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サキSide 3

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サキSIDE 3
 是川から来る人たちを、出迎える準備が進んでいる。正確な日時は分かり様無いが、いつ誰が、どのようなもてなしをするかの手順は少しずつではあるが決まっていった。そのもてなす人の中に、弟の名前は無い。
 父は、海が多少荒れていても漁に出る事が多くなった。父は多少荒れるくらいならば、船から落ちても泳いで海岸まで行けるという自信があるのだ。
 父が一番漁に出る事が多いので、一番海を見る目が養われていると、村の大人たちは言っている。
「こんなに獲ってこないで、たまには親子三人でのんびりしたらどう?」
 サンおばさんが父に、こう苦言する事が多くなった。父は立てない息子の分まで働いているという目で、村の人たちから見られている。
 父が頑張れば頑張るほど、弟は働いていないという事にはならないだろうか。弟は、それを気にしないだろうかと、私はそれが心配でならなかった。
 ある時、土器造りの休憩中、お尻が痛くなり寝転がって、手でお尻をさすっている弟がふと呟いた。
「何だか今日の雲、形が悪くない?」
 私は弟の言葉を聞き、海を見てみた。いつも通りの、漁に出ても大丈夫な天候に見えた。 
「そっちじゃなくて、山の方」
「山?」
 私は海の反対方向にある山を見た。普段、私たちは海ばかりを観察していて、山の上にかかる雲はめったに目にしなかった。
「海の雲と山の曇って、関係あるの?」
私の問いかけに、弟は「まだ、よくわからない」と答えた。
その日の夕方、誰も予想していなかった雨が降った。
「どうして、山の雲を観察しようとしたの?」
 私が尋ねると、弟は手だけで身体を動かそうとした。
「足が動かないから、一度場所を決められたら、そっちしか見えないじゃん」
 弟の言葉通り、弟の場所は決まっているわけではない。みな適当に車座になって、弟の背中にだけ木の板を土に差し込むように置いておくだけだ。場所によっては海しか見えなかったり、山しか見えなかったりするのだろう。
「レイは、何処を見ながら仕事がしたい?」
「うーん、毎日違う方向がいいな」
 私には、弟がどうして毎日違う方向がいいのかは分からない。でも、弟のこの願いだけは、何としても叶えてやりたいと強く思った。

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