上 下
70 / 375

3-7

しおりを挟む
3―7
 僕の姿を見つけるなり、多くの子供らが集まってきた。僕は持っていた土器をいったんロウさんに預け、「お兄ちゃんと話がしたい」と言った。
「わかった。カラ、ちゃんとアラと話し合うんだぞ」
ロウさんに言われ、僕は一人で香ばしく焼かれている魚を眺めている、お兄ちゃんのそばに駆け寄った。
 僕はお兄ちゃんの隣に座り、同じように焼かれている魚を見つめた。僕は山から降りてくる時に何を言えばいいのか考え、何を言おうかと決めていたはずだった。でも、いざお兄ちゃんの隣に座ると、何を話したらいいのか分からなくなった。
「僕が大人げなかった」
「僕が小さな子供だった」
 僕とお兄ちゃんの言葉が同時に重なり、僕もお兄ちゃんも、互いに何を言っているのか聞こえなかった。
「僕は羨ましかったんだ」
「僕は考えていなかったんだ」
 またも言葉が重なり、僕たちは相手の言葉が分からなかった。
僕とお兄ちゃんはまた言葉が重ならないように、お互いが相手の言葉を待った。僕から言おうか、お兄ちゃんが先に言うか。僕たちは睨めっこをするような格好で押し黙ってしまった。
「先に言うぞ!」
 お兄ちゃんは大きな声をあげ、僕に何も言わせないようけん制した。
「いいか。僕はお前が嫌いなんて事は無い。けど、お前は僕と違った発想で、いつも僕と違う事をする。班長の僕はお前と違って自由に、突飛な発言をする事も出来ない。他の子供の手本になるようにと、父さんから言われていたからな。だからこそ、お前が自由に石器や土器を造ったりして、今度は大人たちと一緒に木を切り倒したり、自分の欲しい石器の材料まで手に入れて、ほんっとうにずるいと思うし羨ましいと思うんだよ。でも、嫌いじゃないんだよ!」
お兄ちゃんの言っている事は、全て本音だろうと僕は察した。僕が7歳の時から、お兄ちゃんは他にも年上の子供がいるのにも関わらず、班長として『責任』のある立場を務めていた。それには、僕にはわからない苦労を重ねてきたはずだ。
 お兄ちゃんにも、自分で何かやりたい事もたくさんあっただろう。それらを班長としての仕事が邪魔をし、自由な言動をお兄ちゃんから奪っていたのだ。
「お兄ちゃん・・」
 僕は、何と言っていいのかわからなかった。自分でも、今回の事は自分のわがままだったかもしれないと感じている。でも、僕がお兄ちゃんの肩代わりをして、お兄ちゃんを自由にさせる事も出来ない。僕は自分がまだ、小さな子供でいるような気がして、何だか悔しくなった。
「アラ、それってカラだけに言う事か?」
 お兄ちゃんの大きな声に、他の子供たちもやってきた。ロウさんは、何だか怒っている様な気がした。
「アラ、確かにお前の父親は酋長で、次の酋長はお前かもしれない。けど、それって酋長が決める事じゃないだろ。僕たち子供や、大人たちの同意も必要だろう?」
 ロウさんはそこで一度、言葉を区切った。
「僕は別に、アラが酋長に相応しくないなんて言っているわけじゃない。ただ、今からアラが酋長らしく振舞って、次の酋長をアラだと決めつける必要はないと、僕は思うんだ」
 ロウさんの言葉に、コシさんとキドさんが頷いた。
「そうだ。僕がなってもいいはずじゃないか。そうだろ、コシ?」
キドさんの言葉に、コシさんは「えー」という、不満げな声を出した。
「キドさんにはむり。だってすぐコシさんに意地悪をするんだからー」
 イケの言葉で、僕とお兄ちゃんを除いたみんなが笑った。
「だからアラ。今からお前が『酋長』にならなくたっていいんじゃないか。そして、その言葉は今の『酋長』に言うべきじゃないか?」
お兄ちゃんはロウさんの言葉を聞き、少し顔を俯かせた。お兄ちゃんは、今何を考えているのだろうか。
「コシとキドが二人で相談して、明日は何をするか考えておいてくれ」
 お兄ちゃんの言葉にロウさんは頷き、キドさんは「どうして二人でなんだよ?」と言った。
「仲が良いからじゃないかなぁ?」
 ヨウの言葉よって、キドさんは何も言えなくなり、イケの「二人は仲良しだもんね」という言葉の追撃もあり、キドさんは「わかったよ」と、満更でもない顔で了承した。
「お兄ちゃん、僕も一緒にお父さんと話をしてもいい?」
 僕はまだ、自分が小さな子供でいる様な気がしてならなかった。お兄ちゃん一人に全てを任せるわけにはいかない。何故なら、僕もお兄ちゃん事が嫌いではない。むしろ、大好きなのだから。
 お兄ちゃんはしばらく考えた後、口を開いた。
「わかった。けど、僕が父さんと話を終えるまで口をはさむなよ」
僕はお兄ちゃんの言葉に頷き、二人で家へ向かった。僕は久しぶりに、お兄ちゃんと手をつないだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

異聞・鎮西八郎為朝伝 ― 日本史上最強の武将・源為朝は、なんと九尾の狐・玉藻前の息子であった!

Evelyn
歴史・時代
 源氏の嫡流・源為義と美貌の白拍子の間に生まれた八郎為朝は、史記や三国志に描かれた項羽、呂布や関羽をも凌ぐ無敵の武将! その生い立ちと生涯は?  鳥羽院の寵姫となった母に捨てられ、父に疎まれながらも、誠実無比の傅役・重季、若き日の法然上人や崇徳院、更には信頼できる仲間らとの出会いを通じて逞しく成長。  京の都での大暴れの末に源家を勘当されるが、そんな逆境はふふんと笑い飛ばし、放逐された地・九州を平らげ、威勢を轟かす。  やがて保元の乱が勃発。古今無類の武勇を示すも、不運な敗戦を経て尚のこと心機一転。  英雄神さながらに自らを奮い立て、この世を乱す元凶である母・玉藻、実はあまたの国々を滅ぼした伝説の大妖・九尾の狐との最後の対決に挑む。  平安最末期、激動の時代を舞台に、清盛、義朝をはじめ、天皇、上皇、著名な公卿や武士、高僧など歴史上の重要人物も多数登場。  海賊衆や陰陽師も入り乱れ、絢爛豪華な冒険に満ちた半生記です。  もちろん鬼若(誰でしょう?)、時葉(これも誰? 実は史上の有名人!)、白縫姫など、豪傑、美女も続々現れますよ。  お楽しみに 😄

天威矛鳳

こーちゃん
歴史・時代
陳都が日本を統一したが、平和な世の中は訪れず皇帝の政治が気に入らないと不満を持った各地の民、これに加勢する国王によって滅ぼされてしまう。時は流れ、皇鳳国の将軍の子供として生まれた剣吾は、僅か10歳で父親が殺されてしまう。これを機に国王になる夢を持つ。仲間と苦難を乗り越え、王になっていく物語

処理中です...