『潮が満ちたら、会いに行く』

サキＳｉｄｅ １

サキＳｉｄｅ １
 大人になるための儀式として、男性は１５歳で弓の儀式を行う。女性も１５歳だ。どうして女性も１５歳なのかサンおばさんに尋ねると、「子供を産める年齢になるからだよ」という答えが返ってきた。
私は、昔から不思議だった。どうして子供は、女性しか産む事が出来ないのだろうと。
「どうしてって、海の神様が決めたんじゃないのかねぇ？」
 私の問いに、サンおばさんは自分でもよくわかっていないような口ぶりで答えた。
「女性だけじゃ、子供は産めないの？」
 この問いに、サンおばさんは私と二人で長い話をしてくれた。女性だけじゃ子供は出来ない事。女性は男性と身体の造りが大きく異なる部分がある事。そして、子供の造り方も知った。
 この事を知った時の私の年齢は７歳くらいで、自分の身体が男の子たちと、何だか違っている様な気がしてきた頃だった。
 こんな時、私に母がいたらなと思わずにはいられなかった。この時期の男の子たちも、自分の身体の造りに戸惑いを感じ、大人の男性と話し合っていたという。私の弟も、少しばかり父と話しをしたらしい。
 弟の両足は、もうあまり動かない。下から少しずつ動かなくなっているので、もしかすると男性としての性も動か無くなるのではないかと心配になった。
 でも、それを弟から直接聞くことは、何だか出来なかった。弟は、女性と子供を造ることは出来るのだろうか。そもそも、弟と一緒になってくれる女性は現れるのだろうか。
 私の悩みは尽きず、弟も自分の足の動かなさに悩んでいる。それでも、他の男の子たちと混じり、腹ばいになるようにして貝を掘り、父と私と一緒に食事をする。
 動かない足を、必死に動かそうとしている弟を、私は抱きしめて褒めてやりたい。だが、私は『姉』なのだ。いくら私が弟を褒めてやっても、弟は何だか不満げな顔だ。
私が気にかけすぎるのもあるのだろうが、やはり母がいないせいなのかもしれない。弟が、他の男の子が自分の母親に褒められているのを、羨ましそうに見ていることが、私の一番の悩みとなりつつあった。
 私では、弟の母親代わりにはなれないのだろうか。