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 簡単な夕食を食べた後、ヨウは疲れていたらしく、すぐに眠りについた。
「お父さん、三内付近の村ってどれくらいあるの?」
僕は先ほど、ハキさんから聞いた事を思い出し、何人くらいの人たちが三内を管理しているのかが気になった。
「そうだな。確か五つの村があって、だいたい三十人か四十人くらいで住んでいるらしい。村の人数は俺たち是川の村よりも少ないが、石器や土器の技術、それと今日教えてもらった火おこしのやり方、多くの物事を知っている様だ
「そうなんだ。でも、どうして分かれているんだろう?」 
「分かれているって?」
「だって、みんな一緒に住んだ方が、役割分担もしやすいんじゃないの?」
 僕が不思議に思って尋ねると、お父さんは「そうしないと、村が全滅するかもしれないんだ」と言った。
「全滅って、人がたくさんいれば、みんなが助け合えるんじゃないの?」
「そうだ。誰かが怪我をしたりしても、誰かが代わりになってくれる。だが、一つの村で病気が流行って、全滅したことがあるんだ」
僕はそれを聞いて、みんなが風邪をひいて、動けなくなっているところを想像した。
「みんな動けなくて、食料が無くなったの?」
 僕の問いに、お父さんは首を横に振った。
「俺は一度しか見たことがないが、二度と見たくない光景だった。初めは村人全員が風邪のような症状が出て、高熱が出て、最後は手足が動かなくなったんだ。そして、多くの人たちが亡くなった。その遺体は陸に上げられたタコのように、ねじり曲がっていたんだ」
 僕はお父さんの言葉を聞き、想像しようとした。でも、僕の想像力だけでは、お父さんの見たであろう光景を想像する事は出来なかった。
「原因は分かっているの?」
 僕が不安そうに尋ねると、お父さんは「たぶん、汚かったからだ」と答えた。
「汚いって、どういう事?」
「その村の人間たちは、何と言うか、海の神様や山の神様を敬わずに、好き勝手に動物の肉や骨をばら撒いたんだ。その骨を食べに鳥がやって来てはそれを食べて暮らし、動物の死体を餌にして、動物を狩猟していたんだ。その結果、村はいつも臭くて、蠅やら汚い虫がたくさんいたんだ。それを嫌って、何人かの村人は村を捨てて他の村に移住した。そして、残った村人は同じ生活を繰り返した。その村から誰も交易に来なくなったことを不審に思った三内の人たちと、ちょうど三内にいた俺たちが行ってみると、みんな死んでいたんだ。まるで、神様が呪ったかのような惨状で、獣や鳥が人間を食べていたんだ」
 僕は腐敗した動物の臭さを思い出し、気持ちが悪くなってきた。
「お父さんたちは、その村に入っても平気だったの?」
 僕の問いかけに、お父さんは「誰も入ろうとしなかった。近づきたくても、怖くて近づけなかったんだ」と言い、顔を俯かせた。きっと、僕でもそんな光景を見たら、入りたくはないだろう。
「その村って、今はどうなっているの?」 
 僕の言葉にお父さんは「わからない」と短く答え、これ以上何も話したくないような口ぶりだった。

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