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サキSide 4

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サキSide 4
『男の仕事は狩る事で、石器づくりは二の次だ』
是川の酋長が言った言葉は、私と弟の胸をえぐる様なものだった。その言葉に悪気はないのだろう。そして、それが私たちの生活の一部となっている。女性が鹿を狩ったりする事は効率が悪く、危険が伴う。
だが、それが一番私たちにとって辛いことであり、弟を最も傷つける言葉だった。
弟は、村のみんなから援助を受けて暮らしている。土器作りのために、身体の大きな女性や、時には男性に運んでもらい、仕事をする所まで行く。
そして、足が動かないので上手く座る事が出来ず、倒れないように背中に木の板を置いている。さらに、お尻が痛くならないよう地面に鹿の皮を敷き、たまに姿勢を変えてやっている。弟は、何のために産まれてきたのだろうかと思う時がある。サンおばさんに、慎重に尋ねたことがある。
「きっと、村のみんなを団結させるために、海の神様が授けてくれたのよ」
 サンおばさんの言う通り、弟の足が悪くなってから、皆が狩りの効率を上げるために、新しい石器造りや、獲物を囲む方法を考えるようになった。入江の村は、弟の足が悪くなってから豊かになったとも言えるのかもしれない。
 だが、その代償として弟の足は徐々に悪くなり、それに弟は苦しみ、私は弟に何もしてやれない、無力感のある日々をおくっている。
カラという是川の子供と一緒にいる時、弟はよく笑っていた。カラは土器作りや石器造りが、私の目から見ても下手だった。それを弟と練習しているうちに、二日間足らずで驚くべき成長を遂げた。もしかしたら、弟は人にものを教えることが上手いのかもしれない。
でも、もしカラという子供が弟よりも土器や石器造りが上手くなったとしたら、また弟の隣で土器や石器を造り、弟を笑顔にさせるのだろうか。
 人の不幸を願うわけではないが、カラにはこのまま土器や石器造りがずっと下手であって欲しいという、嫌な考えが私の頭をよぎった。
私は皆に振舞ったドロドロとした何かの蓋を少しだけ開け、その臭いで自分の嫌な気持ちを紛らわせた。

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