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7―9
ヤンさんが急いだ事もあり、入江には予定よりも早く着いた。
「カラ、少し荷物を持ってくれないか?」
「カラ、持たなくていいぞ」
ヤンさんの頼みはお父さんに遮られ、「自業自得だ」と叱られていた。ヤンさんの腕はパンパンで、最後は失速した漕ぎ方になっていた。
「ここが入江なのね。何だか、空気も違うみたい」
ナホさんが深呼吸するように息をし、出迎えてくれた女性らに挨拶をし始めた。
僕は真っ先にサキさんを見つけ、「レイに会いたいんですけど」と、緊張気味に言った。去年、レイが僕に言った言葉は拒絶感に満ち溢れていたもので、僕は会ってくれるかとても心配していた。
「大丈夫よ。レイも、あなたと話がしたいって言っていたわ」
僕は一安心し、お父さんに「レイに会って来る」と言い、お父さんも了承してくれた。
「今度は、逃げるなよ」
僕は去年の自分を思い出し、お父さんの言葉に強く頷いた。
僕はサキさんについていき、家に入った。中には多量の石器があり、その中心にレイがいた。僕は自分から話そうか、それともレイの言葉を待つか、僕とレイは互いに見つめ合う形となり、そのまま時間だけが過ぎだ。僕は、自分から口を開く事にした。
「僕はレイの事を何も知らないのに、勝手に
可哀そうだと思ったり、自分自身と重ねていたんだ。だから、僕は自分の気持ちをちゃんと話して、今度こそ本当にレイと友達になりたいんだ」
僕の言葉に、レイは一度口を開き、閉じて、また口を開いた。
「僕もそうだよ。僕もカラの事を何も知らないのに、勝手に僕だけが自分は何も出来ないって考えて、カラだけは何も苦労せずに自分の好きな事をやっていて、ずるいって思っていたんだ。だから、僕もちゃんとカラの友達になりたいんだ」
僕はレイに歩み寄り、レイは手の力だけで身体を動かして、僕に近づいた。サキさんが土器の中から木杓で羹を掬い、僕とレイの傍に置いた。
「私も一緒に、話を聞いていいかしら。私も、レイとカラに勝手な思い込みをしていたの」
僕たちは夜遅くまで、三人でずっと自分の気持ちを話しあった。
「僕は不安になるんだ。朝起きたら、自分の身体が全部動かなかったらって思うと」
レイの言葉は冗談でも無く、本当の事だろう。両足が動かないのは変わらず、最近は腰回りの動きも悪くなっているそうだ。
「レイ、僕は『覚悟』を決めたよ」
「覚悟って、何?」
レイの問いかけに、僕は「生きる覚悟だよ」と答えた。
「どんな怪我や病気に罹っても、必ず生きて、村のみんなや周辺の村、三内や入江の人たちと生きる『覚悟』だよ。だからレイも決めてほしい。必ず生きるって『覚悟』を決めて、僕と一緒に生きてほしい」
僕の言葉に、レイは少し俯きながら「そのうち、身体全体も動かなくなるかもしれないのに?」と、不安そうに言った。
「うん、生きてほしい。レイが生きれば、レイと同じような病気になった人も生きようとすると思う。僕も大人になった時に村のみんなを守り、生きられるようにしなくちゃいけない。僕は僕自身のために生きながら是川の村を守り、発展させなくちゃいけない。レイも、自分に何が出来るか考えて、僕を助けてほしいし、僕もレイを助けながら生きていきたい」
僕の言葉に、レイは「ちょっと、何を言っているのか分からない部分がある」と、苦笑いをした。僕自身も、自分が何を言っているかよくわからなかった。
「よくわからないけど、二人は友達って事で良いんじゃないかしら?」
サキさんの言葉に、僕たちは二人で頷いた。
「そうだね。友達でいいよね」
「うん。何でも話し合える、相談し合える友達になろう」
こうして、僕とレイは本当に友達になった。ゾンさんが帰って来るまで、三人でずっと話をした。たわいもない話だけれど、一つ一つが大切な気がした。
ヤンさんが急いだ事もあり、入江には予定よりも早く着いた。
「カラ、少し荷物を持ってくれないか?」
「カラ、持たなくていいぞ」
ヤンさんの頼みはお父さんに遮られ、「自業自得だ」と叱られていた。ヤンさんの腕はパンパンで、最後は失速した漕ぎ方になっていた。
「ここが入江なのね。何だか、空気も違うみたい」
ナホさんが深呼吸するように息をし、出迎えてくれた女性らに挨拶をし始めた。
僕は真っ先にサキさんを見つけ、「レイに会いたいんですけど」と、緊張気味に言った。去年、レイが僕に言った言葉は拒絶感に満ち溢れていたもので、僕は会ってくれるかとても心配していた。
「大丈夫よ。レイも、あなたと話がしたいって言っていたわ」
僕は一安心し、お父さんに「レイに会って来る」と言い、お父さんも了承してくれた。
「今度は、逃げるなよ」
僕は去年の自分を思い出し、お父さんの言葉に強く頷いた。
僕はサキさんについていき、家に入った。中には多量の石器があり、その中心にレイがいた。僕は自分から話そうか、それともレイの言葉を待つか、僕とレイは互いに見つめ合う形となり、そのまま時間だけが過ぎだ。僕は、自分から口を開く事にした。
「僕はレイの事を何も知らないのに、勝手に
可哀そうだと思ったり、自分自身と重ねていたんだ。だから、僕は自分の気持ちをちゃんと話して、今度こそ本当にレイと友達になりたいんだ」
僕の言葉に、レイは一度口を開き、閉じて、また口を開いた。
「僕もそうだよ。僕もカラの事を何も知らないのに、勝手に僕だけが自分は何も出来ないって考えて、カラだけは何も苦労せずに自分の好きな事をやっていて、ずるいって思っていたんだ。だから、僕もちゃんとカラの友達になりたいんだ」
僕はレイに歩み寄り、レイは手の力だけで身体を動かして、僕に近づいた。サキさんが土器の中から木杓で羹を掬い、僕とレイの傍に置いた。
「私も一緒に、話を聞いていいかしら。私も、レイとカラに勝手な思い込みをしていたの」
僕たちは夜遅くまで、三人でずっと自分の気持ちを話しあった。
「僕は不安になるんだ。朝起きたら、自分の身体が全部動かなかったらって思うと」
レイの言葉は冗談でも無く、本当の事だろう。両足が動かないのは変わらず、最近は腰回りの動きも悪くなっているそうだ。
「レイ、僕は『覚悟』を決めたよ」
「覚悟って、何?」
レイの問いかけに、僕は「生きる覚悟だよ」と答えた。
「どんな怪我や病気に罹っても、必ず生きて、村のみんなや周辺の村、三内や入江の人たちと生きる『覚悟』だよ。だからレイも決めてほしい。必ず生きるって『覚悟』を決めて、僕と一緒に生きてほしい」
僕の言葉に、レイは少し俯きながら「そのうち、身体全体も動かなくなるかもしれないのに?」と、不安そうに言った。
「うん、生きてほしい。レイが生きれば、レイと同じような病気になった人も生きようとすると思う。僕も大人になった時に村のみんなを守り、生きられるようにしなくちゃいけない。僕は僕自身のために生きながら是川の村を守り、発展させなくちゃいけない。レイも、自分に何が出来るか考えて、僕を助けてほしいし、僕もレイを助けながら生きていきたい」
僕の言葉に、レイは「ちょっと、何を言っているのか分からない部分がある」と、苦笑いをした。僕自身も、自分が何を言っているかよくわからなかった。
「よくわからないけど、二人は友達って事で良いんじゃないかしら?」
サキさんの言葉に、僕たちは二人で頷いた。
「そうだね。友達でいいよね」
「うん。何でも話し合える、相談し合える友達になろう」
こうして、僕とレイは本当に友達になった。ゾンさんが帰って来るまで、三人でずっと話をした。たわいもない話だけれど、一つ一つが大切な気がした。
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