2 / 375
第一部 1-1
しおりを挟む
第1部
1―1
カラSide
僕が目を覚ますと、目の前は薄暗かった。炉の火が少しばかり残っていて、わずかに家の中が見えた。炉の火は燃え続けているので、煙も出っ放しで、目が覚めたら目やにを取るのが日課だ。
僕の目に見えるのは、寝息を立てているお父さんとお母さん、お兄ちゃんだ。僕たちは四人家族で、お父さんは村のみんなから『酋長』と呼ばれていて、この村のまとめ役だ。
そんな偉いお父さんも、僕の目から見れば他の大人たちと変わらず、寝ていればいびきの五月蠅い大人だ。
対照的に、お母さんのいびきは静かだ。夜中にお父さんのいびきは聞こえるのに、お母さんのいびきが聞こえないと、お母さんが寝たまま死んでいるのではないかと不安に感じることもある。
お兄ちゃんはよく寝返りを打つので、嫌でも生きていることがわかる。僕の身体に手足を当ててくるからだ。わざとじゃないかと思う時があるけれど、一度鼻をつまんでみたら、眠ったまま苦しがっていた。つまんでいた鼻を離すと、またすぐに寝息を立て始める。
僕のいる場所が暗いのは、まだ夜が明けていないからだけではない。家の入口が少し高い所にあって、朝日が入りにくいからだ。
僕はお父さんのいびきが気になって、寝直すことが出来なかった。なので、外に出てみることにした。
高い入口を這い上がるようにして外に出ると、太陽はまだ海の中にいて、顔を出していない。村のみんなも、顔を出していない。顔を出しているのは村で飼っている、犬のダリだけだ。
僕は近づいてきたダリの頭を撫でてやった。怖い狼と違って、ダリはとても優しい犬だ。キノジイは「狼は犬のお祖父ちゃんのお祖父ちゃんだと、ワシのお祖父ちゃんから聞いたことがある」なんて言っていたけど、僕にはそう思えなかった。きっと、キノジイは嘘をついて、僕たち子どもを揶揄っているのだろうと思っている。
ふと、僕の身体に冷たい風が当たり、身震いした。僕はダリの身体に密着するようにして、自分の身体を温めた。
僕の身体には鹿の皮が巻かれており、植物の皮で作る服に衣替えするには、まだ早すぎるだろう。
僕はこの村の大人たちから『生き残った子だ』と言われている。僕は覚えていないけれど、僕と同じ年に産まれる予定だった赤ん坊たちは、みな死んでしまったらしい。
その証拠に、この村の家々の近くには同じ形をした土人形が置かれている。
「どうして僕は『生き残った子』ってなのかなぁ?」
僕はダリに、話しかけるように呟いた。ダリは僕の言葉なんてわからない。それでも、僕は自分が『生き残った』という理由が知りたかった。
僕よりも年下の子もいるし、年上の兄さん姉さんもたくさんいる。でも、僕と同じ年に産まれた子の中で、生き残れたのは僕だけだという事実があった。
他の子はどうして死んじゃったんだろう。その事をお父さんに尋ねても、お父さんは「その話はするな」と言い、僕の側から離れていく。お母さんに尋ねても、「運がよかったのよ」としか答えてくれない。
僕は身体に吹きかかる冷たい海風から身を守るように、ダリにより密着した。
「冬は寒いから、みんな風邪をひいちゃったのかなぁ?」
僕の疑問をよそに、海の中から少しずつ太陽の光が昇ってきた。ダリは大きく「ワン」と吼え、その声に導かれたかのように、家々から人が出てきた。
「今日は、どんな一日になるのかな」 僕は海を眺めながら呟いた。
1―1
カラSide
僕が目を覚ますと、目の前は薄暗かった。炉の火が少しばかり残っていて、わずかに家の中が見えた。炉の火は燃え続けているので、煙も出っ放しで、目が覚めたら目やにを取るのが日課だ。
僕の目に見えるのは、寝息を立てているお父さんとお母さん、お兄ちゃんだ。僕たちは四人家族で、お父さんは村のみんなから『酋長』と呼ばれていて、この村のまとめ役だ。
そんな偉いお父さんも、僕の目から見れば他の大人たちと変わらず、寝ていればいびきの五月蠅い大人だ。
対照的に、お母さんのいびきは静かだ。夜中にお父さんのいびきは聞こえるのに、お母さんのいびきが聞こえないと、お母さんが寝たまま死んでいるのではないかと不安に感じることもある。
お兄ちゃんはよく寝返りを打つので、嫌でも生きていることがわかる。僕の身体に手足を当ててくるからだ。わざとじゃないかと思う時があるけれど、一度鼻をつまんでみたら、眠ったまま苦しがっていた。つまんでいた鼻を離すと、またすぐに寝息を立て始める。
僕のいる場所が暗いのは、まだ夜が明けていないからだけではない。家の入口が少し高い所にあって、朝日が入りにくいからだ。
僕はお父さんのいびきが気になって、寝直すことが出来なかった。なので、外に出てみることにした。
高い入口を這い上がるようにして外に出ると、太陽はまだ海の中にいて、顔を出していない。村のみんなも、顔を出していない。顔を出しているのは村で飼っている、犬のダリだけだ。
僕は近づいてきたダリの頭を撫でてやった。怖い狼と違って、ダリはとても優しい犬だ。キノジイは「狼は犬のお祖父ちゃんのお祖父ちゃんだと、ワシのお祖父ちゃんから聞いたことがある」なんて言っていたけど、僕にはそう思えなかった。きっと、キノジイは嘘をついて、僕たち子どもを揶揄っているのだろうと思っている。
ふと、僕の身体に冷たい風が当たり、身震いした。僕はダリの身体に密着するようにして、自分の身体を温めた。
僕の身体には鹿の皮が巻かれており、植物の皮で作る服に衣替えするには、まだ早すぎるだろう。
僕はこの村の大人たちから『生き残った子だ』と言われている。僕は覚えていないけれど、僕と同じ年に産まれる予定だった赤ん坊たちは、みな死んでしまったらしい。
その証拠に、この村の家々の近くには同じ形をした土人形が置かれている。
「どうして僕は『生き残った子』ってなのかなぁ?」
僕はダリに、話しかけるように呟いた。ダリは僕の言葉なんてわからない。それでも、僕は自分が『生き残った』という理由が知りたかった。
僕よりも年下の子もいるし、年上の兄さん姉さんもたくさんいる。でも、僕と同じ年に産まれた子の中で、生き残れたのは僕だけだという事実があった。
他の子はどうして死んじゃったんだろう。その事をお父さんに尋ねても、お父さんは「その話はするな」と言い、僕の側から離れていく。お母さんに尋ねても、「運がよかったのよ」としか答えてくれない。
僕は身体に吹きかかる冷たい海風から身を守るように、ダリにより密着した。
「冬は寒いから、みんな風邪をひいちゃったのかなぁ?」
僕の疑問をよそに、海の中から少しずつ太陽の光が昇ってきた。ダリは大きく「ワン」と吼え、その声に導かれたかのように、家々から人が出てきた。
「今日は、どんな一日になるのかな」 僕は海を眺めながら呟いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
ロシアの落日【架空戦記】
ぷて
歴史・時代
2023年6月、ウクライナとの長期戦を展開するロシア連邦の民間軍事会社ワグネルは、ウクライナにおける戦闘を遂行できるだけの物資の供給を政府が怠っているとしてロシア西部の各都市を占拠し、連邦政府に対し反乱を宣言した。
ウクライナからの撤退を求める民衆や正規軍部隊はこれに乗じ、政府・国防省・軍管区の指揮を離脱。ロシア連邦と戦闘状態にある一つの勢力となった。
ウクライナと反乱軍、二つの戦線を抱えるロシア連邦の行く末や如何に。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
延岑 死中求生
橘誠治
歴史・時代
今から2000年ほど前の中国は、前漢王朝が亡び、群雄割拠の時代に入っていた。
そんな中、最終勝者となる光武帝に最後まで抗い続けた武将がいた。
不屈の将・延岑の事績を正史「後漢書」をなぞる形で描いています。
※この作品は史実を元にしたフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる