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サキSide 2

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サキSIDE 2
 是川から、交易品を持った人たちがやって来た。今回は、去年レイと仲良くなった子がいなかったけど、その子からの言付けもあり、私はレイに薬となる干しキノコを食べさせる事が出来た。
 村は宴会のようになり、大人たちは酒を飲んで交流を深め、子供は子供らで交流を深めている。
イバという名前の男の子は、この村の子とすぐに仲良くなった。ハムが見本となって、寝ころんでいるアザラシや、喧嘩をしているオットセイの真似をして、互いに遊んでいる。 
 酋長の息子だというアラという子は、船に乗っているかのように身体を揺らしながら、女性らと一緒に歌を歌いつつ踊っている。少し目がうつろに見えるのは、私の気のせいだろう。
 コシという子は、大人たちからお酒をこっそりと分けてもらい、飲んでしまった。その結果、頭を押さえて地面に横になっている。
弟が、そのコシを心配そうに見つめている。
「お姉ちゃん、大丈夫かなぁ?」
 弟は気にするものの、私は「放っておきなさい」と、少し冷たく突き放した。この村では、宴の席のお酒は海の神様に捧げる物と同義であり、それをこっそりと飲んだ罰が当たったのだと、私は思っているからだ。
「何だかみんな、楽しそうだね」
 弟の言葉に、私はひどく胸が痛んだ。私たち姉弟は、宴会から離れた所にいる。村の子供たちは、徐々に足が動かなくなり、山にも登れず、海にも泳げない弟の事を邪魔者扱いとまではいかないけれど、何だか遠慮するような立場をとっている。
何もしなくていいという様な、村の男の子の一員なのに、村の男の子の仕事をしなくていいという様な、私にも弟にもよくわからない扱いを受けている。
 もっとも、弟が山や海で子供の仕事が出来ない事は、弟と私が一番よくわかっている。それでも、出来ない弟と、それを出来るようにさせられない自分が、何だかとても歯がゆかった。
 子供たちの中から、ひときわ大きな笑い声が聞こえてきた。どうやら、身体の大きなオスのトド同士がメスをめぐって喧嘩する様子を、ハムとイバという子が再現し、互いに大きな口を開けて戦っているようだった。
「僕も、みんなと一緒に遊びたいな」
 弟が寂しげに呟いた。弟は男の子の仕事が出来ないだけであって、私たち女の子供の仕事は出来る。今は一緒に土器造りや、石器を造っている。私が言うのもおかしいが、弟は土器や石器を造るのが上手く、同年代の女の子よりも格段に上手かった。
 その事を褒めると、弟は嬉しそうに笑った。でも、海から帰ってきて貝やカニを獲ってきた男の子たちを見ると、顔が曇ってしまうのだ。
「あなたは、あなたの出来る事をすれないいのよ」
 私は弟にそう言うけれど、弟は納得していないようだった。弟は弟で、他の誰でも無い。それでいいじゃないかと思う一方で、弟の足を治してやりたい。その気持ちが、私の中で薄れる事は無かった。
「僕も、トドの真似なら出来るんだけどなぁ」
 弟は、笑いの渦中にいる二人を見て呟いた。その言葉を聞き、私はとっさに「しなくていいのよ」と言った。弟は『どうして?』という様な眼で私を見つめてきたが、私の口からは言えなかった。
弟はそのうち手足全てが動かなくなって、トドのように陸を這いまわる事しか出来なくなるのかもしれないという、悪い想像が私の頭に浮かんでしまったからだ。

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