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集合場所は海と川、それと山の間にある平地だ。
「さあ、海で蟹や海藻を獲るのは俺と一緒について来てくれ。山に行くのはジンさんと一緒に行ってくれ」
お兄ちゃんが言うと、みんなは素直にうなずいた。
お兄ちゃんはジンさんよりも年下だけど、お父さんが『酋長』という立場という事もあり、特別に子供のまとめ役になっている。たまに年上の子供と喧嘩をすることもあるけど、僕たちの中でお兄ちゃんがまとめ役であることを、不満に思っている子共はいないはずだと、僕は思っている。
「じゃあ、太陽が真上に来る前にここに戻るように」
お兄ちゃんの声に、みなが「はい」と返事をし、二つの班に分かれた。
僕たちはジンさんを中心に、四人で山の中に入った。山と言っても登るわけではなく、山の周辺に生えている山菜を採る事が役目だ。僕が一番年下で、ジンさんは十四歳だ。ジンさんでも、この山の奥に入った事は無いそうだ。山の奥まで入るには十五歳になって、大人の儀式を行わないといけないからだ。
「カラ、あまり僕たちから離れるなよ」
ジンさんは僕の手を引くようにして、話しかけてきた。
「はい、沼にはまりたくないですし」
春の雪解け水によって、多くの山菜が生えているものの、その水は土の中にまでしみ込み、足を取られてしまう。
「うわぁ、これ以上は無理だよ」
先頭にいたコシさんが、足をぬかるんでいる土の中から引っ張り出そうともがいていた。
しかし、コシさんが藻掻けば藻掻くほど、まるで沈んでいくように僕には見えた。
「コシ、それ以上動くな」
「え、じゃあどうするの?」
ジンさんの言葉に、コシさんは少しばかり涙ぐんだ。ジンさんは付近のぬかるんだ土を、手足で少しずつ確かめながら、近くの木に近づき、するすると木に登っていった。ジンさんは、村で一番の木登り名人だ。子供の中でだけど。
木に登ったジンさんは、腰に付けていた小型の石斧で、何度も木の枝を思いっきり叩きつけ、枝を切り落とした。
「コシ、動いていないよな?」
ジンさんはするすると木から降りて、コシさんに話しかけた。
「うん、動きたくても足が固まっているみたいだ」
コシさんは動けない代わりに、自分の足の周りの草や土を手で取り除いていた。コシさんの足は、膝まで埋まっていた。
「みんな、この切り落とした枝を使ってコシを引っ張るぞ」
ジンさんの声に僕たち三人は枝を持ち、コシさんの手元まで枝を伸ばすようにして差し出した。
「掴んだか?」
「うん、ここからどう動けばいい?」
「無理矢理足を抜こうとせずに、少し足を左右に回転させながら動いてくれ。後は、僕たちが引っ張る」
ジンさんの言葉にコシさんは頷き、僕も枝を掴んで引っ張り出そうとしたけど、ジンさんは僕の手を払った。
「え、僕じゃ足手まといなの?」
僕は少し悲しくなった。自分の力は弱いけど、コシさんを助ける役に立ちたいという思いが強かったからだ。
「いや、足手まといじゃない。でももし、僕たちもぬかるみに足を取られて動けなくなった時に、大人たちに助けを呼んできてほしいんだ」
ジンさんの言葉に、ようやく僕は納得がいった。でも、もし自分の力が強かったらという思いもぬぐえずにいた。
僕がそんなことを考えているうちに、ジンさんたちは掛け声をかけつつ枝を引っ張り、コシさんも足を左右に動かして、無事にコシさんは救出された。
「ああ、落とし穴にはまった時よりも怖かった」
コシさんは足にこびりついた泥を落としつつ、安堵の息をついた。
「よし、コシを引っ張り上げた時の枝を何本かに折るから、危なそうなこの付近の場所に刺しておいてくれ」
ジンさんの号令で、僕以外の三人は腹ばいになりながら、慎重にコシさんが沈んだ箇所のような部分を探し始め、枝を指していった。
次にここに来た時に、またぬかるみにはまらないためだ。
その間、僕は今まで進んできた道の草をむしる役割を与えられた。ぬかるんだ後の箇所は肥沃な土になるため、土器などの粘土を調達するにはちょうどいい場所になるかもしれないからだ。その場所の『仮』の整備を、僕はやっている。
でも、草はいくらむしってすぐに生えてくるし、何だか自分のやっていることが無駄に思えてきた。
その時だった。僕が痛くなってきた腰を伸ばそうと立ち上がり、空を見上げた瞬間、鷹が森と平地の間に急降下し、しばらくして何も捕えずに飛び去って行った。
「ジンさん、鷹がいたよ」
僕が腹ばいとなって、泥だらけになっているジンさんたちに向かって叫んだ。みんな泥だらけで、誰がジンさんだかわからなくなっていた。
「カラ、鷹なんていつでもいるだろ?」
泥だらけの中の一人が、ジンさんの声を出した。
「ううん。何か獲物を見つけて、急降下していったんだ。そして、何も捕らえられなかったみたいです」
僕の言葉に、ジンさんを含め皆が喜色ばんだ。
「カラ、鷹が降りた場所は覚えているか?」
ジンさんの言葉に、僕は思いっきり頷いて、鷹が急降下した一点を指さした。
集合場所は海と川、それと山の間にある平地だ。
「さあ、海で蟹や海藻を獲るのは俺と一緒について来てくれ。山に行くのはジンさんと一緒に行ってくれ」
お兄ちゃんが言うと、みんなは素直にうなずいた。
お兄ちゃんはジンさんよりも年下だけど、お父さんが『酋長』という立場という事もあり、特別に子供のまとめ役になっている。たまに年上の子供と喧嘩をすることもあるけど、僕たちの中でお兄ちゃんがまとめ役であることを、不満に思っている子共はいないはずだと、僕は思っている。
「じゃあ、太陽が真上に来る前にここに戻るように」
お兄ちゃんの声に、みなが「はい」と返事をし、二つの班に分かれた。
僕たちはジンさんを中心に、四人で山の中に入った。山と言っても登るわけではなく、山の周辺に生えている山菜を採る事が役目だ。僕が一番年下で、ジンさんは十四歳だ。ジンさんでも、この山の奥に入った事は無いそうだ。山の奥まで入るには十五歳になって、大人の儀式を行わないといけないからだ。
「カラ、あまり僕たちから離れるなよ」
ジンさんは僕の手を引くようにして、話しかけてきた。
「はい、沼にはまりたくないですし」
春の雪解け水によって、多くの山菜が生えているものの、その水は土の中にまでしみ込み、足を取られてしまう。
「うわぁ、これ以上は無理だよ」
先頭にいたコシさんが、足をぬかるんでいる土の中から引っ張り出そうともがいていた。
しかし、コシさんが藻掻けば藻掻くほど、まるで沈んでいくように僕には見えた。
「コシ、それ以上動くな」
「え、じゃあどうするの?」
ジンさんの言葉に、コシさんは少しばかり涙ぐんだ。ジンさんは付近のぬかるんだ土を、手足で少しずつ確かめながら、近くの木に近づき、するすると木に登っていった。ジンさんは、村で一番の木登り名人だ。子供の中でだけど。
木に登ったジンさんは、腰に付けていた小型の石斧で、何度も木の枝を思いっきり叩きつけ、枝を切り落とした。
「コシ、動いていないよな?」
ジンさんはするすると木から降りて、コシさんに話しかけた。
「うん、動きたくても足が固まっているみたいだ」
コシさんは動けない代わりに、自分の足の周りの草や土を手で取り除いていた。コシさんの足は、膝まで埋まっていた。
「みんな、この切り落とした枝を使ってコシを引っ張るぞ」
ジンさんの声に僕たち三人は枝を持ち、コシさんの手元まで枝を伸ばすようにして差し出した。
「掴んだか?」
「うん、ここからどう動けばいい?」
「無理矢理足を抜こうとせずに、少し足を左右に回転させながら動いてくれ。後は、僕たちが引っ張る」
ジンさんの言葉にコシさんは頷き、僕も枝を掴んで引っ張り出そうとしたけど、ジンさんは僕の手を払った。
「え、僕じゃ足手まといなの?」
僕は少し悲しくなった。自分の力は弱いけど、コシさんを助ける役に立ちたいという思いが強かったからだ。
「いや、足手まといじゃない。でももし、僕たちもぬかるみに足を取られて動けなくなった時に、大人たちに助けを呼んできてほしいんだ」
ジンさんの言葉に、ようやく僕は納得がいった。でも、もし自分の力が強かったらという思いもぬぐえずにいた。
僕がそんなことを考えているうちに、ジンさんたちは掛け声をかけつつ枝を引っ張り、コシさんも足を左右に動かして、無事にコシさんは救出された。
「ああ、落とし穴にはまった時よりも怖かった」
コシさんは足にこびりついた泥を落としつつ、安堵の息をついた。
「よし、コシを引っ張り上げた時の枝を何本かに折るから、危なそうなこの付近の場所に刺しておいてくれ」
ジンさんの号令で、僕以外の三人は腹ばいになりながら、慎重にコシさんが沈んだ箇所のような部分を探し始め、枝を指していった。
次にここに来た時に、またぬかるみにはまらないためだ。
その間、僕は今まで進んできた道の草をむしる役割を与えられた。ぬかるんだ後の箇所は肥沃な土になるため、土器などの粘土を調達するにはちょうどいい場所になるかもしれないからだ。その場所の『仮』の整備を、僕はやっている。
でも、草はいくらむしってすぐに生えてくるし、何だか自分のやっていることが無駄に思えてきた。
その時だった。僕が痛くなってきた腰を伸ばそうと立ち上がり、空を見上げた瞬間、鷹が森と平地の間に急降下し、しばらくして何も捕えずに飛び去って行った。
「ジンさん、鷹がいたよ」
僕が腹ばいとなって、泥だらけになっているジンさんたちに向かって叫んだ。みんな泥だらけで、誰がジンさんだかわからなくなっていた。
「カラ、鷹なんていつでもいるだろ?」
泥だらけの中の一人が、ジンさんの声を出した。
「ううん。何か獲物を見つけて、急降下していったんだ。そして、何も捕らえられなかったみたいです」
僕の言葉に、ジンさんを含め皆が喜色ばんだ。
「カラ、鷹が降りた場所は覚えているか?」
ジンさんの言葉に、僕は思いっきり頷いて、鷹が急降下した一点を指さした。
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