上 下
53 / 375

1-2

しおりを挟む
1―2
 今年から、僕は子供たちの仕事ともに、大人の仕事も覚える事になっている。まだ早いという大人の意見もあったけれど、お父さんが「山の恵みをもっと活用しよう」と言い、大人の儀式を経る前から、山の奥まで入れることになった。
 理由として、これからは入江だけでなく、多くの村々との繋がりが出来るかもしれない。その時のために交易品となる物や、食糧を確保する手段を子供と共に模索しておいて方がいいという、お父さんの意見が通ったからだ。
「アラ、カラ。そのうち、山を歩いて三内に行くことになるかもしれないからな」
 お父さんはそう言っていたけど、僕もお兄ちゃんも『そんなことはしないだろう』と思っていた。何故なら、船で三内行くまでには山しか見えず、山の中に道なんて無いと思っていたからだ。
 子供らの班長として、イバさんが大人になるので、お兄ちゃんと同い年のロウさんが二人目の班長となった。
ロウさんは、小さな子供や赤ん坊をあやすのが得意だ。僕も何となくだけど、お兄ちゃんとは違う、ジンさんとも違う誰かの手であやされた記憶がある。ロウさんの手は男の子にしては柔らかく、握ってもらうと、何だか安心するような手だ。
「ちょっと問題があるんだ。僕は今まで、小さい子の子守もやっていたんだ。最近、大人たちは女性も交易品造りに忙しくて、子守の手が足りないんだ」
最近、赤ん坊が生き延びることが多い。それ自体は良いことだし、僕と同じ年に産まれた子は、僕しか生き残れなかった事もあった。それが、今は三人に一人が3歳まで生きている。
「そうか、今は確か3歳くらいの子が多いんだっけ?」
「そう。だから僕が班長になると、必ず一人子守役がいなくなる。だから、ちょっと困るんだ」
 ロウさんの言う通り、大人の女性たちは走り回る小さな子供たちに、手を焼いている様だった。この集合場所からも、小さな子供たちの声が響いてくる。
「じゃあ、ロウとコシの交代制でやるか?」
 お兄ちゃんが提案すると、コシさんは「え、僕と同じ年のキドじゃだめなの?」と、遠慮するような態度を見せた。
「キドじゃあ、一人で突っ走りすぎるだろ?」
 お兄ちゃんがキドさんに向かって言うと、キドさんは「コシが遅すぎるんだよ」と、少し不満げに言った。少し強引なキドさんと、少し気弱なコシさんだけど、なんだかんだ仲がいい。僕にはそれが、少し不思議だった。
「どっちも、一人にするには難しいしなぁ」
 お兄ちゃんが悩んでいる様子を見ていると、僕に考えが浮かんだ。
「お兄ちゃん。班長はロウさんで、子守の手が足りない時には、僕が小さな子供たちの所に子守り行くことにしない?」
 僕が言うと、コシさんとキドさんが「それでいいんじゃないか」と言い、ロウさんは「そういうことか」と、何か勘付いたような仕草をした。
「ロウ、どういうことだ?」
「アラ、兄なのにわからないのか。カラは小さな子供の子守をする合間に、自分は石器や土器作りの練習をするつもりだ」
 ロウさんは『お見通しだぞ?』という目つきで、僕を見た。でも、怒っているわけでもなさそうだった。
「決めるのは、アラだ」
 ロウさんはお兄ちゃんにそう言って、口をつぐんだ。ロウさんは口数が少ないけど、愛想が無いわけではない。むしろ良い方だ。
ジンさんが大人になった後、お兄ちゃんは自分一人で多くの物事を決めなければならなかった。ジンさんは、お兄ちゃんの良き相談相手だった。
 でも、大人になったジンさんはお兄ちゃんを見守ることしか出来ず、歯がゆい顔をしていたことがあった。
 そんな時に、イバさんがお兄ちゃんの肩の力を抜かせ、ロウさんが冷静に物事を判断した。その結果、お兄ちゃんは年上の子供たちがいる中でも、班長として仕事をこなしてこられたのだ。
「ロウ、ありがとうな」
 お兄ちゃんはロウさんにお礼を言い、ロウさんは「何のことだ?」と、わからないふりをした。今年からは、イバさんもいない。僕も、お兄ちゃんの力にならなければならないと思った。
「お兄ちゃん、僕が石器造りや土器作りをしたいのは本当だよ。でも、小さい子供の子守は絶対に怠らないよ。一緒に遊んだり、時には一緒に土器作りの練習をしたりもする。僕も、あと何年か経てば班長になるんだ。その時のために、色々と学んでおきたいんだ」
僕は言葉を選び、お兄ちゃんに言った。お兄ちゃんは少し悩んだ後、「子守を投げ出したら、小さな子供が泣くみたいになるまで説教だからな」と言い、僕は子守の必要な時に、手伝う役割を担う事に決まった。
「アラさんの説教って、どんなのなのかな?」
「知らないのかコシ。入江に行ったイバさんから聞いた話だと、でっかい口を開けて、歯を剥き出しにして相手の顔面に向かってくるらしいぞ」
 コシさんとキドさんの会話に、キッとお兄ちゃんが睨みつけ、ヨウと今年から子供たちの仕事に加わったガイさんとケイさんの息子のイケが、お兄ちゃんの顔を見て「ひぇ」と、怯えたような顔をした。
ジンさんやイバさんがいなくなって、僕は少し不安だった。でも、みんななんだかんだ仲が良さそうで、何があっても乗り越えられそうだと思った。
 そう言えば、レイの村では子供はどんな仕事をしているのだろう。僕は入江にいる間、ほとんどレイと共にいたので、入江の子供たちの普段の仕事をあまり知らなかった。
入江の子たちと一緒にいたヨウから詳しく聞くか、今度行ったときに直接聞いてみようと思った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音
歴史・時代
六世紀初頭、皇統断絶の危機に実在した、手白香皇女(たしらかのひめみこ)が主人公です。 旦那さんは歳のうーんと離れた入り婿のくせに態度でかいし、お妃沢山だし、自分より年取った義息子がいるし、、、。 頼りにしていた臣下には裏切られるし、異母姉妹は敵対するし、、、。 そんな中で手白香皇女は苦労するけど、愛息子や色々な人が頑張ってザマァをしてくれる予定です(本当は本人にガツンとさせたいけど、何せファンタジーでは無いので、脚色にも限度が、、、)。 古代史なので資料が少ないのですが、歴史小説なので、作中出てくる事件、人、場所などは、出来るだけ史実を押さえてあります。 手白香皇女を皇后とした継体天皇、そしてその嫡子欽明天皇(仏教伝来時の天皇で聖徳太子のお祖父さん)の子孫が現皇室となります。 R15は保険です。 歴史・時代小説大賞エントリーしてます。 宜しければ応援お願いします。 普段はヤンデレ魔導師の父さまと愉快なイケメン家族に囲まれた元気な女の子の話を書いてます。 読み流すのがお好きな方はそちらもぜひ。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...