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本編:体型正反対夫婦あるある
6 鶏ガラを小洒落させたい
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私たち夫婦は昭和生まれの田舎育ちだ。紳士用下着といえばブリーフかトランクスの二者択一で育った。
男児のおパンツ事情は詳しくないものの、小学生はブリーフが主流で、中学生になる頃がトランクスへの過渡期であったように記憶している。多分に、サイズ展開と各家庭の買い物奉行のチョイスという、主に供給側の都合と選択によるものであったはずだ。
世の中にボクサーなる新型パンツが登場したのは、私たちが過渡期に差し掛かった頃であった。
見た目の格好良さはもちろん、ブリーフの伸縮性を持つトランクス型パンツというハイブリット仕様に、世の男性陣は大変ざわついた。世界的に有名なファッションブランドが売り出した高級パンツに、女性陣も大変ざわつかされた。なにせ三枚一組千円とはいかない。おパンツ一枚に数千円である。
割とおしゃれさんのどすこい父が欲しがり、どすこい母が渋々、いや、泣く泣く握り締めた数千円と引き換えにした記憶は鮮明だ。
ともあれ、新型ハイブリットパンツの登場は鮮烈であったが、その高級性から、毛の生えそろっていない坊主どもが足を通せるような一品ではなかったことは確かだ。
それが10年も経たぬうちに、ブリーフとトランクスに並ぶ定番型になろうとは思いもよらなかった。
学生時代運動部に所属していた鶏ガラ君は、平常時はトランクス派だが、運動時だけブリーフを穿くようにしていたらしい。飛んだり跳ねたり走り回った際の「短パンの裾からコンニチハ」防止策だ。時にスパッツのようなアンダーウェアを着用することもあったようで、ブリーフの方が収まりがよいという利点もあったようだ。
結婚する頃には運動をする機会は皆無となっていた。彼が新居に持ち込んだのはトランクスだけだった。新スタンダードのイケメンハイブリッドが一枚もない。それから数年経っても彼のおパンツ事情は変わらず、相変わらずトランクス愛を貫いていた。
下着は消耗品である。長く使用すれば布もゴムも劣化する。鶏ガラ君のおパンツを新調する時を迎え、ここぞとばかりに提案してみた。
「ボクサー買おうか」
前話の通り、ぴったりサイズの服を探し求めることを放棄しただけに、せめて下着ぐらいしゃれてみてもよかろうと思った次第である。
ついでに言えば、鶏ガラ君は出張が多い。一人の時もあれば同僚と一緒の時もある。いついかなるときも見られて恥ずかしくないおパンツを持たせてやろうというのが嫁のまごころだ。
「うちのは前から水平対向だけど、、、いいの?」
いい歳したおじさんの上目遣いは頂けない。それにときめくのは二次元のみである。そして、微妙に会話をズラしてくるのもいつものことだ。
「エンジンじゃなくてパンツの話な」
残念ながら、私は洗濯物を畳みながら自動車の買い替えを提案できる豪気さを持ち合わせていない。
「ちぇっ。適当に買っておいて」
彼は彼で、新しい玩具が手に入らないと分かって一気に会話への興味を失くした。貴様のパンツだぞコノヤローと思わずにはいられない。
「ボクサーでもサイズ感一緒かなぁ」
「ウエストサイズありきでしょ」
おパンツにこだわりはないが苦しいのは嫌だという本人の希望を元に見繕うことにした。
「けどさー」
「何か?」
「あなたが思っているようなことにはならないと思うよー、俺は」
どうせ広告に踊らされているのでしょと、冷めた目線が私を蔑んでいる。夫のおパンツ一枚を入手するのに踊らされるもなにもない。
「ボクサーパンツの広告が格好いいのは、モデルさんのカラダがいいからだよ」
「まぁそうでしょうね」
それを言ってしまえば、下着に限らずだ。どんな服も小物も同じである。平均的体型とは一味違った個性のある私たちは、手痛い失敗を数多く経験してきた。いまさら失敗の一つや二つ恐れるに足らずだ。
店頭で実物を手にとった私は確信した。
この伸縮性、イケる!
馴染み深いトランクスと比べて、生地にごわつきがなく、ウェスト部のゴムは洗濯を繰り返しても伸びにくそうだ。幅広のゴムがイケメン面をして見える。「奥さん。トランクスなんて止めて俺にしとけって。どんな男にもピッタリフィットしてカッチョよく見せっから」と馴れ馴れしく語り掛けてきていた。
イケメンに囁かれては分が悪い。「あら、そぉ? そう言うのならねぇ」と、頬に手を当て少し困ったフリをしながらも、買い物かごに何枚かぶち込んだ。
イケメンハイブリッドを手に意気揚々と引上げ、パンパカパーンと鶏ガラ君に広げて見せた。
「何枚か買い替えておいたから」
「ありがと」
どういたしましてと答える私は相当なドヤ顔をしていたに違いない。ぴったりサイズの既製品だなんて、鶏ガラ君人生初の可能性がある。よしよしと一人満足し、そのまま時は過ぎた。
「そういえば、ボクサーパンツの履き心地はどう?」
「悪くない」
言い方にむっとしたのが分かったのだろう、付け加えるように「普通」と言い直した。トランクス派といえどもブリーフ経験者であるので、フィット感に慣れがあるのだろうか。期待した感動と感想が得られず、充足感に欠ける。
「ボクサーいいだろ? 今後こっちにするだろ?」
でかしたという褒めの一言欲しさに、なぁそうだろう? と鬱陶しいまでに同意を求めた。
「どっちでもいい」
少々剣呑な雰囲気で目を細めた鶏ガラ君はそっと立ち上がり、おもむろに着用したボクサーパンツを見せた。
「な?」
「ぐぅ」
ある種の敗北感とでも言うべきか、鶏ガラ君の言った通りの結果にがっかりして思わず嘆息が漏れた。
イケメンハイブリットの誘惑にまんまと踊らされてしまったのである。
ウェスト部分のサイズに間違いはなかったが、太腿付近にフィット感はなく余裕があるぐらいだ。はっきり言って、トランクス着用時と見た目に大差が無い。ウェストサイズばかりを気にして裾幅のチェックを怠った私の完全敗北だ。
「次こそ……ワンサイズ小さいと苦しいかな」
「どっちでも安い方でいいって」
失敗直後に掘り下げれば、互いの傷が深まるばかりだ。すまんと呟いて終止符を打ち、それ以降おパンツ談義はご法度となっている。
男児のおパンツ事情は詳しくないものの、小学生はブリーフが主流で、中学生になる頃がトランクスへの過渡期であったように記憶している。多分に、サイズ展開と各家庭の買い物奉行のチョイスという、主に供給側の都合と選択によるものであったはずだ。
世の中にボクサーなる新型パンツが登場したのは、私たちが過渡期に差し掛かった頃であった。
見た目の格好良さはもちろん、ブリーフの伸縮性を持つトランクス型パンツというハイブリット仕様に、世の男性陣は大変ざわついた。世界的に有名なファッションブランドが売り出した高級パンツに、女性陣も大変ざわつかされた。なにせ三枚一組千円とはいかない。おパンツ一枚に数千円である。
割とおしゃれさんのどすこい父が欲しがり、どすこい母が渋々、いや、泣く泣く握り締めた数千円と引き換えにした記憶は鮮明だ。
ともあれ、新型ハイブリットパンツの登場は鮮烈であったが、その高級性から、毛の生えそろっていない坊主どもが足を通せるような一品ではなかったことは確かだ。
それが10年も経たぬうちに、ブリーフとトランクスに並ぶ定番型になろうとは思いもよらなかった。
学生時代運動部に所属していた鶏ガラ君は、平常時はトランクス派だが、運動時だけブリーフを穿くようにしていたらしい。飛んだり跳ねたり走り回った際の「短パンの裾からコンニチハ」防止策だ。時にスパッツのようなアンダーウェアを着用することもあったようで、ブリーフの方が収まりがよいという利点もあったようだ。
結婚する頃には運動をする機会は皆無となっていた。彼が新居に持ち込んだのはトランクスだけだった。新スタンダードのイケメンハイブリッドが一枚もない。それから数年経っても彼のおパンツ事情は変わらず、相変わらずトランクス愛を貫いていた。
下着は消耗品である。長く使用すれば布もゴムも劣化する。鶏ガラ君のおパンツを新調する時を迎え、ここぞとばかりに提案してみた。
「ボクサー買おうか」
前話の通り、ぴったりサイズの服を探し求めることを放棄しただけに、せめて下着ぐらいしゃれてみてもよかろうと思った次第である。
ついでに言えば、鶏ガラ君は出張が多い。一人の時もあれば同僚と一緒の時もある。いついかなるときも見られて恥ずかしくないおパンツを持たせてやろうというのが嫁のまごころだ。
「うちのは前から水平対向だけど、、、いいの?」
いい歳したおじさんの上目遣いは頂けない。それにときめくのは二次元のみである。そして、微妙に会話をズラしてくるのもいつものことだ。
「エンジンじゃなくてパンツの話な」
残念ながら、私は洗濯物を畳みながら自動車の買い替えを提案できる豪気さを持ち合わせていない。
「ちぇっ。適当に買っておいて」
彼は彼で、新しい玩具が手に入らないと分かって一気に会話への興味を失くした。貴様のパンツだぞコノヤローと思わずにはいられない。
「ボクサーでもサイズ感一緒かなぁ」
「ウエストサイズありきでしょ」
おパンツにこだわりはないが苦しいのは嫌だという本人の希望を元に見繕うことにした。
「けどさー」
「何か?」
「あなたが思っているようなことにはならないと思うよー、俺は」
どうせ広告に踊らされているのでしょと、冷めた目線が私を蔑んでいる。夫のおパンツ一枚を入手するのに踊らされるもなにもない。
「ボクサーパンツの広告が格好いいのは、モデルさんのカラダがいいからだよ」
「まぁそうでしょうね」
それを言ってしまえば、下着に限らずだ。どんな服も小物も同じである。平均的体型とは一味違った個性のある私たちは、手痛い失敗を数多く経験してきた。いまさら失敗の一つや二つ恐れるに足らずだ。
店頭で実物を手にとった私は確信した。
この伸縮性、イケる!
馴染み深いトランクスと比べて、生地にごわつきがなく、ウェスト部のゴムは洗濯を繰り返しても伸びにくそうだ。幅広のゴムがイケメン面をして見える。「奥さん。トランクスなんて止めて俺にしとけって。どんな男にもピッタリフィットしてカッチョよく見せっから」と馴れ馴れしく語り掛けてきていた。
イケメンに囁かれては分が悪い。「あら、そぉ? そう言うのならねぇ」と、頬に手を当て少し困ったフリをしながらも、買い物かごに何枚かぶち込んだ。
イケメンハイブリッドを手に意気揚々と引上げ、パンパカパーンと鶏ガラ君に広げて見せた。
「何枚か買い替えておいたから」
「ありがと」
どういたしましてと答える私は相当なドヤ顔をしていたに違いない。ぴったりサイズの既製品だなんて、鶏ガラ君人生初の可能性がある。よしよしと一人満足し、そのまま時は過ぎた。
「そういえば、ボクサーパンツの履き心地はどう?」
「悪くない」
言い方にむっとしたのが分かったのだろう、付け加えるように「普通」と言い直した。トランクス派といえどもブリーフ経験者であるので、フィット感に慣れがあるのだろうか。期待した感動と感想が得られず、充足感に欠ける。
「ボクサーいいだろ? 今後こっちにするだろ?」
でかしたという褒めの一言欲しさに、なぁそうだろう? と鬱陶しいまでに同意を求めた。
「どっちでもいい」
少々剣呑な雰囲気で目を細めた鶏ガラ君はそっと立ち上がり、おもむろに着用したボクサーパンツを見せた。
「な?」
「ぐぅ」
ある種の敗北感とでも言うべきか、鶏ガラ君の言った通りの結果にがっかりして思わず嘆息が漏れた。
イケメンハイブリットの誘惑にまんまと踊らされてしまったのである。
ウェスト部分のサイズに間違いはなかったが、太腿付近にフィット感はなく余裕があるぐらいだ。はっきり言って、トランクス着用時と見た目に大差が無い。ウェストサイズばかりを気にして裾幅のチェックを怠った私の完全敗北だ。
「次こそ……ワンサイズ小さいと苦しいかな」
「どっちでも安い方でいいって」
失敗直後に掘り下げれば、互いの傷が深まるばかりだ。すまんと呟いて終止符を打ち、それ以降おパンツ談義はご法度となっている。
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