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サキSide 2
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サキSide 2
「レイ、しっかり私にしがみついているのよ」
私が弟に言うと、弟は不満そうに「お姉ちゃんと一緒に、身体を縛らなくてもいいじゃない」と言い、口を尖らせた。
「サキは心配性だな。俺たちが船を転ばして、海に落とすなんてことは無いんだぞ?」
船を櫂いているグエさんら大人たちは笑っていたが、私は心配でならなかった。
入江の海は穏やかだけど、一定の場所まで来ると波が高くなって、素潜りの漁が出来なくなると、サンおばさんが言っていたからだ。
私はまだ、そこまで泳いで行ったことは無い。大人の女性らに「子供にはまだ早いわよ」と止められているし、沖にいくほど水も冷たくなり始め、私のような身体の小さな子供では、すぐに身体が冷えてしまうからだ。
私は弟の他に、アザラシやオットセイ、ヒグマの皮を身体に巻き付けている。これらは三内で交易される品々で、三内や他の村の人たちにとって、冬の暖かな服代わりとなるのだ。
これらの品を身体に巻き付けているのはとても暑く、汗が多量に噴き出してくる。いくら秋になっているからと言っても、太陽はまだ私たちを暑く照らしてくれている。
「お姉ちゃん、のどが渇いたよ」
弟が切なそうな声を出した。
「はい、少しずつ飲むのよ」
私は粘土で造った筒の水筒を弟に渡し、弟はゆっくりと、味わうようにして飲み込んだ。
「あと、どれくらいで着くのかな?」
弟の言葉に、私は答えを持ち合わせていなかった。何故なら、私も初めて三内に行くからだ。
「そうだなぁ、太陽が海から昇る前に出たから、沈む前くらいには着くぞ?」
櫂を漕いでいるグエさんは豪快に笑い、掛け声をあげながら手を動かしている。潮風と塩辛い水しぶきが口の中をひりつかせるのに、どうしてあんなに口を大きく開けられるのだろうかと、私は不思議に思う。私なら喉が渇いてしまい、水筒の水をすぐに飲み干してしまうだろう。
私の心配をよそに、入江から出た船団はグエさんの船を先頭にして、力強く村の大人たちの力によって進んでいる。きっと、弟もあと十年ほどすれば、こんな風に船を漕ぐことが出来るようになるのかもしれない
だが、左足がおかしい。弟は、大人になれるのだろうか。私の脳裏には、サンおばさんの子供が亡くなった時のことが鮮明に映し出せれている。ちょうど、弟と同じの年頃だった。
サンおばさんは弟の事を、実の息子のように可愛がってくれている。きっと、亡くなった子と重ねているのだろうけど、弟は弟なのだ。誰の物でもないはずだ。
弟は、私が守らなくちゃいけない。
「レイ、しっかり私にしがみついているのよ」
私が弟に言うと、弟は不満そうに「お姉ちゃんと一緒に、身体を縛らなくてもいいじゃない」と言い、口を尖らせた。
「サキは心配性だな。俺たちが船を転ばして、海に落とすなんてことは無いんだぞ?」
船を櫂いているグエさんら大人たちは笑っていたが、私は心配でならなかった。
入江の海は穏やかだけど、一定の場所まで来ると波が高くなって、素潜りの漁が出来なくなると、サンおばさんが言っていたからだ。
私はまだ、そこまで泳いで行ったことは無い。大人の女性らに「子供にはまだ早いわよ」と止められているし、沖にいくほど水も冷たくなり始め、私のような身体の小さな子供では、すぐに身体が冷えてしまうからだ。
私は弟の他に、アザラシやオットセイ、ヒグマの皮を身体に巻き付けている。これらは三内で交易される品々で、三内や他の村の人たちにとって、冬の暖かな服代わりとなるのだ。
これらの品を身体に巻き付けているのはとても暑く、汗が多量に噴き出してくる。いくら秋になっているからと言っても、太陽はまだ私たちを暑く照らしてくれている。
「お姉ちゃん、のどが渇いたよ」
弟が切なそうな声を出した。
「はい、少しずつ飲むのよ」
私は粘土で造った筒の水筒を弟に渡し、弟はゆっくりと、味わうようにして飲み込んだ。
「あと、どれくらいで着くのかな?」
弟の言葉に、私は答えを持ち合わせていなかった。何故なら、私も初めて三内に行くからだ。
「そうだなぁ、太陽が海から昇る前に出たから、沈む前くらいには着くぞ?」
櫂を漕いでいるグエさんは豪快に笑い、掛け声をあげながら手を動かしている。潮風と塩辛い水しぶきが口の中をひりつかせるのに、どうしてあんなに口を大きく開けられるのだろうかと、私は不思議に思う。私なら喉が渇いてしまい、水筒の水をすぐに飲み干してしまうだろう。
私の心配をよそに、入江から出た船団はグエさんの船を先頭にして、力強く村の大人たちの力によって進んでいる。きっと、弟もあと十年ほどすれば、こんな風に船を漕ぐことが出来るようになるのかもしれない
だが、左足がおかしい。弟は、大人になれるのだろうか。私の脳裏には、サンおばさんの子供が亡くなった時のことが鮮明に映し出せれている。ちょうど、弟と同じの年頃だった。
サンおばさんは弟の事を、実の息子のように可愛がってくれている。きっと、亡くなった子と重ねているのだろうけど、弟は弟なのだ。誰の物でもないはずだ。
弟は、私が守らなくちゃいけない。
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