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カラSide 2-1

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カラSide
2―1
僕は小さな子供たちの子守が、こんにも大変だったのかと今更ながら感じている。
「ちょっと、そっちは触らないで!」
 制作し終え、乾燥させている土器を、小さな子供が叩いて変形させよとしていた。
「駄目だ!」
 僕が大きな声を出すと、小さな子供たちは火が付いたように泣き出してしまい、僕はどうすればいいかわからなくなってしまった。
「カラ、怒鳴っても何もいい事は無いよ」
 キンさんが赤ん坊をあやしつつ、僕を叱りつけるように言った。
「どうして、僕の言う事を聞いてくれないんだろう?」
 僕は泣いている子たちを集め、「ごめんね」と謝ったり、頭を撫でてやったりした。
「お前さんだってそうだったじゃないか。覚えておらんのか?」
僕は目の前にいる小さな子供たちを見て、自分の幼いころの記憶を呼び覚まそうとしたけれど、全く記憶になかった。
「どうして忘れているのかな?」
 僕が呟くと、キンさんは「覚えすぎているのかもしれんな」と、よくわからない事を言い出した。
「覚えすぎているって、覚えているなら、覚えているはずでしょ?」
自分でもよくわからない言葉を言ったようだが、キンさんには伝わったようで、キンさんは口を開いた。
「誰でも、一度に多くの物事を言われたら覚えきれんだろ。お前さんだって、初めて三内に行った時のことを全部覚えているわけではないはずじゃ」
 キンさんの言う通り、僕は初めて三内に行った時のことを断片的にしか覚えていなかった。それだけ、全てが自分にとって目新しく、刺激的だったのだ。
「幼い子供は、毎日が新しい物事の発見で、覚えきれないから覚えていないだけなんじゃろうな」
 僕はキンさんの話がわかったような、わからないような気持だった。
「でも、何度注意しても悪戯を止めない子はどうしてなんだろう」
僕は再び、乾燥させてある土器を触ろうとする子供の手を引っ張りながら、キンさんに尋ねた。
「お前さんの目の前で悪戯をしたら、どうなると思う?」
「どうなるって、僕が怒るでしょ?」
 僕が即答すると、キンさんは「怒られるのは嫌かもしれんが、必ずお前さんが手を引っ張って、構ってくれるじゃろ?」と言い、僕が手を引いている子をじっと見つめた。
「じゃあ、僕が怒ったり、構わなかったら悪戯をしなくなるの?」
僕は小さな子供の手を離してみた。すると、やっぱり土器を触ろうとして、僕を困らせる様な悪戯をしようとしている。
「小さな子供は、構われなくなることが一番嫌なんじゃ。お前さんだって、他の子供らから無視されたら嫌じゃろ?」
 キンさんの言う事はわかるけど、僕は人の嫌がる事をしてまで、気を引いたりはしないつもりだ。
「悪戯をしないで、『一緒に遊んで』って言えば済む話なのに」
「それがわからないから、悪戯をして、色々な事を覚えて、そしていつの間にか忘れておるんじゃよ」
 キンさんは赤ん坊を一度鹿の皮の上に置き、他の小さな子らの手を引いて、一か所に集めて口を開いた。
「みんなで、この赤子をあやしてみてくれんか?」
 キンさんの言葉に、小さな子供たちは『どうしよう』という不安げな顔をして、一人の女の子が抱き上げて、男の子が頭を撫でて、次々に小さな子供たちが自分の考えた『あやし方』をしていった。赤ん坊には悪戯などせず、僕には小さな子供たちが真剣そのものに見えた。
「小さな子供はわたしらが構うのではなく、誰かを構わせることも必用なんじゃ」
 キンさんの言葉を聞き、僕はその光景をただ眺めた。
「小さな子供でも、自分の事だけを考えているわけじゃないんだ」
僕が呟いていると、眠っていた赤ん坊は起き出し、火が付いたように泣き出した。そして、困ったように小さな子供たちが僕の方を見つめた。
 僕も、泣いている赤ん坊をどうあやしてやればいいのかわからなかった。
「キンさん」
 僕はキンさんを呼んだけど、いつの間にか居なくなっていた。
僕は仕方なく、キンさんのやっていたように、赤ん坊を抱いて身体を揺らしてやったり、顔や頭をなでたりしてみたけど、一向に泣き止まなかった。すると、僕の身体が少しずつ濡れていき、濡れた土の様なものがへばりついていく感触があった。
「おしっこと、うんちしてる」
 小さな女の子の言葉通り、赤ん坊は僕に抱かれたまま排泄をし、全部出し切ったところで笑顔になった。
「出すなら言ってよ・・」
 赤ん坊が、言葉を言えないのは分かっている。でも、言って欲しかった。
「カラ、赤ちゃんのうんちはきれいだから大丈夫よ」
 他の小さな子供が大人の女性を連れて来てくれて、僕から赤ん坊を僕から抱き取った。女性はきれいな木片を使い、赤ん坊のお尻に付いているうんちの残りかすを取り除いた。 
「赤ちゃんが泣くときは、お腹が空いた時か、おしっこやうんちがしたい時なのよ」
 僕は少しため息をつきつつ、手で身体に付いたうんちを払った。そして、手に付いた赤ん坊の出したうんちの臭いを嗅いでみた。女性の言う通り、何も臭いがしなくてきれいそうだった。
 僕は赤ん坊を再度受け取り、お尻の穴を眺めてみた。
「まだ、うんちが付いているかしら?」
 僕はその言葉に首を振りつつ、目線を赤ん坊のお腹に移した。
「鞭虫はいないのかな?」
 何となく、自分のお尻の穴が疼くような気分になりながら、僕は女性に尋ねた。
「そうねぇ。赤ん坊の時にはいないけど、いつの間にかいるのよね」
 女性も不思議そうに首を傾げ、僕の抱いている赤ん坊を眺めた。
 鞭虫はうんちをする時に、たまにお尻の穴から出てくる薄くて平べったい、紐みたいなものだ。何も悪さはしないので、僕たち子どもや、大人たちも気にしていない。
「何処から入ったんだろう?」
 僕はその後、赤ん坊のお尻の穴をずっと眺めていたと噂され、お兄ちゃんに揶揄われた。
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