上 下
59 / 375

2-5

しおりを挟む
2―5
 次の日、僕はジンさんと目当ての石を探しに行くことになった。
「アラ、また兄の立場が無くなりそうだな」
ロウさんがお兄ちゃんを、揶揄う様に言った。それだけ、僕が久しぶりにジンさんと二人で、山に行くことが嬉しそうに見えたのだろう。
「カラ、ジンさんに迷惑をかけるなよ」
 お兄ちゃんが少し不機嫌そうに言い、僕は「うん」と短く答えた。お兄ちゃんの方が、ジンさんと一緒に行きたそうな雰囲気だった。
 是川の村を出て、僕たちは山に登った。
「カラ、アラの様子はどうだ?」
「うん、元気だよ」
 僕はそう言ったけど、ジンさんは何か気がかりみたいだった。
「アラに伝えておいてくれ、いつでも相談に乗るってな。アラは酋長と同じで、一人で抱え込みやすいんだ」
「そうなのかなぁ?」
 僕はお兄ちゃんが、お父さんと似ていると思ったことはあまりなかった。お父さんは、少しばかり他の大人の人たちに遠慮していると思ったことはある。それは、自分が他の大人たちより年下だからだと、僕は思っている。 
 でも、お兄ちゃんは年上だったジンさんやイバさんにちゃんと指示を出し、遠慮する事はなかった。
「カラは近すぎるから、見えないものもあるんだよ」
「どういう事ですか?」
 ジンさんは僕の問いには答えず、自分の顔を僕の顔に寄せ、額をくっつけた。
「俺の顔が見えるか?」
「え、見えません」
 僕がそう言うと、ジンさんは顔を離して「こういう事さ」と言った。
 僕がジンさんの言ったことを理解しようと歩きながら考えていると、ジンさんは急に立ち止まって「ここだ」と言った。
 そこは山崩れか何かで土や木が崩れ、少しばかり白い石がむき出しになっている小さな崖があった。崖の高さは、ジンさんの背丈と同じくらいだ。崖の上には大きな木が一本、少し不安定に立っていた。その木の下からは根っこが飛び出ており、大勢の人間で引っ張れば倒せそうだと、僕は思った。
 ジンさんはその崖に近づき、剥き出しになっている白い石を叩いた。
「俺もこの石で石器が造れないか考えたことがあるんだが、とても固くて取れないんだ」
 僕も崖に近づいて、手で石を叩いてみた。河原の石とは違って、ちょっとやそっとじゃ割れなさそうだった。
「カラ、少し退いてくれ」
 ジンさんは近くに落ちていた普通の石を拾い、思いっきり振り上げてから崖の石を叩いた。ジンさんの持っていた石は『ガッ』という鈍い音をたて、割れてしまった。
「見ての通り、全く割れないんだ」
 ジンさんは『やれやれ』といった仕草をした。
 あの石を割って取ることは出来ない。ならどうするか。僕は剥き出しになっている白い石を、崖から引っ張り出そうと手で引っ張ってみた。
「おいカラ、取れるわけがないだろう?」
 ジンさんの言った通り、この石は崖から剥き出しになっている部分だけでも僕の頭より大きく、地中の中でどんな形や大きさで埋まっているのかもわからなかった。
 僕はこの場所を覚えておこうと思いつつ、他にも白い石がむき出しになっている所がないか、ジンさんと一緒に探してみた。
「この小さな崖にしかないのかなぁ」
 僕とジンさんは先ほどの場所まで戻り、崖の上から剥き出しになっている白い石を眺めた。崖の上には大きな木があり、根っこも太そうなので、上から掘って取り出すことも出来なさそうだった。ただ、根っこは崖の方に露出しており、もう一度がけ崩れか何かが起きれば木が倒れると同時に、自然とこの石もこぼれ落ちそうだとも思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...