、網の準備をしていた。山で獲物を狩る時は落とし穴の準備など、表舞台に立たないような仕事をしていた。
「ザシさんが色々とした準備をしているから、みんな安心して仕事が出来るんだと思いますよ」
 僕がそう言っても、ザシさんの表情は変わらなかった。

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