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サキSide 1
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サキSide 1
初めて弟の異常に気が付いたのは私だ。弟は今年で7歳になる。あの子が産まれるてしばらくして、お母さんは亡くなってしまった。以来、私があの子の母親代わりとして育ててきた自信が、私にはある。だから、嫌でも分かってしまうのだ。弟が、何かしらの病に罹っていることに。
最初、単に足に怪我を負っているのかと思っていた。弟と同じ年ごろの子供はよく木に登り、崖を降り、野山を走り回る。生傷が絶えることがない。
私は弟の足を念入りに調べた。近くの川で足を奇麗に洗ってやり、どこか痛い箇所は無いか、念入りに足全体を揉みながら尋ねた。
「お姉ちゃん、どこも痛い場所なんてないよ?」
弟は、私が何を恐れているのかわかっていない様だった。そもそも、私自身でさえ上手く説明がつかないのだ。
ただ漠然と、他の子たちとは違う『何か』が弟にはある。そんな感じだ。
その『何か』が誰の目にも見えるようになったのは、夏の暑いある日の事だった。
「レイが海で溺れかけたわよ。何があったのかしらねぇ?」
よく弟の面倒を見てくれたサンおばさんの言葉に、私は言葉を失った。弟は5歳の頃から海で泳げ、父と共に船に乗って漁に出かけたこともある。今の海はとても穏やかで、何かが起こらなければ、溺れる事なんてない。弟に誰かが悪戯するなんて、以ての外だ。海で悪戯をする行為は、海の神を汚す行為であり、それは幼い子供でも分かる事だ。
故に、弟は自分の力の足りなさで溺れかけたのだ。
「レイ、本当にどこも悪い所は無いの?」
私はつい、強い口調で追及してしまった。私は『しまった』と、弟を責め立てるような姿勢でいる事に気が付きながらも、自分の中で沸き上がってくる不安感を、口の中から吐き出さずにはいられなかった。
私はその言葉を何とか口の中にとどめ、気まずい時間が流れた。その時、一緒に海にいた弟と同い年のムウが口を開いた。
「レイの足、折れてもいないのに動かない事があるみたいだよ」
私はその言葉を聞いて、愕然とした。『どうして早く私に言わなかったの?』と、問い詰めたくなる気持ちを必死で抑え、私は弟を抱きしめた。
「どこか他に悪い所があったら、私に言うのよ?」
私に怒られるのかと思っていた弟は、私の言動で顔を緩めた。
「大丈夫だよ。偶に、少し左足が動かないだけだから」
私の気持ちを知ってか知らずか、弟はその場で足を使って飛び跳ねた。
でも、私は見逃さなかった。弟の左足は飛び跳ねるたびに、力なくぶらぶらしている時がある事を。
2
その日の夜、私は父に弟が海で溺れかけた事と、左足がおかしくなっていることを告げた。
「お前は気にしすぎなんだよ」
父はそう言って、眠っている弟の寝顔を眺めている。
私は弟を起こさないくらいの声で、必死に父に訴えかけた。弟は、きっと何かしらの病に罹っているのだと。
「わかったわかった。秋に三内に行くから、その時にお前たち二人も、後学のために連れて行こう。その時に、レイの足の悪さについて、何か知っている人がいるかもしれないしな」
父はそう言って、この話を切り上げた。
「お前は、亡くなった母さんに似ているな」
そんな言葉も、父の口から出た。私は母の事をよく覚えている。私が6歳の時に亡くなったけど、その優しい顔つきや声は、今でも心の中で生きている。その母の思いを受け継ぎ、私は弟の『母親代わり』にならないといけない。
父の言動を顧みて、私は再度、その思いを心に深く刻み込んだ。
初めて弟の異常に気が付いたのは私だ。弟は今年で7歳になる。あの子が産まれるてしばらくして、お母さんは亡くなってしまった。以来、私があの子の母親代わりとして育ててきた自信が、私にはある。だから、嫌でも分かってしまうのだ。弟が、何かしらの病に罹っていることに。
最初、単に足に怪我を負っているのかと思っていた。弟と同じ年ごろの子供はよく木に登り、崖を降り、野山を走り回る。生傷が絶えることがない。
私は弟の足を念入りに調べた。近くの川で足を奇麗に洗ってやり、どこか痛い箇所は無いか、念入りに足全体を揉みながら尋ねた。
「お姉ちゃん、どこも痛い場所なんてないよ?」
弟は、私が何を恐れているのかわかっていない様だった。そもそも、私自身でさえ上手く説明がつかないのだ。
ただ漠然と、他の子たちとは違う『何か』が弟にはある。そんな感じだ。
その『何か』が誰の目にも見えるようになったのは、夏の暑いある日の事だった。
「レイが海で溺れかけたわよ。何があったのかしらねぇ?」
よく弟の面倒を見てくれたサンおばさんの言葉に、私は言葉を失った。弟は5歳の頃から海で泳げ、父と共に船に乗って漁に出かけたこともある。今の海はとても穏やかで、何かが起こらなければ、溺れる事なんてない。弟に誰かが悪戯するなんて、以ての外だ。海で悪戯をする行為は、海の神を汚す行為であり、それは幼い子供でも分かる事だ。
故に、弟は自分の力の足りなさで溺れかけたのだ。
「レイ、本当にどこも悪い所は無いの?」
私はつい、強い口調で追及してしまった。私は『しまった』と、弟を責め立てるような姿勢でいる事に気が付きながらも、自分の中で沸き上がってくる不安感を、口の中から吐き出さずにはいられなかった。
私はその言葉を何とか口の中にとどめ、気まずい時間が流れた。その時、一緒に海にいた弟と同い年のムウが口を開いた。
「レイの足、折れてもいないのに動かない事があるみたいだよ」
私はその言葉を聞いて、愕然とした。『どうして早く私に言わなかったの?』と、問い詰めたくなる気持ちを必死で抑え、私は弟を抱きしめた。
「どこか他に悪い所があったら、私に言うのよ?」
私に怒られるのかと思っていた弟は、私の言動で顔を緩めた。
「大丈夫だよ。偶に、少し左足が動かないだけだから」
私の気持ちを知ってか知らずか、弟はその場で足を使って飛び跳ねた。
でも、私は見逃さなかった。弟の左足は飛び跳ねるたびに、力なくぶらぶらしている時がある事を。
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その日の夜、私は父に弟が海で溺れかけた事と、左足がおかしくなっていることを告げた。
「お前は気にしすぎなんだよ」
父はそう言って、眠っている弟の寝顔を眺めている。
私は弟を起こさないくらいの声で、必死に父に訴えかけた。弟は、きっと何かしらの病に罹っているのだと。
「わかったわかった。秋に三内に行くから、その時にお前たち二人も、後学のために連れて行こう。その時に、レイの足の悪さについて、何か知っている人がいるかもしれないしな」
父はそう言って、この話を切り上げた。
「お前は、亡くなった母さんに似ているな」
そんな言葉も、父の口から出た。私は母の事をよく覚えている。私が6歳の時に亡くなったけど、その優しい顔つきや声は、今でも心の中で生きている。その母の思いを受け継ぎ、私は弟の『母親代わり』にならないといけない。
父の言動を顧みて、私は再度、その思いを心に深く刻み込んだ。
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