『潮が満ちたら、会いに行く』

４－４

４―４
 ダリは村にある木の木陰で、うずくまるようにして横になっていた。ダリの側にはイケがいて、心配そうにダリの顔を見ていた。
 イケは僕が戻ってきた事に気が付くと、「何かいい方法あった？」と尋ねてきた。僕は何も答えず、イケの手を引いて、ダリを挟むようにして座った。ダリは僕が来たことに気が付いたのか、薄く目を開けた。
「ダリは、どうなっちゃうの？」
 僕は『ダリは、もう死ぬかもしれないよ』と、言う事は出来なかった。自分でも、そんなことは言いたくなかった。
「一緒に側にいてあげよう。ほら、ダリは頭を撫でられるのが好きだっただろ？」
 僕が優しくダリの頭をなでてやると、ダリは少しだけ鼻を引くつかせ、身体の緊張が少し解けたように感じられた。
 イケも僕の後に続き、ダリの頭を優しく撫でた。その手は小さく、ダリの身体の中から抜けつつある『何か』を抑え込むことは出来なかった。僕たちは、何も出来なかった。
 ダリは、僕たちが入江に行く前日に死んだ。僕はその日、入江にいるレイに見せるための石器がやっと完成し、村はずれの木陰にいるダリに見せた。
 ダリの目には僕の白い石器が映り、一度だけ尻尾を振った。
 僕は小さな子供らの子守をしつつ、石器を完成させた。僕はダリにとって迷惑かもしれないと思ったけれど、僕はダリを抱えてやり、なるべく村人が多くいるところに運んでやった。ダリは嫌そうな顔一つしなかった。僕の勝手な想像かもしれなかったけど、ダリは村の人たちと一緒に居た方が嬉しいだろうと思った。
 ダリは、村人たちが笑うたびに尻尾を振った。自分も笑うように。だから、僕たち村人は笑いながらダリを村のお墓に埋葬した。そこには亡くなった大人たち、是川の村の人たちが埋葬されている。ダリも、是川の村の一員だからだ。