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極甘彼氏を喜ばせる方法
好きの気持ちは止まれない
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病める時も健やかな時も、そんな誓いの言葉がある。一緒に歩いて行くということは、相手の一部を預かること。ただ伊上が相手だと、それがかなり重たい。
一部でも背負うと思うほうが、間違いではと思わせるほどに。
だがそもそも彼は天希にそれを望んでいない。身の回りに、最低限しか関わらせない理由の一番がそこにある。
だから成治に、余計なところへ足を突っ込ませたくない親心も、多少理解することができる。
だとしても理屈だけで、人はそう簡単に動かせないとも思う。
とはいえ甘やかされている自分が、口を出す権利がないのは、天希もわかっている。ここは伊上の言葉に従うべきなのだろう。
マンションに着き、地下の駐車場に車が止まってからも、天希はしばらく口を閉ざしたままだった。車内に沈黙が下りて、どうしたらいいだろうかと逡巡しているうちに、伊上が車を降りた。
このまま子供のように拗ねていると、呆れさせてしまうかもしれない。
二人で一緒にいて、こんな空気になるのは初めてだった。そのせいでますます天希は、身動きができなくなる。
「あまちゃん、おいで」
しばらくすると助手席の扉が開かれて、手を差し伸べられた。手を取るか否かを迷えば、伊上は黙って天希の答えを待っている。
取らないという選択肢はないはずなのに、さらに迷いが生まれた。
「……今日は」
「いまここで、君を帰すと思っているの?」
「え?」
いつもより硬質な声音。とっさに天希が顔を上げると、腕を掴まれた。そのまま車から引き出すように腕を引かれ、つんのめった身体を抱き寄せられる。
掴まれた腕が痛み、身じろごうとすると、さらにキツく抱き込まれた。
「伊上、痛ぇよ」
「いまさら逃げられるなんて思うな」
「……っ、んっ」
耳元に囁かれた言葉に驚く間もなく、顎を掬われて、続けざまに唇を塞がれる。普段の余裕綽々な雰囲気からは想像もできない、荒っぽいキスだ。
次第に酸欠を起こしそうになり、天希は顔を背けようとするが、まったく許してくれない。
「は、ぁっ、……んっ、い、がみっ、伊上!」
顎を掴まれ、口の中を荒らされて、性急な口づけに天希の目に涙が浮かぶ。叩こうが殴ろうがビクともしない。
怖い、と言う感情が湧くけれど、いままでが優しく甘噛みされていただけだと気づく。本気になればいつだって、彼は天希をねじ伏せることができる。
手の内で飼い慣らされていただけ――その事実に気づかされると、視界が大きく揺らめいた。大粒の涙が天希の瞳からこぼれ落ちて、しとどに頬を濡らす。
目に見えるほどの大きな力の差は、二人の関係がいつだって彼の手の中にあることを、思い知らされる。
「泣くのはずるいよ」
ふっと唇が離れ、ため息をこぼされた。しかし一向にこぼれ落ちるものは降り止まず、伊上はわずかに眉を寄せる。
その表情に天希は胸を苦しくさせるが、大きな手のひらが涙を拭い、優しい唇が恭しく額に口づけをする。
「怖がらせたかな。ごめんね。君のことになると余裕がない男で」
「そんなこと言って、飽きたら気が変わるだろ。面倒くさくなったり、邪魔くさくなったり」
「どうしてそういう発想になるのかな。そもそも気が変わったらポイ捨てする程度だと、本気で思ってる? なんの覚悟もなしに、君を傍に置いていると思ってるのかい? 今日だって志築のお小言がうるさくて、本当に面倒くさかったよ。それでも僕は、あまちゃんがいいと思っている」
まるで天希の機嫌を取るかのように、伊上の柔らかなキスが頬やまぶたに降り注ぐ。先ほどまでの、鬼気迫る雰囲気は欠片もなく、声音もいつもの甘さを含んでいた。
隙間なく抱きしめられると、微かに彼の胸の音が聞こえてくる。
少しばかり早いその音に、天希は両腕を伸ばした。スーツにしわを作るほど強く抱きつけば、涙で濡れた頬にすり寄られる。
「君にはいくらでも甘い夢を見せてあげられる。だけどいまのあの二人には難しい。それはわかるね? 夢を見てるだけのほうが幸せだ」
「俺は、そんなこと言えねぇよ」
「わかってる。あまちゃんは優しいからね。でも期待を持たせるのも、時として残酷だよ」
「けど、好きって気持ちはそう簡単になくならねぇよ」
「……僕も、いまひどく痛感しているよ。そうだねぇ。成治はともかく、あの男の気持ち次第かな。片想いで終わるかどうかは」
「うん」
「涙は止まった? こっち向いてごらん」
トントンと背中を叩かれて、天希はこぼれた涙を拭う。強く擦るとやんわりとその手を避けられ、代わりに伊上の唇が触れた。
「くすぐったい」
「あまちゃんは泣き顔も可愛いけど。なるべく君には笑っていてもらいたいな」
腫れぼったくなったであろうまぶたを、舌先で撫でられて首の後ろがむず痒くなる。しかし天希が身をすくませると、逃がすまいと両手に頭を掴まれた。
「待った。……へ、変な気分になる」
「じゃあ、その気になるまでしようか」
いつもベッドの中で自分に触れる舌先。その感触を思い出し、涙を舐め取られるたびにゾクゾクとさせられる。
思わず声が漏れそうになり、天希は指を噛むが、伊上は本当にその気にさせるつもりなのか、やめようとしない。
「や、やめろ、ってば。ここ駐車場! 人に見られたら」
「そんなことくらい、どうってことない。……けど、可愛いあまちゃんを見せるのはもったいないね」
「だったら、早く部屋、に……っ」
腕を突っ張って抵抗を試みるものの、伊上の手が離れていかず、それどころか距離を埋められた。唇に触れた熱に、天希は身動きができなくなる。
先ほどのキスを、上書きするみたいな優しい口づけが、たまらなく気持ちがいい。
「……ふ、ぁっん……っ」
舌が絡むたびに水音が響き、顔に熱が集中した。耳にまで熱が移ると、天希は恥ずかしさが増して、伊上の胸元を叩く。
ようやく離れる頃には、二人のあいだにとろりと唾液の糸が引かれた。
「よしよし、これで逃げられないね」
「は?」
「行こうか、ベッドに」
「エロ親父!」
力が抜けた天希の身体を抱き上げると、伊上は軽々と肩に担ぐ。一瞬の出来事に呆気にとられているうちに、エレベーターに乗り込まれて、逃げる隙などまったくない。
「下ろせ! 恥ずかしい」
「嫌だよ。今日は足腰立たなくなるまでして、逃がさないから」
「逃げねぇよ! 元から逃げる気なんてねぇし!」
「それならキス、してごらん」
「散々した!」
「じゃあ、このままだよ」
意地の悪い言葉に天希は小さく唸る。遅い時間なので、人が乗り込んでくる可能性は低いが、この格好を見られるのはやはり恥ずかしい。
意を決して伊上の背中を叩くと、彼は黙って天希の身体を下ろした。
にっこりと笑みを浮かべる、遊び半分な表情に、わずかばかり躊躇いが湧く。それでも天希は背伸びをすると、恋人に唇を寄せた。
その瞬間、エレベーター内に到着音が響き、背後で扉が開く気配を感じる。驚いて身を離そうとした天希だったが、ぐっと腰を抱き寄せられた。
「乗る?」
「い、……いえ、どうぞ」
意表を突かれた様子の女性の声。背中に感じる視線に、天希はいますぐ地中深く埋まりたい気分になった。
再びエレベーターが上昇を始めても、顔を上げられない。
「邪魔されちゃったね」
「それぜってぇ嘘だ! いまのタイミング、わざとだろ!」
「偶然だよ」
「……ば、ばっかじゃねぇの!」
しれっとした顔で肩をすくめられて、天希は腹立ち紛れに何度も肩を叩いた。その程度でビクともしないのは経験済みだが、八つ当たりしなければ気が済まなかった。
一部でも背負うと思うほうが、間違いではと思わせるほどに。
だがそもそも彼は天希にそれを望んでいない。身の回りに、最低限しか関わらせない理由の一番がそこにある。
だから成治に、余計なところへ足を突っ込ませたくない親心も、多少理解することができる。
だとしても理屈だけで、人はそう簡単に動かせないとも思う。
とはいえ甘やかされている自分が、口を出す権利がないのは、天希もわかっている。ここは伊上の言葉に従うべきなのだろう。
マンションに着き、地下の駐車場に車が止まってからも、天希はしばらく口を閉ざしたままだった。車内に沈黙が下りて、どうしたらいいだろうかと逡巡しているうちに、伊上が車を降りた。
このまま子供のように拗ねていると、呆れさせてしまうかもしれない。
二人で一緒にいて、こんな空気になるのは初めてだった。そのせいでますます天希は、身動きができなくなる。
「あまちゃん、おいで」
しばらくすると助手席の扉が開かれて、手を差し伸べられた。手を取るか否かを迷えば、伊上は黙って天希の答えを待っている。
取らないという選択肢はないはずなのに、さらに迷いが生まれた。
「……今日は」
「いまここで、君を帰すと思っているの?」
「え?」
いつもより硬質な声音。とっさに天希が顔を上げると、腕を掴まれた。そのまま車から引き出すように腕を引かれ、つんのめった身体を抱き寄せられる。
掴まれた腕が痛み、身じろごうとすると、さらにキツく抱き込まれた。
「伊上、痛ぇよ」
「いまさら逃げられるなんて思うな」
「……っ、んっ」
耳元に囁かれた言葉に驚く間もなく、顎を掬われて、続けざまに唇を塞がれる。普段の余裕綽々な雰囲気からは想像もできない、荒っぽいキスだ。
次第に酸欠を起こしそうになり、天希は顔を背けようとするが、まったく許してくれない。
「は、ぁっ、……んっ、い、がみっ、伊上!」
顎を掴まれ、口の中を荒らされて、性急な口づけに天希の目に涙が浮かぶ。叩こうが殴ろうがビクともしない。
怖い、と言う感情が湧くけれど、いままでが優しく甘噛みされていただけだと気づく。本気になればいつだって、彼は天希をねじ伏せることができる。
手の内で飼い慣らされていただけ――その事実に気づかされると、視界が大きく揺らめいた。大粒の涙が天希の瞳からこぼれ落ちて、しとどに頬を濡らす。
目に見えるほどの大きな力の差は、二人の関係がいつだって彼の手の中にあることを、思い知らされる。
「泣くのはずるいよ」
ふっと唇が離れ、ため息をこぼされた。しかし一向にこぼれ落ちるものは降り止まず、伊上はわずかに眉を寄せる。
その表情に天希は胸を苦しくさせるが、大きな手のひらが涙を拭い、優しい唇が恭しく額に口づけをする。
「怖がらせたかな。ごめんね。君のことになると余裕がない男で」
「そんなこと言って、飽きたら気が変わるだろ。面倒くさくなったり、邪魔くさくなったり」
「どうしてそういう発想になるのかな。そもそも気が変わったらポイ捨てする程度だと、本気で思ってる? なんの覚悟もなしに、君を傍に置いていると思ってるのかい? 今日だって志築のお小言がうるさくて、本当に面倒くさかったよ。それでも僕は、あまちゃんがいいと思っている」
まるで天希の機嫌を取るかのように、伊上の柔らかなキスが頬やまぶたに降り注ぐ。先ほどまでの、鬼気迫る雰囲気は欠片もなく、声音もいつもの甘さを含んでいた。
隙間なく抱きしめられると、微かに彼の胸の音が聞こえてくる。
少しばかり早いその音に、天希は両腕を伸ばした。スーツにしわを作るほど強く抱きつけば、涙で濡れた頬にすり寄られる。
「君にはいくらでも甘い夢を見せてあげられる。だけどいまのあの二人には難しい。それはわかるね? 夢を見てるだけのほうが幸せだ」
「俺は、そんなこと言えねぇよ」
「わかってる。あまちゃんは優しいからね。でも期待を持たせるのも、時として残酷だよ」
「けど、好きって気持ちはそう簡単になくならねぇよ」
「……僕も、いまひどく痛感しているよ。そうだねぇ。成治はともかく、あの男の気持ち次第かな。片想いで終わるかどうかは」
「うん」
「涙は止まった? こっち向いてごらん」
トントンと背中を叩かれて、天希はこぼれた涙を拭う。強く擦るとやんわりとその手を避けられ、代わりに伊上の唇が触れた。
「くすぐったい」
「あまちゃんは泣き顔も可愛いけど。なるべく君には笑っていてもらいたいな」
腫れぼったくなったであろうまぶたを、舌先で撫でられて首の後ろがむず痒くなる。しかし天希が身をすくませると、逃がすまいと両手に頭を掴まれた。
「待った。……へ、変な気分になる」
「じゃあ、その気になるまでしようか」
いつもベッドの中で自分に触れる舌先。その感触を思い出し、涙を舐め取られるたびにゾクゾクとさせられる。
思わず声が漏れそうになり、天希は指を噛むが、伊上は本当にその気にさせるつもりなのか、やめようとしない。
「や、やめろ、ってば。ここ駐車場! 人に見られたら」
「そんなことくらい、どうってことない。……けど、可愛いあまちゃんを見せるのはもったいないね」
「だったら、早く部屋、に……っ」
腕を突っ張って抵抗を試みるものの、伊上の手が離れていかず、それどころか距離を埋められた。唇に触れた熱に、天希は身動きができなくなる。
先ほどのキスを、上書きするみたいな優しい口づけが、たまらなく気持ちがいい。
「……ふ、ぁっん……っ」
舌が絡むたびに水音が響き、顔に熱が集中した。耳にまで熱が移ると、天希は恥ずかしさが増して、伊上の胸元を叩く。
ようやく離れる頃には、二人のあいだにとろりと唾液の糸が引かれた。
「よしよし、これで逃げられないね」
「は?」
「行こうか、ベッドに」
「エロ親父!」
力が抜けた天希の身体を抱き上げると、伊上は軽々と肩に担ぐ。一瞬の出来事に呆気にとられているうちに、エレベーターに乗り込まれて、逃げる隙などまったくない。
「下ろせ! 恥ずかしい」
「嫌だよ。今日は足腰立たなくなるまでして、逃がさないから」
「逃げねぇよ! 元から逃げる気なんてねぇし!」
「それならキス、してごらん」
「散々した!」
「じゃあ、このままだよ」
意地の悪い言葉に天希は小さく唸る。遅い時間なので、人が乗り込んでくる可能性は低いが、この格好を見られるのはやはり恥ずかしい。
意を決して伊上の背中を叩くと、彼は黙って天希の身体を下ろした。
にっこりと笑みを浮かべる、遊び半分な表情に、わずかばかり躊躇いが湧く。それでも天希は背伸びをすると、恋人に唇を寄せた。
その瞬間、エレベーター内に到着音が響き、背後で扉が開く気配を感じる。驚いて身を離そうとした天希だったが、ぐっと腰を抱き寄せられた。
「乗る?」
「い、……いえ、どうぞ」
意表を突かれた様子の女性の声。背中に感じる視線に、天希はいますぐ地中深く埋まりたい気分になった。
再びエレベーターが上昇を始めても、顔を上げられない。
「邪魔されちゃったね」
「それぜってぇ嘘だ! いまのタイミング、わざとだろ!」
「偶然だよ」
「……ば、ばっかじゃねぇの!」
しれっとした顔で肩をすくめられて、天希は腹立ち紛れに何度も肩を叩いた。その程度でビクともしないのは経験済みだが、八つ当たりしなければ気が済まなかった。
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