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 次の日、僕はジンさんと目当ての石を探しに行くことになった。
「アラ、また兄の立場が無くなりそうだな」
ロウさんがお兄ちゃんを、揶揄う様に言った。それだけ、僕が久しぶりにジンさんと二人で、山に行くことが嬉しそうに見えたのだろう。
「カラ、ジンさんに迷惑をかけるなよ」
 お兄ちゃんが少し不機嫌そうに言い、僕は「うん」と短く答えた。お兄ちゃんの方が、ジンさんと一緒に行きたそうな雰囲気だった。
 是川の村を出て、僕たちは山に登った。
「カラ、アラの様子はどうだ?」
「うん、元気だよ」
 僕はそう言ったけど、ジンさんは何か気がかりみたいだった。
「アラに伝えておいてくれ、いつでも相談に乗るってな。アラは酋長と同じで、一人で抱え込みやすいんだ」
「そうなのかなぁ?」
 僕はお兄ちゃんが、お父さんと似ていると思ったことはあまりなかった。お父さんは、少しばかり他の大人の人たちに遠慮していると思ったことはある。それは、自分が他の大人たちより年下だからだと、僕は思っている。 
 でも、お兄ちゃんは年上だったジンさんやイバさんにちゃんと指示を出し、遠慮する事はなかった。
「カラは近すぎるから、見えないものもあるんだよ」
「どういう事ですか?」
 ジンさんは僕の問いには答えず、自分の顔を僕の顔に寄せ、額をくっつけた。
「俺の顔が見えるか?」
「え、見えません」
 僕がそう言うと、ジンさんは顔を離して「こういう事さ」と言った。
 僕がジンさんの言ったことを理解しようと歩きながら考えていると、ジンさんは急に立ち止まって「ここだ」と言った。
 そこは山崩れか何かで土や木が崩れ、少しばかり白い石がむき出しになっている小さな崖があった。崖の高さは、ジンさんの背丈と同じくらいだ。崖の上には大きな木が一本、少し不安定に立っていた。その木の下からは根っこが飛び出ており、大勢の人間で引っ張れば倒せそうだと、僕は思った。
 ジンさんはその崖に近づき、剥き出しになっている白い石を叩いた。
「俺もこの石で石器が造れないか考えたことがあるんだが、とても固くて取れないんだ」
 僕も崖に近づいて、手で石を叩いてみた。河原の石とは違って、ちょっとやそっとじゃ割れなさそうだった。
「カラ、少し退いてくれ」
 ジンさんは近くに落ちていた普通の石を拾い、思いっきり振り上げてから崖の石を叩いた。ジンさんの持っていた石は『ガッ』という鈍い音をたて、割れてしまった。
「見ての通り、全く割れないんだ」
 ジンさんは『やれやれ』といった仕草をした。
 あの石を割って取ることは出来ない。ならどうするか。僕は剥き出しになっている白い石を、崖から引っ張り出そうと手で引っ張ってみた。
「おいカラ、取れるわけがないだろう?」
 ジンさんの言った通り、この石は崖から剥き出しになっている部分だけでも僕の頭より大きく、地中の中でどんな形や大きさで埋まっているのかもわからなかった。
 僕はこの場所を覚えておこうと思いつつ、他にも白い石がむき出しになっている所がないか、ジンさんと一緒に探してみた。
「この小さな崖にしかないのかなぁ」
 僕とジンさんは先ほどの場所まで戻り、崖の上から剥き出しになっている白い石を眺めた。崖の上には大きな木があり、根っこも太そうなので、上から掘って取り出すことも出来なさそうだった。ただ、根っこは崖の方に露出しており、もう一度がけ崩れか何かが起きれば木が倒れると同時に、自然とこの石もこぼれ落ちそうだとも思った。

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