120 / 375
5-8
しおりを挟む
5―8
二人は二ツ森の住人で、今年は海の近くに住んでいるとのことだった。
「ほら、ここが湖だって言ったじゃないですか」
女の子たちに二ツ森の村まで案内してもらった僕たちの中で、バクさんが真っ先に口を開いた。
「ほっほっほ、ここの湖をよく知らん者からすれば、ここは湖ではなく海に見えるかもしれんのう」
この村の酋長が笑いながら、バクさんの肩を叩いた。僕たちがあまりにも疑い、かつ喧嘩腰になっていたと、先ほどの女の子たちが報告したようで、酋長はこの辺りの地形について説明した。
「この辺りは、潮が満ちると湖はしょっぱくなって、潮が引くとしょっぱくなくなるんじゃ。山の方に行けば、完全にしょっぱくなくなる湖じゃ。ところで、お前さんは何処かで会った事がある気がするのう?」
二ツ森の酋長が、バクさんの顔を見ながら言った。
「そうです。以前、助けていただいたバクです」
バクさんが礼儀を正して言うと、村の人たちが笑いだした。
「ああ、思い出したぞ。三内から山を越えてきて、途中で喉が渇いて動けなくなった者か。この村に運ぶと『水がたくさんある』と叫んで、湖の水を飲み干さんとばかりに飲みこんで、飲み過ぎて寝込んだ者の名がバクだったが、元気にしておったか。今回はちゃんと、水を持ってきておるか?」
バクさんは今思い出したかのように、顔を赤くした。
「こんなやつに、俺たちは先頭を任せていたのか」
ホウさんが力無く呟いた。僕も含め、たぶん皆が同じ気持ちだっただろう。
「いやいや、そんな事は無いぞ。こやつがおらんかったら、お主らが二ツ森に来る事は無かった。ワシらも長年、この湖のそばで暮しておったから、他の村の事をほとんど知らず、この男から多くの事を聞き、様々な物事を学んだんじゃ」
酋長は本心で言っているように見え、ウドさんとホウさんはようやく、怒りの矛先を治めた。
「ところで、この村にどんな用件があって来たんじゃ?」
酋長の言葉に「俺から話します」と、お兄ちゃんが声をあげた。
お兄ちゃんが説明をしている間、僕は周りにいる人たちを見た。僕たちよりも分厚い植物の繊維で作った服を着ており、毛皮を付けている人はほとんどいなかった。土器類は装飾がほとんどなく、入江よりも北の人たちが使うと聞いている、円筒型のものだった。
「なるほど。この村と交易ではなく、ひとまず『挨拶』といったところかな?」
「はい。俺たちも、まだ知らない村々がたくさんあります。互いに助け合っていくために、多くの村と親交を深めたいのです」
お兄ちゃんが酋長と話し、酋長は「よかろう」と言い、即決した。
「驚く事ではない。ワシらもこの湖だけで生活する事は、同じ事の繰り返しではないかという若い者の意見も出てきた所じゃ。ワシらは長く山の神と共にあったが、海の神とも共に生きる時が来たのかもしれん」
二ツ森の酋長は満足げに言い、お兄ちゃんと固い握手を交わした。
こうして、僕たちは二ツ森の村との交流をする事となった。
二人は二ツ森の住人で、今年は海の近くに住んでいるとのことだった。
「ほら、ここが湖だって言ったじゃないですか」
女の子たちに二ツ森の村まで案内してもらった僕たちの中で、バクさんが真っ先に口を開いた。
「ほっほっほ、ここの湖をよく知らん者からすれば、ここは湖ではなく海に見えるかもしれんのう」
この村の酋長が笑いながら、バクさんの肩を叩いた。僕たちがあまりにも疑い、かつ喧嘩腰になっていたと、先ほどの女の子たちが報告したようで、酋長はこの辺りの地形について説明した。
「この辺りは、潮が満ちると湖はしょっぱくなって、潮が引くとしょっぱくなくなるんじゃ。山の方に行けば、完全にしょっぱくなくなる湖じゃ。ところで、お前さんは何処かで会った事がある気がするのう?」
二ツ森の酋長が、バクさんの顔を見ながら言った。
「そうです。以前、助けていただいたバクです」
バクさんが礼儀を正して言うと、村の人たちが笑いだした。
「ああ、思い出したぞ。三内から山を越えてきて、途中で喉が渇いて動けなくなった者か。この村に運ぶと『水がたくさんある』と叫んで、湖の水を飲み干さんとばかりに飲みこんで、飲み過ぎて寝込んだ者の名がバクだったが、元気にしておったか。今回はちゃんと、水を持ってきておるか?」
バクさんは今思い出したかのように、顔を赤くした。
「こんなやつに、俺たちは先頭を任せていたのか」
ホウさんが力無く呟いた。僕も含め、たぶん皆が同じ気持ちだっただろう。
「いやいや、そんな事は無いぞ。こやつがおらんかったら、お主らが二ツ森に来る事は無かった。ワシらも長年、この湖のそばで暮しておったから、他の村の事をほとんど知らず、この男から多くの事を聞き、様々な物事を学んだんじゃ」
酋長は本心で言っているように見え、ウドさんとホウさんはようやく、怒りの矛先を治めた。
「ところで、この村にどんな用件があって来たんじゃ?」
酋長の言葉に「俺から話します」と、お兄ちゃんが声をあげた。
お兄ちゃんが説明をしている間、僕は周りにいる人たちを見た。僕たちよりも分厚い植物の繊維で作った服を着ており、毛皮を付けている人はほとんどいなかった。土器類は装飾がほとんどなく、入江よりも北の人たちが使うと聞いている、円筒型のものだった。
「なるほど。この村と交易ではなく、ひとまず『挨拶』といったところかな?」
「はい。俺たちも、まだ知らない村々がたくさんあります。互いに助け合っていくために、多くの村と親交を深めたいのです」
お兄ちゃんが酋長と話し、酋長は「よかろう」と言い、即決した。
「驚く事ではない。ワシらもこの湖だけで生活する事は、同じ事の繰り返しではないかという若い者の意見も出てきた所じゃ。ワシらは長く山の神と共にあったが、海の神とも共に生きる時が来たのかもしれん」
二ツ森の酋長は満足げに言い、お兄ちゃんと固い握手を交わした。
こうして、僕たちは二ツ森の村との交流をする事となった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~
波月玲音
歴史・時代
六世紀初頭、皇統断絶の危機に実在した、手白香皇女(たしらかのひめみこ)が主人公です。
旦那さんは歳のうーんと離れた入り婿のくせに態度でかいし、お妃沢山だし、自分より年取った義息子がいるし、、、。
頼りにしていた臣下には裏切られるし、異母姉妹は敵対するし、、、。
そんな中で手白香皇女は苦労するけど、愛息子や色々な人が頑張ってザマァをしてくれる予定です(本当は本人にガツンとさせたいけど、何せファンタジーでは無いので、脚色にも限度が、、、)。
古代史なので資料が少ないのですが、歴史小説なので、作中出てくる事件、人、場所などは、出来るだけ史実を押さえてあります。
手白香皇女を皇后とした継体天皇、そしてその嫡子欽明天皇(仏教伝来時の天皇で聖徳太子のお祖父さん)の子孫が現皇室となります。
R15は保険です。
歴史・時代小説大賞エントリーしてます。
宜しければ応援お願いします。
普段はヤンデレ魔導師の父さまと愉快なイケメン家族に囲まれた元気な女の子の話を書いてます。
読み流すのがお好きな方はそちらもぜひ。
An endless & sweet dream 醒めない夢 2024年5月見直し完了 5/19
設樂理沙
ライト文芸
息をするように嘘をつき・・って言葉があるけれど
息をするように浮気を繰り返す夫を持つ果歩。
そしてそんな夫なのに、なかなか見限ることが出来ず
グルグル苦しむ妻。
いつか果歩の望むような理想の家庭を作ることが
できるでしょうか?!
-------------------------------------
加筆修正版として再up
2022年7月7日より不定期更新していきます。
天威矛鳳
こーちゃん
歴史・時代
陳都が日本を統一したが、平和な世の中は訪れず皇帝の政治が気に入らないと不満を持った各地の民、これに加勢する国王によって滅ぼされてしまう。時は流れ、皇鳳国の将軍の子供として生まれた剣吾は、僅か10歳で父親が殺されてしまう。これを機に国王になる夢を持つ。仲間と苦難を乗り越え、王になっていく物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる