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3―2
 僕は『ザワザワ』という、聞きなれない大音量で目が覚めた。その音源が人間の声だと気が付いたのは、自分の今いる場所を再認識してからだった。
「おはよう、カラ」
 隣で寝ていたお兄ちゃんが、眠たそうに声をかけてきた。
「おはよう。こんなに人がいたんだ・・」
 この僕の『こんなに』は、この建物にいつの間にか人がたくさんいた『こんなに』と、自分の生きている地域に、『こんなにたくさん人間がいたんだ』という、二つの意味があった。
「おはようアラ、カラ。こんなに寝たんだから、疲れは取れているだろう?」
 お父さんはすでに交易品を身体に巻き付けて、漆の入った土器や干しキノコの籠を準備して待っていた。
「あれ、ジンさんは?」
 僕が周りを見渡すと、お父さんら大人はみんないるけれど、ジンさんだけ見当たらなかった。
「ああ、ジンなら『見た事の無い女の子がいた』とか言って、外に出て行ったんだ。まったく、あいつがませた子供だったなんて知らなかったよ」
 お父さんがため息交じりに言うと、周りの大人たちは「あいつも年頃だしな」と言い、笑い合っていた。
 僕は昨日の疲れが残っている事を身体全体で感じながらも、早くこの宿泊所から出てもう一度、三内の全景を見たいという思いで一杯だった。
昨日よりも、この宿泊所には人がたくさんいる。という事は、外にはもっとたくさんの人がいるはずだと思ったからだ。
「みんな、荷物は持ったか?」
お父さんの声に、この場に居ないジンさんを除くみんなが頷いた。ジンさんはまだ帰って来ない。この宿泊所を管理している三内の人にジンさんの特徴を伝え、「外にいるから、今日中に帰らないと置いていくぞ」という伝言を頼み、お父さんを先頭にして外に出た。 
 外の光景は、今まで見た海や空や山なんかとは比較にならない。人間の海や空や山といったらいいのだろうか。とにかく人間ばかりで、大きな声が飛び交って交易が行われている。
「黒曜石とアスファルトを交換してくれんか?」
「弓の弦をはいらんか?」
「これは珍しいヒスイの塊だ。持って帰れば、まるで神様だ!」
 僕は宿泊所の入り口で、いつまでも人の声を聞いていたいと思った。けれど、お父さんが「早く行くぞ」と促し、仕方なく人の脇を通って、お父さんたちと交易を行っているという人たちの元へ向かった。

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