どすこいと鶏ガラ

るーま

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本編:体型正反対夫婦あるある

4 鶏ガラは寒さに弱い

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 日本。
 この島国では、季節というやつが毎年漏れなく廻ってくる。
 秋めいてきた今日この頃の私と言えば、脂ぎらせていた夏仕様の肌をそろそろ乾燥させて粉吹かせてやろうかと準備に入ったところである。
 「今こそ、その力を発揮するときだ」などと夫に腹の肉をグッと摘ままれるが、簡単に絞り出せるものではない。確かに、ぎゅっと捻ることで脂が滲み出て体の表面をコーティング出来たら便利だろう。脂肪が減るうえに、潤艶肌をキープできる。なんなら食用油に代用してもよい。立派な自給自足ではないか──などと考えてみるが、残念ながらそうは問屋が卸さない。
 だいたい、水分を含んだ雑巾のように体脂肪を絞れるものなら、今頃私も鶏ガラになっているに違いない。
 鶏ガラ君はと言うと、暑さには強いが寒さにはめっぽう弱い。涼しくなってくると鼻声になってみたり、お腹の調子を崩しはじめる。
 冬の間中風邪ひいてんじゃないの? と鼻で笑いたくなるほど体調を崩す。咳、鼻水、胃腸炎と医者のご厄介になる種は彼が拾い、そして家庭内にまき散らしてくれる。
 ガリガリであることと免疫力が低いことをイコールで繋げていいのか分からないが、非常に疲れやすいのは確かだ。とにかく体力がない。多忙で睡眠時間が短く、食生活も乱れがちであるのも要因であろう。
 気になったので私なりに調べてみたところ、脂肪と筋肉はヒトが活動するのに必要不可欠な要素であると分かった。どちらも不足気味な彼が疲れやすいのは至極当然だという答えに行きついた。私のように常時在庫過多な状態もいただけないが、慢性的にエネルギーが不足していても機敏さに欠ける。
 何事もほどほどにということだが、そのほどほどのさじ加減が難しい。仕事も趣味も体づくりだって、万事にして万国、全人類と地球、果ては宇宙の課題だ。
 スケールが大きくなるのもほどほどにしておかないと収拾がつかなくなるという見本になってしまった。反省。
 気を取りなおして、とある冬の出来事をお話ししよう。

 鶏ガラ君は元気を失いはじめると、反比例してもりもりと帯電する。
 冬の鶏ガラ君には触れるべからず。
 強力な静電気発生装置となる。狭い家ですれ違う度に、ショートヘアな私は髪を逆立ててしまう。意図なく触れ合ったが最後、指先に受けた電撃で爪が割れることもある。指先の傷ってやつぁ……小さな縦割れでも、地味な痛さと不便さが後を引く。
「痛っ。もー。あんまり近づかないでくれる?」
 鶏ガラ君は、まるで犯人はおまえだと言わんばかりの態度だ。ここぞとばかりに理系力を発揮し、電気についてのご高説を賜るが、肥満度と同じで理解が及ばないのが私という人間である。
「ごめん。分かり易く頼みます」
「静電気をため込みやすい体質なんじゃないかって話」
「私が?」
「そう。あなたが」
 小難しい説明を聞き流した直後であるせいか、そうなのかもしれないと思ってしまう。こりゃ静電気除去グッズが要るなと、生活雑貨の検索をしはじめっちゃったりするのである。
 中でも私が気になる商品と言えば、静電気帯電防止加工が施された安全靴だ。なんでも足元から常に地面に放電し続けるのだとか。医療関係者、パソコン製品や引火性の高い危険物を取り扱う職業の方などのマストアイテムらしい。プロ仕様という響きが「効果抜群で凄いに違いない!」と思わせる。

 よし! 次にお出かけしたら買おう。
 そう心に固く誓ったものの、いざ探してみると見つからない。私の買い物は食料品店がメインだ。スーパーには置いていない商品である。過去の失敗から、履物だけは通販購入しないようにしており、試着をして買い求めたい願望が邪魔をする。その上、門外漢が普段履きしても目立たないデザイン性をも求めているのである。
 我儘放題な私の行動範囲内で、その手の専門店は見かけない。普段用事がないから存在に気付いていないだけだろうと歩き回るが、目当ての店が都合よく登場するはずもない。手元の端末で検索してみても周囲にそれらしいお店がヒットすることはなかった。
 そうこうしている内に、同行している子どもが不穏な空気を纏い出す。先に商品と店を調べてから出かけるべきだろうと正論まで飛び出しては、面目ねぇと呟くしか出来ない。しょんぼりと背中を丸めて帰路についた。

 子どもが寝静まってから、リベンジを謀るべくカチカチと再検索に勤しむ。静電防止加工のスニーカーも良いが、スリッパ代わりにサンダル型が欲しい。ナースサンダルならば使い勝手がよさそうだと、一人ふむふむと頷きながらサイトからサイトへ渡り歩く。
 リサーチに没頭することしばし、がちゃがちゃと玄関の扉が音を鳴らして鶏ガラ君が帰ってきた。
 おかえりなさいの挨拶と労いもそこそこに、安全靴の購入を検討していることと、今日の出来事を話して聞かせる。
「でね、このサンダルがよさそうなんだけど、近所で売ってないんだよね」
「ふーん」
 どことなく気のない返事に若干の苛立ちを覚えるが、疲れているのだろうと寛大さを見せつける。ご飯を温める間に風呂を済ませるがよいと促した。
「ぃてっ」
 スーツのジャケットを脱いでハンガーラックに掛ける鶏ガラ君が小さな声を上げた。
「ん?」
「なんでもない」
 あらそうと、気に留めず、ぼーっと彼の着替えを眺めていた。冬の装いで少しだけ着ぶくれした姿を見て、あれぐらいの肉付きがあっても悪くないなぁなどと考えていた。
 すると、パチパチというよりバチバチといった派手な音を立て、鶏ガラ君が「ぷはぁっ」とセーターを脱いだ。
「えっ」
 驚いて目をしばたたかせてしまった。
 セーターを脱いだばかりの鶏ガラ君が、未だセーターを着ているのである。
 セーターの重ね着という荒業にびっくり仰天。言葉を失くした私をしり目に脱ぎ進めていく。ワイシャツを脱ぐと吸湿発熱素材の下着、そしてその下着の下に、またしても吸湿発熱素材の下着が現れた。 
「それ私の!」
 絞り出した声が掠れてしまった。
 集合住宅の切ないベランダ事情から、冬季は洗濯物が溜まりがちな我が家である。洗濯物が多いな、乾かないな、着る服がなくなってきたなとは思っていた。思っていたけども!
 肌着、女性用保温着、男性用保温着、ワイシャツ、セーター、セーター、ジャケット、コートと、マトリョーシカ人形も真っ青な多重式である。
「勘弁してよ……」
「これ丁度いいんだよね」
 百歩譲って、無断着用は許そう。
 だがしかし。
「静電気(の原因)は私じゃなぁぁぁいっっ!」
 深夜帯にもかかわらず、大きな声をだしてしまった次第である。
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