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バウンダリー・オーバー 1
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バウンダリー・オーバー 1
子供は四人か五人のうち、一人しか五歳まで生き残れない。だが、双子の兄弟で五歳まで無事に生き残ったマオとカオは大事にされ、多少わがままに育てられた。それは、村のみなが知っている事であった。
「マオとカオは、春になれば子供の仕事をするようになるんだ。だから、いつまでも悪戯をしたりして、困らせてはいけないぞ?」
ホウとコンは、二人の兄弟が無事に育ってくれた嬉しさと、今手の中に抱いている赤ん坊が、幸せの象徴であった。
しかし、去年の秋に産まれた赤ん坊は冬を越せずに亡くなってしまった。ホウさんとコンさんは『自分たちは何が悪かったのか?』と、悲観に暮れた。
ホウさんが、身重のコンさんの体調を気遣ってやれなかったのか。身重のコンさんが、ホウさんに頼らなかったからなのか。二人は自分たちを責め立てた末、これが無駄な考えだと至った。亡くなった赤ん坊は、誰がどう後悔しても生き返ったりはしない。ならば、今いるマオとカオを大切に育てていこうと二人は決めた。
今年の冬は長く、家に籠り切りの事が多かった。その結果、マオとカオは悲観に暮れる両親を見ない事は出来なかった。
そんな二人の中に、芽生えてしまった感情がある。それは『自分たちは、大事にされていないのではいだろうか?』という感情だった。
無論、ホウとコンにそんな気持ちは微塵もなかった。むしろ、大事にしていた赤ん坊が亡くなった事で、さらに二人に愛情を注ごうとしていた。
だが、マオとカオの受け取り方は違った。両親は秋から冬にかけて、自分たちを放っておきながら、亡くなった赤ん坊を悲観し続けていた。この事が、二人の心の中で次第にわだかまりとなっていった。
一般的な兄弟姉妹で、弟や妹が産まれると、兄や姉が『お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから』と言われ、疎外感を覚える事が多い。
しかし、これは周囲の影響もあり、次第に解消される問題であった。問題なのは、周囲の影響を受けられなかった事だ。
悲観に暮れた両親を傍で見て、次は自分たちを愛そうとする。この両親の変化に、マオとカオは困惑してしまったのだ。まるで、亡くなった赤ん坊の『代わり』に、自分たちを愛しているのではないかと考えるようになった。
長い冬の間、二人はマオとカオを大事にした。いや、『管理をした』と言った方が適切だっただろう。一挙一動を注目し、少しでも自分たちが心配するような事をすれば、泣いて止めた。二人はこれ以上、自分たちの子供を失いたくなかったからだ。
「僕たちより、死んじゃった赤ん坊の方が大事なのかと思った」
話の途中、マオが呟いた言葉だ。
二人は『亡くなった赤ん坊のようにさせたくない』という一心だった。しかし、マオとカオには『亡くなった赤ん坊のように扱われている』と感じられたのだ。それ故、自分たちよりも亡くなった赤ん坊の方を愛していると思ってしまったのだ。
「僕たちは、やりたい事をしようとしてもさせてもらえなかった」
カオが石器造りをしようとすれば、ホウに「父さんがやるから、危ない物を持つな」と言われ、土器の粘土を捏ねる練習をすれば「それはお母さんたち女性の役目よ」と言われ、何もさせてもらえなかったという。
長い冬の間、カラなどの子供らはあまり外に出られなかった。雪が高く積もり、埋まって動けなくなる危険があると、大人たちが判断したからだ。そのため、マオとカオは一日中二人に監視・管理されて過ごしていた。そして、二人はいつしか自分たちからは何も言わず、受け身的な性格になった。
自分たちで何かをすれば、必ず何かを言われるからだ。
子供は四人か五人のうち、一人しか五歳まで生き残れない。だが、双子の兄弟で五歳まで無事に生き残ったマオとカオは大事にされ、多少わがままに育てられた。それは、村のみなが知っている事であった。
「マオとカオは、春になれば子供の仕事をするようになるんだ。だから、いつまでも悪戯をしたりして、困らせてはいけないぞ?」
ホウとコンは、二人の兄弟が無事に育ってくれた嬉しさと、今手の中に抱いている赤ん坊が、幸せの象徴であった。
しかし、去年の秋に産まれた赤ん坊は冬を越せずに亡くなってしまった。ホウさんとコンさんは『自分たちは何が悪かったのか?』と、悲観に暮れた。
ホウさんが、身重のコンさんの体調を気遣ってやれなかったのか。身重のコンさんが、ホウさんに頼らなかったからなのか。二人は自分たちを責め立てた末、これが無駄な考えだと至った。亡くなった赤ん坊は、誰がどう後悔しても生き返ったりはしない。ならば、今いるマオとカオを大切に育てていこうと二人は決めた。
今年の冬は長く、家に籠り切りの事が多かった。その結果、マオとカオは悲観に暮れる両親を見ない事は出来なかった。
そんな二人の中に、芽生えてしまった感情がある。それは『自分たちは、大事にされていないのではいだろうか?』という感情だった。
無論、ホウとコンにそんな気持ちは微塵もなかった。むしろ、大事にしていた赤ん坊が亡くなった事で、さらに二人に愛情を注ごうとしていた。
だが、マオとカオの受け取り方は違った。両親は秋から冬にかけて、自分たちを放っておきながら、亡くなった赤ん坊を悲観し続けていた。この事が、二人の心の中で次第にわだかまりとなっていった。
一般的な兄弟姉妹で、弟や妹が産まれると、兄や姉が『お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから』と言われ、疎外感を覚える事が多い。
しかし、これは周囲の影響もあり、次第に解消される問題であった。問題なのは、周囲の影響を受けられなかった事だ。
悲観に暮れた両親を傍で見て、次は自分たちを愛そうとする。この両親の変化に、マオとカオは困惑してしまったのだ。まるで、亡くなった赤ん坊の『代わり』に、自分たちを愛しているのではないかと考えるようになった。
長い冬の間、二人はマオとカオを大事にした。いや、『管理をした』と言った方が適切だっただろう。一挙一動を注目し、少しでも自分たちが心配するような事をすれば、泣いて止めた。二人はこれ以上、自分たちの子供を失いたくなかったからだ。
「僕たちより、死んじゃった赤ん坊の方が大事なのかと思った」
話の途中、マオが呟いた言葉だ。
二人は『亡くなった赤ん坊のようにさせたくない』という一心だった。しかし、マオとカオには『亡くなった赤ん坊のように扱われている』と感じられたのだ。それ故、自分たちよりも亡くなった赤ん坊の方を愛していると思ってしまったのだ。
「僕たちは、やりたい事をしようとしてもさせてもらえなかった」
カオが石器造りをしようとすれば、ホウに「父さんがやるから、危ない物を持つな」と言われ、土器の粘土を捏ねる練習をすれば「それはお母さんたち女性の役目よ」と言われ、何もさせてもらえなかったという。
長い冬の間、カラなどの子供らはあまり外に出られなかった。雪が高く積もり、埋まって動けなくなる危険があると、大人たちが判断したからだ。そのため、マオとカオは一日中二人に監視・管理されて過ごしていた。そして、二人はいつしか自分たちからは何も言わず、受け身的な性格になった。
自分たちで何かをすれば、必ず何かを言われるからだ。
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