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10年前の事実 5
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10年前の事実
5
そんな日が続いたある日の朝、事件が起きた。村から悲鳴が上がり、外からは「誰も家から出るな!」という、お父さんの声が聞こえた。私はカラを抱きしめ、アラから手を離さないようにして、家の中で息を潜めた。
家の外では、熊が村に降りてきていたのだ。山には食料が無く、村にある貯蔵してある食料を狙っていたのだ。熊はその建物に行く前にと言わんばかりに家に侵入し、中にいる村人を襲おうとしていた。
熊は村人を威嚇し、誰も近づけなかった。すでに倒れた村人がおり、村人は恐怖に慄いていた。その熊の片目は潰れており、かつてお父さんが刺した熊だと分かった。
「こっちだ、お前を刺したのは!」
お父さんは熊に向かって弓矢を放ち、熊に向かって叫んだ。熊もお父さんの顔を覚えていたようで、お父さんに向かって襲いかかった。お父さんはそのまま山に逃げ、二つの姿は見えなくなった。
私はお父さんの行動を聞き、気を失いそうになった。だが、私は無事を信じて祈り続けた。
お父さんが帰って来たのは、日が傾いてからだった。血まみれで、村人たちはすぐに手当てをしようとした。しかし、ほとんどは熊の返り血で、お父さんは怪我をしていなかった。
「仕留めてきた。血が道しるべになっているからそこに行ってくれ。大きい熊と、小熊がいる」
お父さんはそう言って、家の中でお湯が沸いている土器の中に、小さな肉片を放り込んだ。
「疲れたから寝る。その肉は、煮えたらお前が食べてくれ」
お父さんはすぐにいびきをかいて眠りにつき、私は土器の中の肉を、火が通ってから食べた。
この日から、私は乳が出るようになり、カラに十分な母乳を与える事ができた。熊の肉の影響かはわからない。ただ、お父さんの頑張りに、私の中の母性が頑張ったのかもしれない。
そして、お父さんの言った通り血を辿っていくと、血まみれで死んでいる熊と小熊の姿がった。親の方はとどめといわんばかりに腹が割かれ、内臓が剥きだしになっていた。村人たちは大きな獲物が獲れた代わりに、村人を失った。
「これ以上、死なせるわけにはいかん」
ガンさんは女性らに、村の外に出ることを禁じた。子供達には必ず年長の者か、判断の早い年長の子供を班長にして行動するように定めた。そして、新しい酋長をお父さんにする提案を、村人たちにした。
お父さんは一人で凶暴な熊と戦い、傷もほとんど無く勝った事によって、村人たちから羨望の目を向けられていた。
「わかりました」
お父さんは短く答え、村人たちみな賛成した。
その後、村には平穏が戻ったものの、女性らを危険な目には会わせたくないという意識だけは残り、三内には行かせないという風潮が是川の村に、今も続いていた。
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そんな日が続いたある日の朝、事件が起きた。村から悲鳴が上がり、外からは「誰も家から出るな!」という、お父さんの声が聞こえた。私はカラを抱きしめ、アラから手を離さないようにして、家の中で息を潜めた。
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「こっちだ、お前を刺したのは!」
お父さんは熊に向かって弓矢を放ち、熊に向かって叫んだ。熊もお父さんの顔を覚えていたようで、お父さんに向かって襲いかかった。お父さんはそのまま山に逃げ、二つの姿は見えなくなった。
私はお父さんの行動を聞き、気を失いそうになった。だが、私は無事を信じて祈り続けた。
お父さんが帰って来たのは、日が傾いてからだった。血まみれで、村人たちはすぐに手当てをしようとした。しかし、ほとんどは熊の返り血で、お父さんは怪我をしていなかった。
「仕留めてきた。血が道しるべになっているからそこに行ってくれ。大きい熊と、小熊がいる」
お父さんはそう言って、家の中でお湯が沸いている土器の中に、小さな肉片を放り込んだ。
「疲れたから寝る。その肉は、煮えたらお前が食べてくれ」
お父さんはすぐにいびきをかいて眠りにつき、私は土器の中の肉を、火が通ってから食べた。
この日から、私は乳が出るようになり、カラに十分な母乳を与える事ができた。熊の肉の影響かはわからない。ただ、お父さんの頑張りに、私の中の母性が頑張ったのかもしれない。
そして、お父さんの言った通り血を辿っていくと、血まみれで死んでいる熊と小熊の姿がった。親の方はとどめといわんばかりに腹が割かれ、内臓が剥きだしになっていた。村人たちは大きな獲物が獲れた代わりに、村人を失った。
「これ以上、死なせるわけにはいかん」
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お父さんは一人で凶暴な熊と戦い、傷もほとんど無く勝った事によって、村人たちから羨望の目を向けられていた。
「わかりました」
お父さんは短く答え、村人たちみな賛成した。
その後、村には平穏が戻ったものの、女性らを危険な目には会わせたくないという意識だけは残り、三内には行かせないという風潮が是川の村に、今も続いていた。
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