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 キノジイは一通りキノコについて話し終えた後、寒くても暗くても育っていたキノコを十数個、トウさんに手渡した。
「海に濡れると、このキノコは死んでしまう。が、上手く入江に持って帰り、日当たりが程よく、湿った場所に置いておけば、来年あたりに生えてくるかもしれん」
 トウさんはキノジイに深くお礼を言い、翌日に入江の人たちは帰っていった。
「キノジイのキノコ、ちゃんと育つのかなぁ?」
 徐々に遠ざかっていく丸木舟を眺めながら、イケが不安そうに呟いた。続いてコシさんが「是川の干しキノコに、交易品としての価値が無くならないかなぁ」と、打算的な不安を呟いた。
 その呟きを聞き、最初に口を開いたのはガンさんだった。
「なに、タケの干しキノコを造る技術を持つことなど、他の人間には出来ないじゃろ。やつは、頭の中にもキノコが生えておるに違いない」
 ガンさんは入江の人たちの見送りに来ないキノジイを、少しばかり非難する口ぶりで言った。
「ガンや、タケをそう責めんといてくれんか?」
 ガンさんの側にいたキンさんが、キノジイを擁護した。
「タケは、海風が辛いんじゃ」
 キンさんの言葉を聞き、ガンさんは「そうじゃったな」と、何かを思い出したかのような口ぶりで、この場にいないキノジイに向かって頭を下げるような仕草をした。
 僕は『どういう事ですか?』と二人に尋ねたかったけど、二人の顔はどこか悲し気だった。
ガンさんとキンさん、キノジイの三人にしかわからない何かがあるんじゃないかと、僕は漠然と感じた。
見送りの後、僕は入江の石器を持ち、川原などで同じような石がないかを探した。石はいくつかの種類があって、固かったり脆かったりする。もし、入江と同じような石があれば、僕が入江に行ったときと同じような力加減で、レイが造ったような石器を造ることが出来るかもしれないと思った。
 しかし、同じような石は河原には存在しておらず、僕は「これって、黒曜石から造られたのかなぁ?」と呟いた。
僕が知っている中で、一番鋭い石器を造る事が出来る石は黒曜石だった。しかし、レイの造った石器は黒曜石の様な黒さはなく、逆に白っぽい石だった。
僕の呟きが聞こえたのか、川原で僕と同じく石器に適した石を探しているジンさんが「見せてみろよ」と言い、僕はジンさんにレイの造った石器を手渡した。
「すごい鋭さだな。まるで黒曜石で作った品だ。俺が欲しいくらいだよ」
「いくらジンさんでも駄目ですよ」
 ジンさんは「冗談だって」と言い、僕に石器を返した。
「うーん、どこかで見た事はある気がするんだけどね」
「本当ですか?」
 僕の問いに、ジンさんは「どこだっけなぁ」と、河原を見渡してから「ここじゃなくて、山の奥だったかもしれない」と言い出した。
「山にある石って、黒曜石みたいなものですか?」
 黒曜石は主に、渡島から交易品として得ている。しかし、薄くてすぐに割れ、加工が難しく、僕が練習として使う分はなかった。
「いや、黒曜石の様なものじゃなくて、これと同じで白っぽい石だった。俺がそこまで案内してやろうか。子供だけだとは入れない山の中だけど、俺と一緒ならいいだろう」
「本当ですか?」
 僕は喜んで、ジンさんに抱き着くような格好になった。ジンさんは「おいおい、まるで小さな子供じゃないか?」と笑った。ジンさんの身体に触れるのは、久しぶりな気がした。 
ジンさんは大人の仲間入りをしてから、身体が大きくなり、触れた時の感触も固くなった。来年、大人の仲間入りをするお兄ちゃんもこうなるのだろうか。

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