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僕は先ほどの事を思い出しつつ、お兄ちゃんが持ってきた木の枝に火種を移し、簡単な羹を作った。
「この干しキノコ美味しいね。確か、お爺さんが一人で作っているって聞いたけど?」
「はい、キノジイが一人で栽培しています」
「いいなぁ、是川の村の人たちは。俺たちの村じゃ、キノコなんてあまり食べないんですよ」
「どうしてですか?」
「毒キノコを食べて、亡くなった人がいるんだよ。虫が食べているキノコなら、大丈夫だって聞いていたんだけどね」
バクさんは首をかしげながら、キノジイの造った干しキノコを口に入れた。
「キノジイの話だと、それは間違いらしいですよ」
「間違いだって、虫が食べているのに?」
「いくら虫が食べるといっても、『腐った肉や排便を食べる虫もいるのだから、信用してはいけない』って、キノジイは言っていました」
「そうか。人間が食べられない物を、虫は平気で食べるもんね。あれ、じゃあどうやって食べられるキノコと毒キノコを見分ければいいんだろう?」
「キノジイは見分けるというより、自分が食べて大丈夫だったキノコを栽培しているんです。食べられるキノコを土の中に埋めたり、倒木の中にキノコを千切って埋め込んだりして、必ず食べられるキノコが育つようにしているんです」
「そうか、ヒエの様な雑穀と同じ事をしているのか」
僕とバクさんがキノコの話題を話していると、ウドさんが「あまりキノジイの秘密をしゃべると、是川の交易品が一つ無くなるぞ」と、冗談半分に茶化してきた。
「バクさんの村は、何を交易品として造っているんですか?」
お兄ちゃんが、話題を変えるようにバクさんに尋ねた。
「そうだなぁ、実はあまり無いんだ。是川よりも人口が少ないし、同じように貝の装飾品を造るくらいだな。漆もあまり採れないし」
バクさんが残念そう答えると、ホウさんが「あれ?」という、疑問の声を出した。
「以前、新しい『アワ』っていうヒエに似た雑穀を栽培し始めたって聞いたけど?」
ホウさんの質問に、バクさんは「あれは、上手くいかなかったなー」と、またも残念そうに言った。
「アワって、ヒエみたいな雑穀ですよね。三内で見た事があります」
僕が言うと、バクさんは「そう。三内では交易品として見られるんだ」と、前置きをしてから話を続けた。
「南の方から来た人たちから分けてもらって、蒔いてみたんだ。育ったには育ったんだけど、ほとんど実らなかったんだ」
「どうしてでしょうか?」
お兄ちゃんも、興味深そうに尋ねてきた。
「たぶん、寒かったのが原因かな。ヒエはいつも通り実ったし。アワは南の方で育つものだから、きっと寒さには弱かったんだ。蒔いた年はいつもより少し寒かった事も原因かもしれないね。でも、俺たちの村はヒエだけで十分に食べていけるってみんなが判断して、アワを育てるより、ヒエを多く育てたほうがいいって事になったんだ」
僕はその言葉を聞いて、自分でもアワを育ててみたいという気持ちが湧く一方で、同じように寒くて育たなければ意味が無いので、やらなくてもいいのではないかという、二つの思いが浮かび上がった。
「でも、アワの方が、ヒエより美味しかったんだよなぁ」
バクさんは、またまた残念そうに呟いた。
僕は先ほどの事を思い出しつつ、お兄ちゃんが持ってきた木の枝に火種を移し、簡単な羹を作った。
「この干しキノコ美味しいね。確か、お爺さんが一人で作っているって聞いたけど?」
「はい、キノジイが一人で栽培しています」
「いいなぁ、是川の村の人たちは。俺たちの村じゃ、キノコなんてあまり食べないんですよ」
「どうしてですか?」
「毒キノコを食べて、亡くなった人がいるんだよ。虫が食べているキノコなら、大丈夫だって聞いていたんだけどね」
バクさんは首をかしげながら、キノジイの造った干しキノコを口に入れた。
「キノジイの話だと、それは間違いらしいですよ」
「間違いだって、虫が食べているのに?」
「いくら虫が食べるといっても、『腐った肉や排便を食べる虫もいるのだから、信用してはいけない』って、キノジイは言っていました」
「そうか。人間が食べられない物を、虫は平気で食べるもんね。あれ、じゃあどうやって食べられるキノコと毒キノコを見分ければいいんだろう?」
「キノジイは見分けるというより、自分が食べて大丈夫だったキノコを栽培しているんです。食べられるキノコを土の中に埋めたり、倒木の中にキノコを千切って埋め込んだりして、必ず食べられるキノコが育つようにしているんです」
「そうか、ヒエの様な雑穀と同じ事をしているのか」
僕とバクさんがキノコの話題を話していると、ウドさんが「あまりキノジイの秘密をしゃべると、是川の交易品が一つ無くなるぞ」と、冗談半分に茶化してきた。
「バクさんの村は、何を交易品として造っているんですか?」
お兄ちゃんが、話題を変えるようにバクさんに尋ねた。
「そうだなぁ、実はあまり無いんだ。是川よりも人口が少ないし、同じように貝の装飾品を造るくらいだな。漆もあまり採れないし」
バクさんが残念そう答えると、ホウさんが「あれ?」という、疑問の声を出した。
「以前、新しい『アワ』っていうヒエに似た雑穀を栽培し始めたって聞いたけど?」
ホウさんの質問に、バクさんは「あれは、上手くいかなかったなー」と、またも残念そうに言った。
「アワって、ヒエみたいな雑穀ですよね。三内で見た事があります」
僕が言うと、バクさんは「そう。三内では交易品として見られるんだ」と、前置きをしてから話を続けた。
「南の方から来た人たちから分けてもらって、蒔いてみたんだ。育ったには育ったんだけど、ほとんど実らなかったんだ」
「どうしてでしょうか?」
お兄ちゃんも、興味深そうに尋ねてきた。
「たぶん、寒かったのが原因かな。ヒエはいつも通り実ったし。アワは南の方で育つものだから、きっと寒さには弱かったんだ。蒔いた年はいつもより少し寒かった事も原因かもしれないね。でも、俺たちの村はヒエだけで十分に食べていけるってみんなが判断して、アワを育てるより、ヒエを多く育てたほうがいいって事になったんだ」
僕はその言葉を聞いて、自分でもアワを育ててみたいという気持ちが湧く一方で、同じように寒くて育たなければ意味が無いので、やらなくてもいいのではないかという、二つの思いが浮かび上がった。
「でも、アワの方が、ヒエより美味しかったんだよなぁ」
バクさんは、またまた残念そうに呟いた。
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