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今年から、僕は子供たちの仕事ともに、大人の仕事も覚える事になっている。まだ早いという大人の意見もあったけれど、お父さんが「山の恵みをもっと活用しよう」と言い、大人の儀式を経る前から、山の奥まで入れることになった。
理由として、これからは入江だけでなく、多くの村々との繋がりが出来るかもしれない。その時のために交易品となる物や、食糧を確保する手段を子供と共に模索しておいて方がいいという、お父さんの意見が通ったからだ。
「アラ、カラ。そのうち、山を歩いて三内に行くことになるかもしれないからな」
お父さんはそう言っていたけど、僕もお兄ちゃんも『そんなことはしないだろう』と思っていた。何故なら、船で三内行くまでには山しか見えず、山の中に道なんて無いと思っていたからだ。
子供らの班長として、イバさんが大人になるので、お兄ちゃんと同い年のロウさんが二人目の班長となった。
ロウさんは、小さな子供や赤ん坊をあやすのが得意だ。僕も何となくだけど、お兄ちゃんとは違う、ジンさんとも違う誰かの手であやされた記憶がある。ロウさんの手は男の子にしては柔らかく、握ってもらうと、何だか安心するような手だ。
「ちょっと問題があるんだ。僕は今まで、小さい子の子守もやっていたんだ。最近、大人たちは女性も交易品造りに忙しくて、子守の手が足りないんだ」
最近、赤ん坊が生き延びることが多い。それ自体は良いことだし、僕と同じ年に産まれた子は、僕しか生き残れなかった事もあった。それが、今は三人に一人が3歳まで生きている。
「そうか、今は確か3歳くらいの子が多いんだっけ?」
「そう。だから僕が班長になると、必ず一人子守役がいなくなる。だから、ちょっと困るんだ」
ロウさんの言う通り、大人の女性たちは走り回る小さな子供たちに、手を焼いている様だった。この集合場所からも、小さな子供たちの声が響いてくる。
「じゃあ、ロウとコシの交代制でやるか?」
お兄ちゃんが提案すると、コシさんは「え、僕と同じ年のキドじゃだめなの?」と、遠慮するような態度を見せた。
「キドじゃあ、一人で突っ走りすぎるだろ?」
お兄ちゃんがキドさんに向かって言うと、キドさんは「コシが遅すぎるんだよ」と、少し不満げに言った。少し強引なキドさんと、少し気弱なコシさんだけど、なんだかんだ仲がいい。僕にはそれが、少し不思議だった。
「どっちも、一人にするには難しいしなぁ」
お兄ちゃんが悩んでいる様子を見ていると、僕に考えが浮かんだ。
「お兄ちゃん。班長はロウさんで、子守の手が足りない時には、僕が小さな子供たちの所に子守り行くことにしない?」
僕が言うと、コシさんとキドさんが「それでいいんじゃないか」と言い、ロウさんは「そういうことか」と、何か勘付いたような仕草をした。
「ロウ、どういうことだ?」
「アラ、兄なのにわからないのか。カラは小さな子供の子守をする合間に、自分は石器や土器作りの練習をするつもりだ」
ロウさんは『お見通しだぞ?』という目つきで、僕を見た。でも、怒っているわけでもなさそうだった。
「決めるのは、アラだ」
ロウさんはお兄ちゃんにそう言って、口をつぐんだ。ロウさんは口数が少ないけど、愛想が無いわけではない。むしろ良い方だ。
ジンさんが大人になった後、お兄ちゃんは自分一人で多くの物事を決めなければならなかった。ジンさんは、お兄ちゃんの良き相談相手だった。
でも、大人になったジンさんはお兄ちゃんを見守ることしか出来ず、歯がゆい顔をしていたことがあった。
そんな時に、イバさんがお兄ちゃんの肩の力を抜かせ、ロウさんが冷静に物事を判断した。その結果、お兄ちゃんは年上の子供たちがいる中でも、班長として仕事をこなしてこられたのだ。
「ロウ、ありがとうな」
お兄ちゃんはロウさんにお礼を言い、ロウさんは「何のことだ?」と、わからないふりをした。今年からは、イバさんもいない。僕も、お兄ちゃんの力にならなければならないと思った。
「お兄ちゃん、僕が石器造りや土器作りをしたいのは本当だよ。でも、小さい子供の子守は絶対に怠らないよ。一緒に遊んだり、時には一緒に土器作りの練習をしたりもする。僕も、あと何年か経てば班長になるんだ。その時のために、色々と学んでおきたいんだ」
僕は言葉を選び、お兄ちゃんに言った。お兄ちゃんは少し悩んだ後、「子守を投げ出したら、小さな子供が泣くみたいになるまで説教だからな」と言い、僕は子守の必要な時に、手伝う役割を担う事に決まった。
「アラさんの説教って、どんなのなのかな?」
「知らないのかコシ。入江に行ったイバさんから聞いた話だと、でっかい口を開けて、歯を剥き出しにして相手の顔面に向かってくるらしいぞ」
コシさんとキドさんの会話に、キッとお兄ちゃんが睨みつけ、ヨウと今年から子供たちの仕事に加わったガイさんとケイさんの息子のイケが、お兄ちゃんの顔を見て「ひぇ」と、怯えたような顔をした。
ジンさんやイバさんがいなくなって、僕は少し不安だった。でも、みんななんだかんだ仲が良さそうで、何があっても乗り越えられそうだと思った。
そう言えば、レイの村では子供はどんな仕事をしているのだろう。僕は入江にいる間、ほとんどレイと共にいたので、入江の子供たちの普段の仕事をあまり知らなかった。
入江の子たちと一緒にいたヨウから詳しく聞くか、今度行ったときに直接聞いてみようと思った。
今年から、僕は子供たちの仕事ともに、大人の仕事も覚える事になっている。まだ早いという大人の意見もあったけれど、お父さんが「山の恵みをもっと活用しよう」と言い、大人の儀式を経る前から、山の奥まで入れることになった。
理由として、これからは入江だけでなく、多くの村々との繋がりが出来るかもしれない。その時のために交易品となる物や、食糧を確保する手段を子供と共に模索しておいて方がいいという、お父さんの意見が通ったからだ。
「アラ、カラ。そのうち、山を歩いて三内に行くことになるかもしれないからな」
お父さんはそう言っていたけど、僕もお兄ちゃんも『そんなことはしないだろう』と思っていた。何故なら、船で三内行くまでには山しか見えず、山の中に道なんて無いと思っていたからだ。
子供らの班長として、イバさんが大人になるので、お兄ちゃんと同い年のロウさんが二人目の班長となった。
ロウさんは、小さな子供や赤ん坊をあやすのが得意だ。僕も何となくだけど、お兄ちゃんとは違う、ジンさんとも違う誰かの手であやされた記憶がある。ロウさんの手は男の子にしては柔らかく、握ってもらうと、何だか安心するような手だ。
「ちょっと問題があるんだ。僕は今まで、小さい子の子守もやっていたんだ。最近、大人たちは女性も交易品造りに忙しくて、子守の手が足りないんだ」
最近、赤ん坊が生き延びることが多い。それ自体は良いことだし、僕と同じ年に産まれた子は、僕しか生き残れなかった事もあった。それが、今は三人に一人が3歳まで生きている。
「そうか、今は確か3歳くらいの子が多いんだっけ?」
「そう。だから僕が班長になると、必ず一人子守役がいなくなる。だから、ちょっと困るんだ」
ロウさんの言う通り、大人の女性たちは走り回る小さな子供たちに、手を焼いている様だった。この集合場所からも、小さな子供たちの声が響いてくる。
「じゃあ、ロウとコシの交代制でやるか?」
お兄ちゃんが提案すると、コシさんは「え、僕と同じ年のキドじゃだめなの?」と、遠慮するような態度を見せた。
「キドじゃあ、一人で突っ走りすぎるだろ?」
お兄ちゃんがキドさんに向かって言うと、キドさんは「コシが遅すぎるんだよ」と、少し不満げに言った。少し強引なキドさんと、少し気弱なコシさんだけど、なんだかんだ仲がいい。僕にはそれが、少し不思議だった。
「どっちも、一人にするには難しいしなぁ」
お兄ちゃんが悩んでいる様子を見ていると、僕に考えが浮かんだ。
「お兄ちゃん。班長はロウさんで、子守の手が足りない時には、僕が小さな子供たちの所に子守り行くことにしない?」
僕が言うと、コシさんとキドさんが「それでいいんじゃないか」と言い、ロウさんは「そういうことか」と、何か勘付いたような仕草をした。
「ロウ、どういうことだ?」
「アラ、兄なのにわからないのか。カラは小さな子供の子守をする合間に、自分は石器や土器作りの練習をするつもりだ」
ロウさんは『お見通しだぞ?』という目つきで、僕を見た。でも、怒っているわけでもなさそうだった。
「決めるのは、アラだ」
ロウさんはお兄ちゃんにそう言って、口をつぐんだ。ロウさんは口数が少ないけど、愛想が無いわけではない。むしろ良い方だ。
ジンさんが大人になった後、お兄ちゃんは自分一人で多くの物事を決めなければならなかった。ジンさんは、お兄ちゃんの良き相談相手だった。
でも、大人になったジンさんはお兄ちゃんを見守ることしか出来ず、歯がゆい顔をしていたことがあった。
そんな時に、イバさんがお兄ちゃんの肩の力を抜かせ、ロウさんが冷静に物事を判断した。その結果、お兄ちゃんは年上の子供たちがいる中でも、班長として仕事をこなしてこられたのだ。
「ロウ、ありがとうな」
お兄ちゃんはロウさんにお礼を言い、ロウさんは「何のことだ?」と、わからないふりをした。今年からは、イバさんもいない。僕も、お兄ちゃんの力にならなければならないと思った。
「お兄ちゃん、僕が石器造りや土器作りをしたいのは本当だよ。でも、小さい子供の子守は絶対に怠らないよ。一緒に遊んだり、時には一緒に土器作りの練習をしたりもする。僕も、あと何年か経てば班長になるんだ。その時のために、色々と学んでおきたいんだ」
僕は言葉を選び、お兄ちゃんに言った。お兄ちゃんは少し悩んだ後、「子守を投げ出したら、小さな子供が泣くみたいになるまで説教だからな」と言い、僕は子守の必要な時に、手伝う役割を担う事に決まった。
「アラさんの説教って、どんなのなのかな?」
「知らないのかコシ。入江に行ったイバさんから聞いた話だと、でっかい口を開けて、歯を剥き出しにして相手の顔面に向かってくるらしいぞ」
コシさんとキドさんの会話に、キッとお兄ちゃんが睨みつけ、ヨウと今年から子供たちの仕事に加わったガイさんとケイさんの息子のイケが、お兄ちゃんの顔を見て「ひぇ」と、怯えたような顔をした。
ジンさんやイバさんがいなくなって、僕は少し不安だった。でも、みんななんだかんだ仲が良さそうで、何があっても乗り越えられそうだと思った。
そう言えば、レイの村では子供はどんな仕事をしているのだろう。僕は入江にいる間、ほとんどレイと共にいたので、入江の子供たちの普段の仕事をあまり知らなかった。
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