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 夕飯を食べ終えた後、僕は落ち着かない気持ちのまま外に出た。村の中心には火が焚かれ、お父さんら大人たちがまだ会議をしているようだ。
 僕は落ち着かない時、家のそばに置いてある石器用の石を割ったり、磨いたりする。夜遅くまでやっていると、お父さんから「五月蠅い」と怒られる事がある。
「外にも、こんなに材料があるんだ」
 バクさんも外に出てきて、僕の集めた石を眺めた。
「俺は、カラがどうしてレイって子を気にかけているのかは分からないし、たぶん僕もその答えを知らないと思う。でも、一つだけ聞きたい事があるんだ」
 バクさんは少し、真剣な目で僕を見つめてきた。
「カラ、君はどうして頑張るんだい?」
 僕はバクさんの言葉を聞き、頭の中では『自分のため』『村のため』など、色々と言葉が浮かんだ。でも、どれも自分の気持ちに当てはなる言葉は見つからなかった。
「俺にはね、君は『頑張らなくちゃいけない』って、自分に言い聞かせているように見えるんだ」
「言い聞かせている、ですか?」
「うん。まるで、土器を壊した小さな子供が、必死になって直そうとしているように見えるんだ」
 僕にはバクさんの言う様な、壊れている物を直そうとしている気持ちなんて無いと思っている。
「違いますよ」
 僕が反論すると、バクさんは話を続けた。
「それじゃあ、どうして二ツ森の村で10年前の事を聞いたんだい。10年前の事を知っている人なら、誰も聞きたがらないし、聞こうともしない。君の口が滑った様にも見えなかった。君はレイって子を気にする以前に、10年前の事を気にしているように、俺には見えるんだ」
バクさんはそう言って、家の中に入っていった。一人残された僕は、何となしに村の中を歩き回った。
 いつもは気にならない、あまり気にしようとしなかった。10年前に亡くなった赤ん坊や子供、流産して亡くなった未熟児らが埋葬されている場所が気になった。
僕だけが赤ん坊の中で生き残り、今も生き続けている。何だか土の下に埋められ、海に還った人たちに対して、自分だけ生きていて悪い様な気がしてきた。
「僕は、僕だけが生き残った事に対して、悪い事だと思っているのかな?」
 僕の呟きは大人たちの会議が終わった歓声の声にかき消され、誰にも聞こえなかっただろう。
 ただ、僕は自分が生きている事に対して『罪悪感』を抱いている事に気がついてしまった。
『僕なんて必要ないんだ』
 去年、レイから言われた言葉を思い出した。あの時のレイは興奮しており、それが本心だったのかどうかは分からない。でも、その言葉はレイ自身が抱いてしまった、罪悪感に満ちたものであった。自分自身は邪魔者で、必要とされないという気持ちから生まれたものだろう。
 レイはその後、何があったのかは分からない。でも、また石器造りを始め、サキさんも勾玉を作った。どういう心境の変化があったのだろう。
『お前さんには、覚悟はあるのか?』
 僕は冬に、キノジイから言われた言葉も思い出した。
「僕は、どうして頑張るんだろう?」
 バクさんからの問いかけにも、僕は答えられそうになかった。

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