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 僕とレイとグエさん、途中からお兄ちゃんとジンさんも話に加わり、主にグエさんの話す話題を聞いていた。
「俺たちが少しばかり栽培しているヒエの他にも、食べられる栽培植物があるらしいんだ。ただ、冷夏に弱いらしくて、この辺りじゃ育ちが悪いらしいんだ」
「どこで聞いた話ですか?」
 お兄ちゃんが尋ねると、グエさんは「秋田のほうだったかなぁ」と、思い出すように言った。
「お兄ちゃん、お母さんは秋田出身だったよね?」
 僕が確認するように聞くと、お兄ちゃんはうなずき「そうだ。どうして何も教えてくれなかったんだろう?」と、僕と同じ疑問を抱いているようだ。
「ははは、秋田も広いんだ。俺が聞いたのは秋田の南のほうだ。あそこは温かい気候だったらしくてな。いろんな雑穀が育てられたらしいんだ」
 グエさんが僕たちを、からかっているわけでないことは分かっている。でも、あまりにも知らないことだらけで、頭が追いついていかなかった。
「知らないことばかりですね」 
 ジンさんがグエさんの発言を聞きながら、地面に絵を描いていた。どうやら、グエさんの言っている場所へ行く絵を描こうとしている様だ。
「そうそう、船に乗っていると、この辺りがもうちょっと長くてーー」
「そうそう、いつまで子供相手に長話をしているんだ?」
 グエさんがジンさんの描いた絵に付け足しをしようとした時、入江から来た他の大人たちが、グエさんの肩に手をやった。
「ゾンさん。あなたの子供とその友達たちにこの地域がいかに狭く、広いかを教えていたところです」
 グエさんは少しばかり、顔を引きつけさせながら、ゾンさんと言った男性に口を開いた。
「ほう、レイの友達か。俺はゾン。レイと、今はいないが、サキの父親だ」
ゾンさんは入江から来た大人たちの中で一番毛深く、顏に白さはなく、とても日に焼けていた。
「初めまして、カラです」
 僕は少し緊張気味に自己紹介し、お兄ちゃんとジンさんも続いた。
「これから俺たちの村と、君たちの村は直接的な交易を増やすことになった。君たちの村からは漆や干しキノコ、貝の装飾品を。俺たちの村からは、主に怪獣の毛皮などを交易することになった。レイ、お前も大きくなったら、この子らと交易することになるかもしれない。子供のうちは会う機会も少ないだろうが、今のうちに存分に語り合うようにな」
 ゾンさんに言われ、レイは大きくうなずいた。
「そしてグエ」
「はい?」
「お前はいつでも行き来して語り合える様な操船技術を持っているんだから、少しは交易の話し合いにも参加しないか」
 ゾンさんはグエさんにそう言うなり、グエさんの首を引っ張るようにして連れて行ってしまった。
「レイのお父さんって、なんだか強そうだね」
 僕が思ったことを口にすると、レイは「うん」とうなずいたものの、表情は少し暗かった。
「僕の足が、このまま治らなかったらどうなるんだろう。カラたちとこれからずっと、交流できるのかな?」
 僕はとっさに「きっと良くなるよ」と言ったけど、それには何の根拠もなくて、なんだかとても悔しかった。

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