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カラSide 3-1
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カラSIDE
3―1
僕は自分で造った石器を木の棒の先に結び付け、簡単な投げヤリを造ってみた。僕が思いっきり野原に向けて投げても、すぐにヤリは地面に落ちた。これでは獲物がいる場所まで届かないだろうし、当たったとしても、獲物は痛くも痒くもないだろう。
「うーん、これじゃあ何も捕まえられないなぁ」
僕は投げた槍を回収しつつ呟いた。
夏場はずっと、ガイさんから石器などの造り方を習った。僕は石を割って造るよりも、小さな石を磨いた方が、出来のいい物が造れた。
でも、それは鋭さや切れ味はほとんどなく、草刈りにも使えそうも無いものだった。僕はため息をつきつつ、もう一度、ヤリを目標地点に向けて投げた。でもやっぱり、僕の力じゃ遠くまで飛ばず、ヤリ先も地面に刺さることなく、力なく転がっている。
「カラ、そろそろ戻るぞ」
「今行きます」
イバさんに声をかけられ、僕はヤリを回収した。
「カラはまだ小さいんだから、投げる強さが無くても仕方がないさ」
イバさんはそう言って、僕を慰めてくれた。
「僕の投げ方だと、飛ぶというより、落ちるって感じなんですよ」
僕はヤリ先を弄りつつ呟いた。
「ま、何度も石器を造って、何度も投げて練習するしかないさ」
イバさんは大きな石斧を、肩にかけるようにして担いでいる。イバさんも僕が言える事じゃないけれど、あまり石器の造り方が上手ではない。
その代わり、石斧の使い方が上手く、すでに山の木を叩き切れるようになっている。イバさんの石斧は、切れ味のいい物ではない。僕と同じで、先は丸みを帯びている。それなに、どうしてこうも違うのだろうか。
「イバさんは力が僕より強いから、石斧で木を斬れるのかな?」
僕が羨ましそうに言うと、イバさんは「どうだろうな」と、少し考えこむような仕草をした。
「僕より大人の方が力は強いし、切れ味のある石斧だって使っている。でも、何故か僕の石斧だと『切れない』って言うんだ」
「そうなんですか?」
「うん。この前、山から戻ってきたウドさんが『自分の石斧が壊れたから、ちょっと貸してくれ』って言うから渡したんだけど、『全然切れないじゃないか』って言って、すぐに僕に返したんだ」
「ウドさんの切ろうとした木が、固かったからじゃないんですか?」
「違うみたいだ。返してもらったらすぐに、僕がやってみたら切れたんだ。もちろん、ウドさんの方が力は強いし、僕を揶揄っている
ようには見えなかったな」
イバさんは不思議そうに、自分の肩にかけてある石斧を撫でた。物には自然の魂が宿ることがあるって聞いた事があるけれど、イバさんの石斧には何らかの魂が宿っていて、イバさんにだけ力を貸してくれているのだろうか。
「イバさん、ちょっと僕にその石斧を持たせてくれませんか?」
「いいけど、重いぞ?」
僕はイバさんから慎重に石斧を受け取り、両手で持った。とても重く、僕一人ではとても振り回せそうになかった。
僕が落としそうになっている所で、イバさんが石斧を僕の手から取り上げた。
「僕より力の強いウドさんが、僕より重い石斧を使っているのに、どうしてウドさんはあの時木を切れなかったのかなぁ」
イバさんの呟きに、僕も「どうしてでしょうね」と、相槌を打った。
沈んでいく赤い太陽を見ていたら、僕より小さい女の子が造った土器の方が火に強く、ちゃんとした物が造れていたことを思い出した。
もしかすると、力が強ければ何でも斬れて、壊せるという事ではないのかもしれない。小さな子供でなければ出来ない、見えない何かがあるのかもしれないと思った。
僕の軽い劣等感から来る考えだったけど、力や身体の大きさ、足の速さとかそういうものだけじゃない何かがあるのかなぁと、漠然とした考えが僕の頭に浮かんだ。
3―1
僕は自分で造った石器を木の棒の先に結び付け、簡単な投げヤリを造ってみた。僕が思いっきり野原に向けて投げても、すぐにヤリは地面に落ちた。これでは獲物がいる場所まで届かないだろうし、当たったとしても、獲物は痛くも痒くもないだろう。
「うーん、これじゃあ何も捕まえられないなぁ」
僕は投げた槍を回収しつつ呟いた。
夏場はずっと、ガイさんから石器などの造り方を習った。僕は石を割って造るよりも、小さな石を磨いた方が、出来のいい物が造れた。
でも、それは鋭さや切れ味はほとんどなく、草刈りにも使えそうも無いものだった。僕はため息をつきつつ、もう一度、ヤリを目標地点に向けて投げた。でもやっぱり、僕の力じゃ遠くまで飛ばず、ヤリ先も地面に刺さることなく、力なく転がっている。
「カラ、そろそろ戻るぞ」
「今行きます」
イバさんに声をかけられ、僕はヤリを回収した。
「カラはまだ小さいんだから、投げる強さが無くても仕方がないさ」
イバさんはそう言って、僕を慰めてくれた。
「僕の投げ方だと、飛ぶというより、落ちるって感じなんですよ」
僕はヤリ先を弄りつつ呟いた。
「ま、何度も石器を造って、何度も投げて練習するしかないさ」
イバさんは大きな石斧を、肩にかけるようにして担いでいる。イバさんも僕が言える事じゃないけれど、あまり石器の造り方が上手ではない。
その代わり、石斧の使い方が上手く、すでに山の木を叩き切れるようになっている。イバさんの石斧は、切れ味のいい物ではない。僕と同じで、先は丸みを帯びている。それなに、どうしてこうも違うのだろうか。
「イバさんは力が僕より強いから、石斧で木を斬れるのかな?」
僕が羨ましそうに言うと、イバさんは「どうだろうな」と、少し考えこむような仕草をした。
「僕より大人の方が力は強いし、切れ味のある石斧だって使っている。でも、何故か僕の石斧だと『切れない』って言うんだ」
「そうなんですか?」
「うん。この前、山から戻ってきたウドさんが『自分の石斧が壊れたから、ちょっと貸してくれ』って言うから渡したんだけど、『全然切れないじゃないか』って言って、すぐに僕に返したんだ」
「ウドさんの切ろうとした木が、固かったからじゃないんですか?」
「違うみたいだ。返してもらったらすぐに、僕がやってみたら切れたんだ。もちろん、ウドさんの方が力は強いし、僕を揶揄っている
ようには見えなかったな」
イバさんは不思議そうに、自分の肩にかけてある石斧を撫でた。物には自然の魂が宿ることがあるって聞いた事があるけれど、イバさんの石斧には何らかの魂が宿っていて、イバさんにだけ力を貸してくれているのだろうか。
「イバさん、ちょっと僕にその石斧を持たせてくれませんか?」
「いいけど、重いぞ?」
僕はイバさんから慎重に石斧を受け取り、両手で持った。とても重く、僕一人ではとても振り回せそうになかった。
僕が落としそうになっている所で、イバさんが石斧を僕の手から取り上げた。
「僕より力の強いウドさんが、僕より重い石斧を使っているのに、どうしてウドさんはあの時木を切れなかったのかなぁ」
イバさんの呟きに、僕も「どうしてでしょうね」と、相槌を打った。
沈んでいく赤い太陽を見ていたら、僕より小さい女の子が造った土器の方が火に強く、ちゃんとした物が造れていたことを思い出した。
もしかすると、力が強ければ何でも斬れて、壊せるという事ではないのかもしれない。小さな子供でなければ出来ない、見えない何かがあるのかもしれないと思った。
僕の軽い劣等感から来る考えだったけど、力や身体の大きさ、足の速さとかそういうものだけじゃない何かがあるのかなぁと、漠然とした考えが僕の頭に浮かんだ。
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