84 / 375
5-7
しおりを挟む
5―7
「ヨウさんの嘘つき。全然泳げないじゃないか」
午後に子供たちで湖に行くと、イケが真っ先に湖に飛び込んだ。イケは湖を楽しみにしていたのだが、思うように泳ぐことが出来ず、口を尖らせていた。
「ヨウって、去年きた子供の事か?」
僕は入江の子供のハムさんに尋ねられ、「そうです」と答えた。
「ああ、普通は海の方が泳ぎやすいはずなんだけどな」
ハムさんは上手く泳げずにいるロウさんやイケを眺めつつ呟いていたけれど、その声は僕の耳に入らなかった。
是川に帰る前日の夜、宴が開かれ、お兄ちゃんが楽しみにしていて、ロウさんに頼んだ例の腐ったような何が振舞われた。
「うう、臭いのに何で美味しく感じるんだ」
ロウさんは鼻から口の中に充満している、臭い空気を出そうとしているけれど、尚更鼻の中に臭い循環し、臭さで涙を流しながら食べている。僕も食べたけど、やっぱり臭くて、何かが凝縮したような美味しさを感じた。
「・・無理です」
イケは口に入れることなく断った。仲良くなったカトという同い年の子供も「無理だよな」と、相槌を打っていた。
ロウさんはサキさんに、それを分けてもらおうとお願いをしていた。サキさんは一度僕の方を向いた後、「少しだけなら」と言い、ロウさんの持ってきた小さな土器に入れ、ロウさんは蓋をして厳重に紐で土器をぐるぐる巻きにした。
サキさんは「レイがごめんね」と言い、僕の魚には多めにドロドロとした何かを乗っけてくれた。この場に、レイの姿はなかった。
結局、僕はあれから一度もレイと話もせず、顏も合わせないで是川に帰る事になった。
「また来てくれよ」
ゾンさんが少し、寂しそうに言ったのが印象的だった。家族の中で、何か話し合いが行われたのだろうか。行われていたとしても、僕に出来る事はあったのだろうか。
キノジイが言っていた、家族でも口に出してはいけないという大きな壁が、僕の眼前に広がっている海のように大きく見えた。
「ヨウさんの嘘つき。全然泳げないじゃないか」
午後に子供たちで湖に行くと、イケが真っ先に湖に飛び込んだ。イケは湖を楽しみにしていたのだが、思うように泳ぐことが出来ず、口を尖らせていた。
「ヨウって、去年きた子供の事か?」
僕は入江の子供のハムさんに尋ねられ、「そうです」と答えた。
「ああ、普通は海の方が泳ぎやすいはずなんだけどな」
ハムさんは上手く泳げずにいるロウさんやイケを眺めつつ呟いていたけれど、その声は僕の耳に入らなかった。
是川に帰る前日の夜、宴が開かれ、お兄ちゃんが楽しみにしていて、ロウさんに頼んだ例の腐ったような何が振舞われた。
「うう、臭いのに何で美味しく感じるんだ」
ロウさんは鼻から口の中に充満している、臭い空気を出そうとしているけれど、尚更鼻の中に臭い循環し、臭さで涙を流しながら食べている。僕も食べたけど、やっぱり臭くて、何かが凝縮したような美味しさを感じた。
「・・無理です」
イケは口に入れることなく断った。仲良くなったカトという同い年の子供も「無理だよな」と、相槌を打っていた。
ロウさんはサキさんに、それを分けてもらおうとお願いをしていた。サキさんは一度僕の方を向いた後、「少しだけなら」と言い、ロウさんの持ってきた小さな土器に入れ、ロウさんは蓋をして厳重に紐で土器をぐるぐる巻きにした。
サキさんは「レイがごめんね」と言い、僕の魚には多めにドロドロとした何かを乗っけてくれた。この場に、レイの姿はなかった。
結局、僕はあれから一度もレイと話もせず、顏も合わせないで是川に帰る事になった。
「また来てくれよ」
ゾンさんが少し、寂しそうに言ったのが印象的だった。家族の中で、何か話し合いが行われたのだろうか。行われていたとしても、僕に出来る事はあったのだろうか。
キノジイが言っていた、家族でも口に出してはいけないという大きな壁が、僕の眼前に広がっている海のように大きく見えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

軟弱絵師と堅物同心〜大江戸怪奇譚~
水葉
歴史・時代
江戸の町外れの長屋に暮らす生真面目すぎる同心・十兵衛はひょんな事に出会った謎の自称天才絵師である青年・与平を住まわせる事になった。そんな与平は人には見えないものが見えるがそれを絵にして売るのを生業にしており、何か秘密を持っているようで……町の人と交流をしながら少し不思議な日常を送る二人。懐かれてしまった不思議な黒猫の黒太郎と共に様々な事件?に向き合っていく
三十路を過ぎた堅物な同心と謎で軟弱な絵師の青年による日常と事件と珍道中
「ほんま相変わらず真面目やなぁ」
「そういう与平、お前は怠けすぎだ」
(やれやれ、また始まったよ……)
また二人と一匹の日常が始まる
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる