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カラSide 3―1

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カラSide
 3―1
 僕はザシさんとロウさんと共に、バクさんのいる久慈村へと向かう事になった。理由は二つある。
 一つは、栽培した経験がある『アワ』という雑穀についてだ。二ツ森の人たちからは、自分たちの食べる分しか育てておらず、交易品が揃う三内でなら交換してもらえるかもしれないという事だった。
 しかし、種を貰ったとしても、どう栽培すればいいのかが問題であった。
 二ツ森と是川の土壌が違う事を、お父さんとお兄ちゃんは見てきた。二ツ森でアワを育てている場所は地面が固く、定期的に水を撒いているそうだ。その様なやり方が、是川で通じるとは限らない。
そのため、是川と土壌が似ている村と共同して育て、育つ条件を探せば効率が良いのではないかという結論が出た。そこで、僕たちは以前アワを育てた経験のあるバクさんの村、久慈村と、共同して栽培できないかと相談しに行く事になった。
 二つ目は、近隣の村との交流をさらに深めるためだ。是川だけでは渡島の様な遠い村、入江との交流を結ぶだけで手一杯であり、他の地域との交流は難しかった。そのため、交流する地域を村ごとに分担し、それぞれの村が遠い村との交流を図り、さらに村々を発展させようという話だ。
 まず、僕がお父さんに提案し、大人たちの会議で了承された。
「カラ、今年は入江や三内に行けない僻みじゃないだろうな?」
 お兄ちゃんから冗談半分に揶揄されたが、僕の心の半分はそうだと思った。僕はもっと、多くの物事が知りたかったからだ。
 僕一人では子供という事もあり、当然大人も同行することになった。真っ先に手を挙げたのがロウさんであった。
「ロウなら、安心して任せられるな」
 お兄ちゃんも安心したような口ぶりで、ロウさんの肩を叩いていた。
「本当は、バクさんに弓の使い方を習いたいんじゃないんですか?」
僕が会議の後にこっそりと尋ねると、ロウさんは「アラには内緒だぞ」と言って、珍しく喜色を露わにしていた。
 次に手を挙げたのは、ジンさんのお兄さんのザシさんだった。ザシさんは弟のジンさんと違い、僕は何となく消極的な性格の気がしていた。
その理由は去年、お母さんから11年前の事を聞き、ようやくわかった。ザシさんは二度と、あのような経験をしたくないからだろう。自分から何かを提案し、行動する事に恐怖感を抱いているのかもしれないのだ。
 後からジンさんに尋ねてみると、ザシさんの方から「機会があったら、何かやってみたい」と言っていたそうだ。
「カラの影響かもな」
 ジンさんは年の離れている兄という事もあり、自分からザシさんに何かを提案するという事はし辛かったそうだ。さらに、11年前の事を思い出させては酷だと思い、互いに言葉を交わす事が少なかったようだ。
 ザシさんは普通ならば、すでに結婚している年齢だ。女性を乗せた船を転覆させてしまった。その事が重くのしかかり、結婚する事にも抵抗があるのかもしれないと、僕は思った。
 本来なら、酋長であるお父さんも同行すべきなのだが、入江から来る人達をもてなす準備や、豊富に獲れる魚介類を獲る事に忙殺されていた。今年は魚が多く、獲れるようだ。
 準備を整え、村から出発すると、僕とロウさんは海岸と森の間を通り抜けるように進み、後ろでザシさんが目印として木の枝を折りながら進んだ。途中で休憩する事も忘れずに、急な坂道を登たり降ったりしながら、日が傾く前に、山の上から久慈村が見えてきた。
「海から来た方が早かったな」
「そうですね。でも、これからは海の近くの村だけじゃなくて、山に住んでいる人たちとも交流する事になると思います。その訓練だと思えばいいと思いますよ」
 僕は汗まみれになりながら、ロウさんに言った。
是川の村は海岸周辺の村との交流はしていたものの、山に住む人たちの村と交流しなかったのはこれが原因だ。
海ならば、船さえ出せればいつでも交流できるが、山道では時間もかかるし、今までその必要性も感じていなかった。
 しかし、是川の村はさらに発展を遂げなければならないし、人口も増えた。多くの村と交流し、助け合う必要性が出てきたのだ。
「さあ、行こうか」
 ロウさんは足を伸ばしてから立ち上がり、僕も腰を伸ばしてから立ち上がった。
「僕たちは、船に頼りすぎていたのかもしれませんね」
「そうだ。人間は歩く生き物だからな」
 ロウさんは自分の足を軽く叩き、「二本足で歩くのは、どうして人間だけなんだろうな?」と独り言を言いつつ、僕たちは久慈村へと向かった。
「四本足だと、弓を引けないからじゃないですか?」
 弓を手に取り、ワクワクしている素振りを見せているロウさんの背中に僕は声をかけた。

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