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第一部 1-1

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第1部  
1―1 
カラSide 
 僕が目を覚ますと、目の前は薄暗かった。炉の火が少しばかり残っていて、わずかに家の中が見えた。炉の火は燃え続けているので、煙も出っ放しで、目が覚めたら目やにを取るのが日課だ。 
 僕の目に見えるのは、寝息を立てているお父さんとお母さん、お兄ちゃんだ。僕たちは四人家族で、お父さんは村のみんなから『酋長』と呼ばれていて、この村のまとめ役だ。 
そんな偉いお父さんも、僕の目から見れば他の大人たちと変わらず、寝ていればいびきの五月蠅い大人だ。 
 対照的に、お母さんのいびきは静かだ。夜中にお父さんのいびきは聞こえるのに、お母さんのいびきが聞こえないと、お母さんが寝たまま死んでいるのではないかと不安に感じることもある。 
 お兄ちゃんはよく寝返りを打つので、嫌でも生きていることがわかる。僕の身体に手足を当ててくるからだ。わざとじゃないかと思う時があるけれど、一度鼻をつまんでみたら、眠ったまま苦しがっていた。つまんでいた鼻を離すと、またすぐに寝息を立て始める。 
 僕のいる場所が暗いのは、まだ夜が明けていないからだけではない。家の入口が少し高い所にあって、朝日が入りにくいからだ。 
 僕はお父さんのいびきが気になって、寝直すことが出来なかった。なので、外に出てみることにした。 
 高い入口を這い上がるようにして外に出ると、太陽はまだ海の中にいて、顔を出していない。村のみんなも、顔を出していない。顔を出しているのは村で飼っている、犬のダリだけだ。 
 僕は近づいてきたダリの頭を撫でてやった。怖い狼と違って、ダリはとても優しい犬だ。キノジイは「狼は犬のお祖父ちゃんのお祖父ちゃんだと、ワシのお祖父ちゃんから聞いたことがある」なんて言っていたけど、僕にはそう思えなかった。きっと、キノジイは嘘をついて、僕たち子どもを揶揄っているのだろうと思っている。 
 ふと、僕の身体に冷たい風が当たり、身震いした。僕はダリの身体に密着するようにして、自分の身体を温めた。 
 僕の身体には鹿の皮が巻かれており、植物の皮で作る服に衣替えするには、まだ早すぎるだろう。 
 僕はこの村の大人たちから『生き残った子だ』と言われている。僕は覚えていないけれど、僕と同じ年に産まれる予定だった赤ん坊たちは、みな死んでしまったらしい。 
 その証拠に、この村の家々の近くには同じ形をした土人形が置かれている。 
「どうして僕は『生き残った子』ってなのかなぁ?」
僕はダリに、話しかけるように呟いた。ダリは僕の言葉なんてわからない。それでも、僕は自分が『生き残った』という理由が知りたかった。 
 僕よりも年下の子もいるし、年上の兄さん姉さんもたくさんいる。でも、僕と同じ年に産まれた子の中で、生き残れたのは僕だけだという事実があった。 
 他の子はどうして死んじゃったんだろう。その事をお父さんに尋ねても、お父さんは「その話はするな」と言い、僕の側から離れていく。お母さんに尋ねても、「運がよかったのよ」としか答えてくれない。 
 僕は身体に吹きかかる冷たい海風から身を守るように、ダリにより密着した。 
「冬は寒いから、みんな風邪をひいちゃったのかなぁ?」 
 僕の疑問をよそに、海の中から少しずつ太陽の光が昇ってきた。ダリは大きく「ワン」と吼え、その声に導かれたかのように、家々から人が出てきた。 
「今日は、どんな一日になるのかな」  僕は海を眺めながら呟いた。
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