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 渡島から来たという人たちは、渡島の中では南の端っこの、入江という村に住んでいるという。しかも、渡島は広くて、どこまでも海岸が続いていると聞いたから驚きだ。
「渡島の北には何があるの?」
 交易品の交換は大人たちに任せ、僕は同じ年だと分かったレイに、色々と知らないことを尋ねた。
「うーん。僕も聞いたことしかないけど、氷だけの陸地があるって話だよ」
「氷の陸地?」
「そう。そこにはアザラシやオットセイがたくさんいて獲り放題だって、北の方から来た人たちが言っていたよ」
 僕もアザラシを見た事はある。でも、遠くにいたりして、狩ってきたものも大人たちがすでに血抜きを終えていたのばかりで、生きているものを見たことは無かった。
「レイはアザラシやオットセイを見た事はあるの?」
「よく見るよ。浜辺で寝ころんでいる時もあるし」
「それじゃあ、食料に困る事なんて無いじゃない?」
 僕は取り放題と聞き、胸を躍らせた。寒くて獣も外に出ないような冬でも、お腹が空く事なんてないと思ったからだ。
「取り放題と言っても、獲っていい数は決まっているんだ」
「そうなの?」
「うん、獲りすぎて数が減ったら僕たちも困るし、獲りすぎると危険を感じて、アザラシたちも近くの浜辺にやってこなくなるかもしれないんだ」
 僕はレイの言葉を聞き、なるほどと思った。僕もお父さんから「鹿を無暗に、獲りすぎてはいけない」と、言われたことがある。
獣を獲りすぎると、それだけ獣がいなくなる。それは人間も同じで、人間が減れば、村が一つなくなる。そう、キノジイが言っていたのだ。キノジイが最初から是川の村にいたのか、それとも他の村にいたのか、僕は知らなかったけど。
「ねえ、あなたたちが持ってきた干しキノコの中に、薬になるものってあるかしら?」
僕は突然サキさんから話しかけられ、身体が『ビクッ』とした。
「ほら、お姉ちゃんがきつい口調だから、みんな怖がっているよ?」
 レイの声に、サキさんは「あ、ごめんなさい」と言い、顔が赤くなった。
「本当にごめんなさい、私、弟のことになるとつい熱くなっちゃって・・」
 サキさんは本当に申し訳なさそうに、頭を下げた。僕も、もしお兄ちゃんが病気になって、その原因がわからなかったらどうすればいいかわからず、いろんな人に尋ね回るだろう。サキさんは弟思いなだけで、本当は優しい人なんじゃないかと僕は思った。
「カラ、キノジイから何か薬となる欲しキノコを貰ってきたか?」
「え・・?」
 お兄ちゃんに尋ねられ、ぼくははっとした。僕は交易品となる、重要な干しキノコをただ適当に持ってきただけで、どれが何のキノコで、どんな効用があるのかまるで知らなかったのだ。
 僕が黙り込んでいると、サキさんはため息をつくような仕草をした。
「僕もカラに、ただ取って来いと言っただけで、何も言っていなかったんです。僕の責任でもあります。すみませんでした」
 お兄ちゃんがサキさんに謝り。僕も続いて謝った。すると、サキさんは「いいのよ」と言い、「私も、三内に来れば弟の病気は必ず治るって、理由もなく信じ込んでいたのよ。他人の交易品に頼らず、自分で情報を集めなくちゃ」と言いい、入江の大人たちに何事かを告げて、走り去っていった。

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