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サキSide 5
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サキSIDE 5
弟がカラに酷い事を言った。ずっと、カラに会う事を楽しみにしていたのにも関わらずにだ。是川の人たちが来る時期になって、弟は少しずつ機嫌が良くなっていき、口数も増えていった。
「カラはどんな石器を造ったかなぁ?」
弟は新しい形の土偶を造る練習として、小さな造形物や細い棒のようなものを造り、焼き始めた。
これらを組み合わせて焼く事が出来れば、人間を模した今風の土偶だけでなく、動物を模した、新しい土偶が作れるかもしれなかった。それはきっと、弟の自信につながると私は信じていた。
だが、カラは弟が思っていた以上に成長していた。すでに、入江にいる子供たちや、まとめ役のマクよりも、もしかしたら大きな存在になっているかもしれなかった。
カラ本人に、その自覚は無いだろう。無かったからこそ、自分の兄に嫉妬され、兄弟喧嘩をしたのだろう。
何よりも成長したと思わせたのが、すぐに兄と和解した事だ。家族は強い絆で結ばれている。だからこそ、一度こじれると関係の修復が難しいのだ。
私も弟の機嫌が悪くなると、数日間必要最低限の会話しかしない事があった。弟が自分から『話したい』という言動をとらない限り、私から話しかける事は無かった。それは、父も同じであった。
カラと喧嘩した、いや、自分から拒絶した弟は、カラの事が嫌いなわけではない。自分の意図を察し、自分で石器を造ってきたカラを見て嬉しく思っていただろう。
しかし、カラは弟の出来ない事をやりすぎた。その事を話し過ぎた。それは悪いことでは決してないし、レイにとっても新鮮で、自分に出来る事を考える機会にもなっただろう。
問題はその質と量であった。どんなに弟が頑張ったとしても、出来ない物事であった。だからこそ、弟はカラの様な事が出来ないという惨めな気持ちとなり、カラを拒絶する事となった。
カラを拒絶した夜、弟は家の中で声を出さないようにして泣いていた。次の日には泣きやんでおり、いつもと同じように朝食を食べ、父に運ばれて土器を造る場所に座り、作業を行った。
いつもは言えなかった本心を吐き出したことで、気が楽になったのかとも思ったけれど、レイは動物を模した土器を造ろうとする事を止めてしまった。
「土器を造るだけでいいの?」
私の問いかけに、弟は「もういいんだ」と短く答えた。今の私には、弟の心を開かせるのは無理かもしれないと思い、悲しくなった。出来るとすれば、暴言を吐いた相手、カラだけかもしれない。カラだったからこそ、弟は自分の本心をぶつける事が出来たのかもしれない。
「独りぼっちだと、色々と変に考えちゃうから」
サンおばさんは是川の人たちが帰った後、弟に小さな子供たちの子守りをさせるようになった。私は元気に動き回る小さな子供を、弟が捕まえたりして子守りをする事は出来ないと思っていた。
しかし、小さな子供たちは弟のそばにいる時は大人しく、元気にしゃべったりはするけど、勝手に何処か遠くに行くような事はしなかった。日が経つにつれ、弟の表情も良くなっている気がした。
「どうして小さな子供たちは、レイのそばにいると大人しいの?」
私の問いかけに、サンおばさんは「小さな子供は変に相手を気遣ったりせず、直感で動くのよ」と答えた。
おそらく、サンおばさんの言葉は正解だろう。私が子守りをすると、小さな子どもたちは『私が追いかけられる場所』まで勝手に走っていくからだ。小さな子どもたちは子守りをする相手を見て、行動しているのだろう。
と言う事は、弟は子守りの才能があるのではないだろうか。弟は土器造りよりも、子守りをしていたほうが村に貢献できるのかもしれない。私は半分、これでいいのかもしれないと思った。
もう半分は、子守りばかりだと、自分と同じ年の子供や他の村の人たちとの交流、カラとの交流がほとんどなくなるという事だ。弟は、それで満足するのだろうか。
私は小さな子供と一緒になって、珍しく笑いながら土器用の粘土を捏ねている弟を見て、これからどうするべきなのだろうと考え込んだ。
「あなたも、色々と一人で考え込んじゃっているわよ?」
サンおばさんの言葉が、私の胸に大きく突き刺さった。今は、弟が少しでも笑えるような環境にしてあげよう。私は弟の排便の処理をしつつ、家の中を掃除した。弟の排便が肥料になったのか、家の周りには多くの雑草が生えた。いっそ、ヒエなどの雑穀でも蒔いてみるといいかもしれないと思った。
「私には、何が出来るのかしら?」
自分が弟の事ばかり考えていて、自分の事を何も考えていない事に、私は今更ながら気がついた。
弟がカラに酷い事を言った。ずっと、カラに会う事を楽しみにしていたのにも関わらずにだ。是川の人たちが来る時期になって、弟は少しずつ機嫌が良くなっていき、口数も増えていった。
「カラはどんな石器を造ったかなぁ?」
弟は新しい形の土偶を造る練習として、小さな造形物や細い棒のようなものを造り、焼き始めた。
これらを組み合わせて焼く事が出来れば、人間を模した今風の土偶だけでなく、動物を模した、新しい土偶が作れるかもしれなかった。それはきっと、弟の自信につながると私は信じていた。
だが、カラは弟が思っていた以上に成長していた。すでに、入江にいる子供たちや、まとめ役のマクよりも、もしかしたら大きな存在になっているかもしれなかった。
カラ本人に、その自覚は無いだろう。無かったからこそ、自分の兄に嫉妬され、兄弟喧嘩をしたのだろう。
何よりも成長したと思わせたのが、すぐに兄と和解した事だ。家族は強い絆で結ばれている。だからこそ、一度こじれると関係の修復が難しいのだ。
私も弟の機嫌が悪くなると、数日間必要最低限の会話しかしない事があった。弟が自分から『話したい』という言動をとらない限り、私から話しかける事は無かった。それは、父も同じであった。
カラと喧嘩した、いや、自分から拒絶した弟は、カラの事が嫌いなわけではない。自分の意図を察し、自分で石器を造ってきたカラを見て嬉しく思っていただろう。
しかし、カラは弟の出来ない事をやりすぎた。その事を話し過ぎた。それは悪いことでは決してないし、レイにとっても新鮮で、自分に出来る事を考える機会にもなっただろう。
問題はその質と量であった。どんなに弟が頑張ったとしても、出来ない物事であった。だからこそ、弟はカラの様な事が出来ないという惨めな気持ちとなり、カラを拒絶する事となった。
カラを拒絶した夜、弟は家の中で声を出さないようにして泣いていた。次の日には泣きやんでおり、いつもと同じように朝食を食べ、父に運ばれて土器を造る場所に座り、作業を行った。
いつもは言えなかった本心を吐き出したことで、気が楽になったのかとも思ったけれど、レイは動物を模した土器を造ろうとする事を止めてしまった。
「土器を造るだけでいいの?」
私の問いかけに、弟は「もういいんだ」と短く答えた。今の私には、弟の心を開かせるのは無理かもしれないと思い、悲しくなった。出来るとすれば、暴言を吐いた相手、カラだけかもしれない。カラだったからこそ、弟は自分の本心をぶつける事が出来たのかもしれない。
「独りぼっちだと、色々と変に考えちゃうから」
サンおばさんは是川の人たちが帰った後、弟に小さな子供たちの子守りをさせるようになった。私は元気に動き回る小さな子供を、弟が捕まえたりして子守りをする事は出来ないと思っていた。
しかし、小さな子供たちは弟のそばにいる時は大人しく、元気にしゃべったりはするけど、勝手に何処か遠くに行くような事はしなかった。日が経つにつれ、弟の表情も良くなっている気がした。
「どうして小さな子供たちは、レイのそばにいると大人しいの?」
私の問いかけに、サンおばさんは「小さな子供は変に相手を気遣ったりせず、直感で動くのよ」と答えた。
おそらく、サンおばさんの言葉は正解だろう。私が子守りをすると、小さな子どもたちは『私が追いかけられる場所』まで勝手に走っていくからだ。小さな子どもたちは子守りをする相手を見て、行動しているのだろう。
と言う事は、弟は子守りの才能があるのではないだろうか。弟は土器造りよりも、子守りをしていたほうが村に貢献できるのかもしれない。私は半分、これでいいのかもしれないと思った。
もう半分は、子守りばかりだと、自分と同じ年の子供や他の村の人たちとの交流、カラとの交流がほとんどなくなるという事だ。弟は、それで満足するのだろうか。
私は小さな子供と一緒になって、珍しく笑いながら土器用の粘土を捏ねている弟を見て、これからどうするべきなのだろうと考え込んだ。
「あなたも、色々と一人で考え込んじゃっているわよ?」
サンおばさんの言葉が、私の胸に大きく突き刺さった。今は、弟が少しでも笑えるような環境にしてあげよう。私は弟の排便の処理をしつつ、家の中を掃除した。弟の排便が肥料になったのか、家の周りには多くの雑草が生えた。いっそ、ヒエなどの雑穀でも蒔いてみるといいかもしれないと思った。
「私には、何が出来るのかしら?」
自分が弟の事ばかり考えていて、自分の事を何も考えていない事に、私は今更ながら気がついた。
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