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 お父さんたちは予定していた日付通りに、三内へ向かい船を漕ぎだしていった。お兄ちゃんは「ジンさんから聞いた『船の動きに逆らわない動き』をすれば大丈夫」と、少し緊張気味に呟きつつ船に乗り込んで行った。
お父さんたちが村にいない間は、ガンさんとキンさんの二人が、村を仕切ることになっている。僕は土器造りの次は、石器造りをすることになった。石器造りを教えてくれるのはガイさんだ。
 本来、石器は黒曜石や固い石を使うのがいいのだが、練習に使えるほどの量は無く、まずは手ごろな石で造ってみる事になった。
「カラ、石を尖らせるよう端と端を割るように、力を加減して石を当てるんだ」
 僕はガイさんの言うとおり、丸い石の端を、もう片方の手で持っている石で打ちつけた。すると、丸い石の一部が割れた。もう片方も同じように割れれば、尖った石器が造れそうだった。
「よし、次は今の衝撃で石が割れやすくなっているから、さっきより力を抜いて叩いてみるんだ」
 僕は先ほどより、幾分力を抜いて石を打ちつけた。でも、石は少し削れただけで割れなかった。そこで、今のよりも勢いをつけて叩いてみると、今度は石全体が割れてしまい、丸い石が半分になってしまった。
「これが本番じゃなくてよかったな。さあ、もっと練習しないとな」
ガイさんに言われ、僕はまた石を持ってきて、また割ってを繰り返した。それでも、物を突き刺せるような石器を造る事は出来なかった。
「うーん、カラは割って石器を造るよりも、磨いて石器を造るほうが向いているのかもしれないな」
 数日後、ガイさんは固めの細い石を持ってきてくれて、固くて台座となるような石がある所に連れてきてくれた。台座となる石は、誰かが何度も石と石を磨いたような跡があり、なめらかな溝がいくつかあった。
「さ、まずはやってみようか」
 ガイさんの言葉と同時に、僕は細い石を台座の上で何度も磨き、石を往復させた。叩いて割る石器よりも力加減は難しくなく、むしろ力を込めて磨いた方が早く完成しそうだった。
 しかし、それは僕の勘違いであった。確かに叩くよりも簡単な作業ではあったが、石と石を往復させるだけでは持っている石はなかなか削れず、石を持っている手だけではなく、腕全体が疲れてきた。
僕が磨く事をいったん止め、手をぶらぶらとさせていると、ガイさんは村のほうを見ながらそわそわとしているようだった。
「ガイさん、ケイさんとイサちゃんの事が気になるんですか?」
僕の言葉にガイさんは「ま、まあそうだけど。カラや子供たちに教えるのも重要な仕事だし」と、少し目を泳がせながら、早口で言った。
「僕なら大丈夫ですよ。太陽が真上にくる頃に、ガイさんの家に磨いた石器を持っていきますから、ケイさんとイサちゃんの所に行って下さい」
 僕の言葉を聞き、ガイさんは「何かあったら、すぐ来るんだぞ」と言い残し、駆け足で家に戻っていった。ガイさんとケイさんの子供、イサちゃんは無事に冬を越せ、家中を這いまわっている。
 僕にもイサちゃんの様に、這い廻っていた頃があったのかなと思いつつ、僕は再び石を磨く作業に戻った。
「お兄ちゃんたち、無事に三内について、入江でレイと再会しているかな?」
 僕は手だけを動かしつつ、空を見上げた。

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