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僕の姿を見つけるなり、多くの子供らが集まってきた。僕は持っていた土器をいったんロウさんに預け、「お兄ちゃんと話がしたい」と言った。
「わかった。カラ、ちゃんとアラと話し合うんだぞ」
ロウさんに言われ、僕は一人で香ばしく焼かれている魚を眺めている、お兄ちゃんのそばに駆け寄った。
僕はお兄ちゃんの隣に座り、同じように焼かれている魚を見つめた。僕は山から降りてくる時に何を言えばいいのか考え、何を言おうかと決めていたはずだった。でも、いざお兄ちゃんの隣に座ると、何を話したらいいのか分からなくなった。
「僕が大人げなかった」
「僕が小さな子供だった」
僕とお兄ちゃんの言葉が同時に重なり、僕もお兄ちゃんも、互いに何を言っているのか聞こえなかった。
「僕は羨ましかったんだ」
「僕は考えていなかったんだ」
またも言葉が重なり、僕たちは相手の言葉が分からなかった。
僕とお兄ちゃんはまた言葉が重ならないように、お互いが相手の言葉を待った。僕から言おうか、お兄ちゃんが先に言うか。僕たちは睨めっこをするような格好で押し黙ってしまった。
「先に言うぞ!」
お兄ちゃんは大きな声をあげ、僕に何も言わせないようけん制した。
「いいか。僕はお前が嫌いなんて事は無い。けど、お前は僕と違った発想で、いつも僕と違う事をする。班長の僕はお前と違って自由に、突飛な発言をする事も出来ない。他の子供の手本になるようにと、父さんから言われていたからな。だからこそ、お前が自由に石器や土器を造ったりして、今度は大人たちと一緒に木を切り倒したり、自分の欲しい石器の材料まで手に入れて、ほんっとうにずるいと思うし羨ましいと思うんだよ。でも、嫌いじゃないんだよ!」
お兄ちゃんの言っている事は、全て本音だろうと僕は察した。僕が7歳の時から、お兄ちゃんは他にも年上の子供がいるのにも関わらず、班長として『責任』のある立場を務めていた。それには、僕にはわからない苦労を重ねてきたはずだ。
お兄ちゃんにも、自分で何かやりたい事もたくさんあっただろう。それらを班長としての仕事が邪魔をし、自由な言動をお兄ちゃんから奪っていたのだ。
「お兄ちゃん・・」
僕は、何と言っていいのかわからなかった。自分でも、今回の事は自分のわがままだったかもしれないと感じている。でも、僕がお兄ちゃんの肩代わりをして、お兄ちゃんを自由にさせる事も出来ない。僕は自分がまだ、小さな子供でいるような気がして、何だか悔しくなった。
「アラ、それってカラだけに言う事か?」
お兄ちゃんの大きな声に、他の子供たちもやってきた。ロウさんは、何だか怒っている様な気がした。
「アラ、確かにお前の父親は酋長で、次の酋長はお前かもしれない。けど、それって酋長が決める事じゃないだろ。僕たち子供や、大人たちの同意も必要だろう?」
ロウさんはそこで一度、言葉を区切った。
「僕は別に、アラが酋長に相応しくないなんて言っているわけじゃない。ただ、今からアラが酋長らしく振舞って、次の酋長をアラだと決めつける必要はないと、僕は思うんだ」
ロウさんの言葉に、コシさんとキドさんが頷いた。
「そうだ。僕がなってもいいはずじゃないか。そうだろ、コシ?」
キドさんの言葉に、コシさんは「えー」という、不満げな声を出した。
「キドさんにはむり。だってすぐコシさんに意地悪をするんだからー」
イケの言葉で、僕とお兄ちゃんを除いたみんなが笑った。
「だからアラ。今からお前が『酋長』にならなくたっていいんじゃないか。そして、その言葉は今の『酋長』に言うべきじゃないか?」
お兄ちゃんはロウさんの言葉を聞き、少し顔を俯かせた。お兄ちゃんは、今何を考えているのだろうか。
「コシとキドが二人で相談して、明日は何をするか考えておいてくれ」
お兄ちゃんの言葉にロウさんは頷き、キドさんは「どうして二人でなんだよ?」と言った。
「仲が良いからじゃないかなぁ?」
ヨウの言葉よって、キドさんは何も言えなくなり、イケの「二人は仲良しだもんね」という言葉の追撃もあり、キドさんは「わかったよ」と、満更でもない顔で了承した。
「お兄ちゃん、僕も一緒にお父さんと話をしてもいい?」
僕はまだ、自分が小さな子供でいる様な気がしてならなかった。お兄ちゃん一人に全てを任せるわけにはいかない。何故なら、僕もお兄ちゃん事が嫌いではない。むしろ、大好きなのだから。
お兄ちゃんはしばらく考えた後、口を開いた。
「わかった。けど、僕が父さんと話を終えるまで口をはさむなよ」
僕はお兄ちゃんの言葉に頷き、二人で家へ向かった。僕は久しぶりに、お兄ちゃんと手をつないだ。
僕の姿を見つけるなり、多くの子供らが集まってきた。僕は持っていた土器をいったんロウさんに預け、「お兄ちゃんと話がしたい」と言った。
「わかった。カラ、ちゃんとアラと話し合うんだぞ」
ロウさんに言われ、僕は一人で香ばしく焼かれている魚を眺めている、お兄ちゃんのそばに駆け寄った。
僕はお兄ちゃんの隣に座り、同じように焼かれている魚を見つめた。僕は山から降りてくる時に何を言えばいいのか考え、何を言おうかと決めていたはずだった。でも、いざお兄ちゃんの隣に座ると、何を話したらいいのか分からなくなった。
「僕が大人げなかった」
「僕が小さな子供だった」
僕とお兄ちゃんの言葉が同時に重なり、僕もお兄ちゃんも、互いに何を言っているのか聞こえなかった。
「僕は羨ましかったんだ」
「僕は考えていなかったんだ」
またも言葉が重なり、僕たちは相手の言葉が分からなかった。
僕とお兄ちゃんはまた言葉が重ならないように、お互いが相手の言葉を待った。僕から言おうか、お兄ちゃんが先に言うか。僕たちは睨めっこをするような格好で押し黙ってしまった。
「先に言うぞ!」
お兄ちゃんは大きな声をあげ、僕に何も言わせないようけん制した。
「いいか。僕はお前が嫌いなんて事は無い。けど、お前は僕と違った発想で、いつも僕と違う事をする。班長の僕はお前と違って自由に、突飛な発言をする事も出来ない。他の子供の手本になるようにと、父さんから言われていたからな。だからこそ、お前が自由に石器や土器を造ったりして、今度は大人たちと一緒に木を切り倒したり、自分の欲しい石器の材料まで手に入れて、ほんっとうにずるいと思うし羨ましいと思うんだよ。でも、嫌いじゃないんだよ!」
お兄ちゃんの言っている事は、全て本音だろうと僕は察した。僕が7歳の時から、お兄ちゃんは他にも年上の子供がいるのにも関わらず、班長として『責任』のある立場を務めていた。それには、僕にはわからない苦労を重ねてきたはずだ。
お兄ちゃんにも、自分で何かやりたい事もたくさんあっただろう。それらを班長としての仕事が邪魔をし、自由な言動をお兄ちゃんから奪っていたのだ。
「お兄ちゃん・・」
僕は、何と言っていいのかわからなかった。自分でも、今回の事は自分のわがままだったかもしれないと感じている。でも、僕がお兄ちゃんの肩代わりをして、お兄ちゃんを自由にさせる事も出来ない。僕は自分がまだ、小さな子供でいるような気がして、何だか悔しくなった。
「アラ、それってカラだけに言う事か?」
お兄ちゃんの大きな声に、他の子供たちもやってきた。ロウさんは、何だか怒っている様な気がした。
「アラ、確かにお前の父親は酋長で、次の酋長はお前かもしれない。けど、それって酋長が決める事じゃないだろ。僕たち子供や、大人たちの同意も必要だろう?」
ロウさんはそこで一度、言葉を区切った。
「僕は別に、アラが酋長に相応しくないなんて言っているわけじゃない。ただ、今からアラが酋長らしく振舞って、次の酋長をアラだと決めつける必要はないと、僕は思うんだ」
ロウさんの言葉に、コシさんとキドさんが頷いた。
「そうだ。僕がなってもいいはずじゃないか。そうだろ、コシ?」
キドさんの言葉に、コシさんは「えー」という、不満げな声を出した。
「キドさんにはむり。だってすぐコシさんに意地悪をするんだからー」
イケの言葉で、僕とお兄ちゃんを除いたみんなが笑った。
「だからアラ。今からお前が『酋長』にならなくたっていいんじゃないか。そして、その言葉は今の『酋長』に言うべきじゃないか?」
お兄ちゃんはロウさんの言葉を聞き、少し顔を俯かせた。お兄ちゃんは、今何を考えているのだろうか。
「コシとキドが二人で相談して、明日は何をするか考えておいてくれ」
お兄ちゃんの言葉にロウさんは頷き、キドさんは「どうして二人でなんだよ?」と言った。
「仲が良いからじゃないかなぁ?」
ヨウの言葉よって、キドさんは何も言えなくなり、イケの「二人は仲良しだもんね」という言葉の追撃もあり、キドさんは「わかったよ」と、満更でもない顔で了承した。
「お兄ちゃん、僕も一緒にお父さんと話をしてもいい?」
僕はまだ、自分が小さな子供でいる様な気がしてならなかった。お兄ちゃん一人に全てを任せるわけにはいかない。何故なら、僕もお兄ちゃん事が嫌いではない。むしろ、大好きなのだから。
お兄ちゃんはしばらく考えた後、口を開いた。
「わかった。けど、僕が父さんと話を終えるまで口をはさむなよ」
僕はお兄ちゃんの言葉に頷き、二人で家へ向かった。僕は久しぶりに、お兄ちゃんと手をつないだ。
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