上 下
34 / 35

第34話 交わり合う身体

しおりを挟む
 静けさ漂う室内には、ロディアスの荒い息づかいと、粘り気を帯びた水音だけが響く。
 丹念に体の奥を開かれ、よいところを見つけたリュミザの指に、そこばかりを撫でられる。

「ぁっあっ、リュミィっ、また、く!」

 指だけでどれだけ達したかわからないほどで、ロディアスは快感の波に落とされたまま上がってこられずにいた。
 四つん這いになり、腰を高く上げた姿は雌猫のようだ。

「ふぁっ、もう、いい。……早く! あっぁぁっ」

 いまは指が出入りするだけでも感じる。リュミザの選んだ小瓶は、媚薬入りのものだったのかもしれない。
 行為が初めての相手に使うと、痛みを感じにくくする。

 だが冷静にそんなことを考えている余裕は、ロディアスになく、リュミザに与えられる快感で体を震わせるばかりだった。

「可愛いですね。あなたのとろけた表情。ずっと見ていたい。ゾクゾクします。僕のがほしいですか? ロディー」

 横顔を覗き込んでくる若葉色の瞳は、いつもより濃い色合いに見える。リュミザも興奮を覚えているのは気づいていた。
 時折ロディアスの尻の割れ目に押し当て、リュミザはそこで何度か精を吐き出している。

「早く、挿れてくれ! もう、我慢、できない」

 散々慣らされた場所は、リュミザの大きく昂ぶっているモノを押し込まれたくなっている。
 ロディアスは振り向いて、リュミザの瞳を見つめると、何度も「ほしい」と懇願した。

「無理をさせないようにと、気を使っているのに、あなたにほだされてしまう」

「――っ、ぁあ……ん――っ」

 ほぐされた場所へぐっと押し込まれた昂ぶりは、想像よりも太くて長い。みっちりと中を埋め尽くされ、奥で主張する感覚が触れなくともわかるほどだ。
 満たされた瞬間、ロディアスはまた達していた。

「はあ、すごい。なんて気持ちがいいんだろう。ふふっ、ロディー、達してしまったんですね? 可愛くて仕方がない」

「んぁっ、いいっ、リュミィ、もっと」

「中を擦られるのが気持ちいいんですね?」

 ゆっくり、ゆっくりと抽挿を繰り返され、ロディアスはきつくシーツを掴む。
 こらえていないとあまりのよさに、あられもない声を上げてしまいそうだった。

「あ……ぅっ、んんっ」

「ロディー、唇を噛むと傷つきますよ?」

「だっ、だめ、だ……っ、ひっぁっあっ」

 声を我慢しているのを悟ったリュミザは、ロディアスの腰を鷲掴み、大きく腰を揺らし始めた。
 ガツガツと激しく、奥を突かれるたびロディアスの声が口から漏れる。

「リュミィ、だめ、だ。また――っ」

「中に、出しますね」

「はっ、ぁ――んっ、熱い。腹の奥が」

「ロディー、もっとたくさん、注いでもいいですよね?」

 中に注がれ、達したロディアスは肩で大きく息をする。
 けれどリュミザのほうはまだ満足していないのだろう。すぐに腹の中で主張し出した。

「いい、いいけど――そんなに激しく――っ!」

 ロディアスとてやぶさかではない。ないのだが――脚を掴まれ、ベッドへ転がされた瞬間、また律動が再開されて喘ぐしかできなくなる。

(リュミザも、よさそうな顔をしてる)

 体勢が変わるとリュミザの表情がよく見えた。
 行為に夢中な彼の顔を見ているだけで、制止する気も起きなくなってくる。

 そもそも命を分かち合うためには、深く交わり合う必要があるのだ。
 これまでどういった原理なのかはわからなかったけれど、体液に魔力が多く含まれていることを鑑みれば、循環による効果だろう。

「ロディー?」

 じっとロディアスが見つめていると、リュミザは訝しげな顔をする。よくないのではと思ったに違いない。
 ロディアスとしてはよすぎるくらいだというのに。

「リュミザ、もっとこっちへ来てくれ」

「どうしたんですか?」

「口づけがしたい」

 繋がり合っているのもよいけれど、ロディアスはほかのものがほしくて手を伸ばした。

「唇が寂しい」

「とても可愛いおねだりですね」

 ロディアスの素直な言葉にリュミザはふっと表情をほころばせる。
 身を屈め、ゆっくりと覆い被さってくる彼を、ロディアスは両手で抱きしめた。強く抱きしめるほどに、リュミザはロディアスの口内をたっぷりと唾液で満たす。

「リュミザの唾液は甘い」

「魔力の相性がいいのでしょうかね?」

「はっ、んっ……もっとほしい」

 ねだるようにロディアスが引き寄せると、リュミザは口の中を優しく愛撫してくれる。
 滴る唾液を啜りながら、ロディアスはさらに舌先を伸ばして、リュミザにせがんだ。

「もっと、リュミザ」

「ロディー、また動いてもいいですか? 口づけもちゃんとしてあげますから」

「ん、好きにしろ」

 深い口づけと、ゆるりとした動きで、またロディアスは快感の波にのまれていく。
 上と下とで受け入れるリュミザの魔力が、体中に浸透して、めまいを起こしそうなほど心地いい。

(すごく……いい。これまで経験したことのない感覚だ。少しずつリュミザとのあいだに、繋がりが生まれるような)

「ロディー、大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃ、ない。よすぎて、馬鹿になりそうだ」

「そんなに蕩けた顔をして、僕の理性を試しているんですね」

「試されてるのは、俺だ」

 ゆるゆるとした動きから、再びよい場所へと刺激を与える動きに変わり、ロディアスは自身の指を噛む。
 しかしそれでもこらえきれず、唇の隙間から、ふー、ふーと獣のような声が漏れているのがわかる。

「ロディーは観念して、気持ちいいって言ってください」

「いいよ、きもち、いい。あんたに抱かれてると思うと、興奮する」

「今夜は、抱き潰しますね」

「……望むところだ」

 ぷつんとリュミザの中でなにかが切れた気がする。
 乱暴ではないけれど衝動的に、ロディアスの体を揺さぶりだした。彼に火を付けられるのは自分だけ、そう考えるとロディアスはさらに気持ちが高揚する。

「ロディーの体力が回復したら、この体にまた筋肉がつき始めますね」

「うかうかしていると、あんたより体格がよくなるぞ」

「それは由々しき問題です。でも格好いいロディーもいいですね」

 ロディアスの脇腹を撫でながら、リュミザはうっとりとした顔をする。
 触れられているほうは、こそばゆさとぞくりとした感覚が交互にやって来て、黙っていられない。

 ロディアスが身をよじると、身を屈めたリュミザが肌に口づけし始めた。

「んっ、あとをいくつ残すつもりだ」

「いくつでも、僕のものって感じがして気分がいいです」

 ちゅっちゅと音を立て、ロディアスの肌へ赤い印を残していくリュミザは楽しげだ。

(そういえば以前、首へ残したあと……見られているな)

 従者に肌を見られることは気恥ずかしくないものの、リュミザの残した独占欲の印を見られるのは、さすがに羞恥が湧く。
 船の一件では、目覚めたら屋敷だった。もう随分前の話ゆえ、いまさらではあるが。

「こんなにつけたんだから、あんたが世話しろよ。リュミザ」

「ふふっ、任せてください。では今夜は責任を持って最後まで、ロディーをよくしてあげます」

「んぁ――っ、急に、動くなっ」

 散々肌に口づけ撫で回したあと、リュミザは再び腰を揺らし始める。気を抜いていたロディアスは、ふいをつかれて甘い声を漏らしてしまった。
 中を舐るようにされれば、こらえきれずに上擦った声が響く。

 甘やかな声を出してしまうたび、リュミザは恍惚とした笑みを浮かべた。

「ロディー、愛してます」

「俺も、だ」

 ロディアスが両手を伸ばし、リュミザの首元へ絡めれば、彼は横たわる体を抱き寄せ、膝の上へと導いてくれた。
 体勢が変わり下から突き上げられる感覚に、ロディアスは何度目かの精を吐き出す。

 互いに貪り合い、二人が疲れ果てたのは夜が更けた頃だろうか。

 体は気だるく体力も残らぬほどだったが、確かに自身の中にリュミザの気配が感じられ、ロディアスはほっとした気持ちになる。
 二人のあいだに見えない絆が作られた。

 誓約のない、二人だけの繋がりだ。
 たとえ誓約があろうとも、ロディアスがリュミザを手放すなどありえないけれど。

「ねぇ、ロディー、世界一周旅行が楽しみですね」

「そうだな。すぐにとは行かないが、少しずつ準備しよう」

「ハンスレットへはたまに帰りましょう。みんなが寂しがります」

 ベッドの上で二人抱きしめ合いながら、微睡む。
 湯浴みもしたいけれど、いまは互いにこうしているのが落ち着くので、汚れたシーツは足で床へと蹴り落とした。

「ふふっ、ロディー、足癖が悪い人みたい」

「いまは少しも動きたくない」

「僕もです。満たされた気持ちで、いっときも離れたくありません」

「今日は誰も起こしに来ないだろう」

 火照りが収まった体を冷やさないように毛布を引き寄せる。
 二人で一緒にくるまれば、ぬくもりがじわりと拡がっていった。

「リュミザの髪、やはり綺麗だな」

「そう言ってもらえてうれしいです。会うまで本当に不安だったんですよ」

「いいじゃないか。白銀色、似合うぞ」

 枕に散った髪をロディアスが指ですくうと、リュミザはくすぐったそうに笑った。
 煌めく髪は光を集めたみたいにキラキラと輝いて見える。

「髪は伸びるのか?」

 短くなってしまったので、指先からすぐに滑り落ちてしまうのが残念に思えた。
 ロディアスが問いかけたら、リュミザは驚いた様子で目を瞬かせる。

「長いほうが好きですか?」

「そうだな、どちらかと言えば」

「いますぐ伸ばせますけど」

「……徐々にでいい」

 いくら人の器を捨てたとは言え、いきなり伸びるのは周りが戸惑う。
 躊躇なく止めると、リュミザも察してくれたようだった。

「伸びたらまた編んでください」

「そうだな」

「ロディー、好きです」

「俺もあんたが好きだよ。リュミザ」

「ふふっ」

「眠いのだろう? これからの話はいつでもできる」

「はい」

 ウトウトとするリュミザは長いまつげを瞬かせながら微笑む。
 髪を撫でてやれば、まぶたがゆるりと閉じられ、ロディアスもつられるようにあくびをした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹
BL
不幸な王子は幸せになれるのか? 異世界ものですが転生や転移ではありません。 素敵な表紙はEka様に描いて頂きました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

白熊皇帝と伝説の妃

沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。

貧乏貴族は婿入りしたい!

おもちDX
BL
貧乏貴族でオメガのジューノは、高位貴族への婿入りが決まって喜んでいた。それなのに、直前に現れたアルファによって同意もなく番(つがい)にされてしまう。 ジューノは憎き番に向かって叫ぶしかない。 「ふざけんなぁぁぁ!」 安定した生活を手に入れたかっただけの婿入りは、いったいどうなる!? 不器用騎士アルファ×貧乏オメガ 別サイトにて日間1位、週間2位を記録した作品。 ゆるっとファンタジーでオメガバースも独自の解釈を含みます。深く考えずに楽しんでいただけると幸いです。 表紙イラストはpome村さん(X @pomemura_)に描いていただきました。

処理中です...