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カラSide 6-1

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カラSide
 6―1
 入江から三内を経由し、一泊してから是川へ帰った。三内ではハキさんと再会し、現在三内を管理しているという村の人たちと面会した。いずれ、何かの役に立つかもしれないと思ったし、何か新しい情報が無いかも気になったからだ。
「ははは、そんなすぐに新しい情報や道具は伝来されないさ。ま、冬が明けたらまた来るんだな」
 何人かの村人たちと話している時に、ハキさんから言われた言葉だ。
 ただ、新しい火起こしを考えた人の人物像がわかった。その人は弓を構えていたら弦が切れ、指にきつく巻きついてしまったらしい。その時、指は赤く焼け爛れ、使い物にならなくなり、腐ると悪いので切断してしまったそうだ。
 指が一本無くなるだけで、手のひら全体が使いにくくなったらしく、その人は自分で火が起こせなくなり、弓を見るたびに怒りが湧いたそうだ。
 だが、その時に閃いたのが新しい火おこしの原型だった。弦が勢いよく指に絡まると熱くなり、指が大火傷してしまう。そこから弦を回して熱を起こし、火を起こせないかを考えた結果、弓を火おこし様に改良したものだったという話だ。
「俺には、そんな考えはなかったな。弓の弦は切れないように注意を払っていたし、切れたら違う弦に付け替える事しか考えていなかった」
 ハキさんの言うとおり、僕も弓の弦は切れたら、火にくべる薪代わりにしかならないと思っていた。でも、違う視点から考える事によって、新しい物事が生まれてくるのだ。
「どうしたら、その人みたいに考え付くかなぁ?」
 僕の言葉にハキさんは「失敗を重ねるしかないだろうな。そうやって道具も改良されてきたんだ」と、どこか遠くを見るような目で言った。
「どれくらい失敗すればいいのかな」
「それはわからないな。少なくとも、新しい事をしようとしない限り、新しい物は出来ないだろうな」
「ハキさんは、何か失敗をしたんですか?」
「人の失敗談を聞くのかよ?」
 ハキさんは苦笑し、言葉を続けた。
「俺は海の中でも燃え続ける、松明を作ろうとしたんだ」
「え?」
 ハキさんの言葉に、僕は驚いた。火は水をかけると消えてしまう。ましてや、海の中に入れたらすぐに消えてしまうだろう。
「馬鹿らしい話だと思うだろ。でも、あの時の俺は本気で考えていたんだ。夜中だと魚は眠っていて、動きが鈍いんだ。これは、満月の明るい夜で確認していた。だから、網と松明を持って海に潜れば、魚が獲り放題だと思ったんだ」
 ハキさんの言う様に魚が眠り、松明を灯した明るい海ならば、魚は獲り放題だろう。
「成功したんですか?」
 僕が期待を込めて聞くと、ハキさんは「見ての通りさ。誰にも伝わっていないんだから、失敗だったんだ」と苦笑した。
「俺だって色々と工夫したさ。松脂を大量に付けたり、お前の所の漆を塗ったり、腐って倒れていた木を、一本まるごと海に投げ入れ
たりしたもんさ」
 ハキさんは思い出したように笑い、少し悲しげな顔になった。
「考えた物事が全部失敗した後、村の酋長に言われたよ。『自然に反する事は出来ない』ってな。水は火を消し、火は暗闇を照らす。太陽に照らされた土は木々や植物は成長させ、それを食べた俺たちを含めた動物は土に還り、また土から海に還る。それに反する事は、絶対に出来ないのさ」
 僕はハキさんの言葉に、何と言っていいのか分からなかった。人間の限界と、自然に反する事の境界線はどこなのだろう。何処までなら、人間は出来るのだろう。
僕はあまりにも物事を知らなすぎ、経験もなかった。今いる三内の中で、自分がちっぽけな存在に感じた。それを埋めるために、自分の知っている事を、知らない人に教えて褒められたいという様な、自分勝手な欲求にかられた。

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