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10年前の事実 3

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10年前の事実
  3
 風が涼しくなった頃、ようやく海に魚が戻り、空腹に悩まされる事も無くなった。私たちは安心し、海の恵みに感謝した。それが油断だったのだろうか。空腹だったのは、私たち人間だけではなかった。山の獣たちもだったのだ。
 人間に狩られなかった獣たちは、先を争う様にして木の実を喰らい始めた。それに気がついた村の人たちは子供も含め、みなドングリなどを拾い始めた。この時、子供たちの班長を決めさせておらず、みなバラバラになって木の実類を拾い集めていた。
 そんな時、子供の悲鳴が山に響き渡った。その声の元へいち早く着いたのはお父さんとスガであった。子供は熊に襲われ、すでに血まみれで貪り食われていた。後に、お父さんが「熊も空腹だったんだな」と、思い出したくないように呟いていた。
 スガさんはその光景を見て怒り狂い、お父さんに応援を呼んでくるように叫んでから、熊に向かって石斧を叩き付けた。しかし、その力は弱く、熊に致命傷を与えられなかった。
何故なら、スガは酋長として「俺よりも、子供や女性らに食べさせろ」と言っており、大人の男性の中で一番ものを食べていなかったからだ。
また、春の教訓を生かして、獲れた魚も保存用に回す事にしていた。この時のスガに、熊と一人で戦う体力は無かった。
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