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 蔦の採集が終わる頃に、危険な場所の把握も終わった。調べてみると泥濘だけでなく、山が崩れそうな場所もいくつかあった。雨がたくさん降った時には気をつけない個所あり、村人全体で共有しないといけない情報であった。
 履物を造る材料の蔦が揃い、履物はお母さんたちが造ってくれている。
「で、もちろんカラも行くよな?」
 小さな子供たちが食べ残したカニの殻で、土器の水を飲んでいた僕にイバさんが話しかけてきた。
「行くって、何処にです?」
「決まっているだろ。三内の途中までの道のり。湖がある所までだ。まさか、行かないつもりだったのか?」
 僕は「もちろん行くつもりでしたよ」と答えたものの、まだ誰が行くのか決まっていないものだと思っていた。
「僕の他に、子供は行きますか?」
「いや、俺も行った人の話を聞いただけなんだが、海岸沿いでも岩場も多く、危険な場所もあるらしい。ここは少数で、気合いと体力のある者たちで行こうという事になっている」
 イバさんの言葉を聞いて、僕は「僕に、気合いと体力があるのかなぁ」と呟いた。
「おいおい、今さらだな。年はまだ10歳だが、少なくとも俺たちの時よりも、お前は気合いと体力に満ち溢れていると思っているぞ?」
 イバさんはそう言って、僕の肩を叩いた。イバさんの力は、子供の時よりも強くなっているような気がした。
「あと、大人は誰が行く予定ですか?」
「今のところ、ウドさんとホウさんだな」
 僕は少し、ホウさんが行くのは意外だと思った。ホウさんとコンさんは、あれから二人の兄弟を見守る体制にはなっているものの、まだ何処か、心配そうに見つめている時がある。
「僕たちが頼んだんだよ」
 マオが僕に向かって言った。
「何を頼んだの?」
「カラさんと同じ石が欲しいって」
 カオが話を続け、イバさんが「ガンさんが、子離れのいい機会だとも言っていたな」と、続けて言った。
 僕はまだ、自分が大人になって、子供が出来るという事をほとんど想像できない。いつか、わかる日が来るのだろうかと、マオとカオを見ながら思った。

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