初恋カフェラテ

真田 真幸

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本編

辛いカライお試し恋愛の結末 side 幸太 2

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 初めての恋愛、初めての恋人…。

臆病な俺は…肝心な気持ちを伝えることを先伸ばししていた。

もっと、彼女が俺を見てくれるようになってから…

せめて今よりも好きになってから…

そんな気持ちがあった。

丁度、クリスマスに俺と彼女の“お試し恋愛”が終わる…。

(その時に…ちゃんと告白しよう!)

そう思っていたんだ…。





 この2ヶ月間は、本当に楽しかった。

初デートの映画は話題作の続編を観に行き、帰りはその話で盛り上がった。

翌週は彼女が大好きだというのに水族館に行って、イルカと戯れて、その次の週は近くのお祭りに行って、田舎とは違う都会の祭りの雰囲気を満喫した。

冬が深まり出した頃には、鮮やかな黄色の葉が舞う横浜の銀杏並木を散歩して、中華街では大きな肉まんを二人で分けて食べ、夜は観覧車で夜景を眺めた。

特に銀杏並木を見上げるワインレッドのショート丈のコートをクリーム色のニットとチョコレートブラウンのホットパンツ姿の上に羽織った彼女が可愛くて…横顔が綺麗で…そっと撮った画像は、俺のスマフォの待ち受けになった。

 俺の部屋に来れば、彼女が料理の腕を奮ってくれたこともあった。

彼女が作ってくれたお陰で初めて食べることになったパスタグラタンは、俺の好物の一つになった。

初めて俺が挑戦したインドカレーは辛くし過ぎて、涙目の彼女に怒られているのに、何故か笑いが止まらなくて、そのうち彼女も笑いだして、一緒にココナッツミルクを足しながら食べたこともあった。

 何度、部屋に来る彼女を“抱きしめたい!”と思ったか分からない。

だけど、ただ手を握るときでさえ、彼女は身体を震わす。

それ以上の事を求めて嫌われたくなかったから、キスも我慢した。

本当は…もうとっくに週にたった3回の逢瀬じゃ足りなかった。

だけど、俺はクリスマスの計画の為に、短期の家庭教師のアルバイトを始めた。

丁度、彼女も大きな契約のかかったプレゼンに向けて忙しいらしい。

たった週に1度になってしまった彼女との時間。

無理してる自覚はあったけど、それでも彼女と全く会えなくなるのは絶対に嫌だった。

 だから、何がなんでもその時間だけは守りたかった。




 3日前のあの日も、彼女は何度も“そこまで頑張らなくていい!”と心配して言ってくれた。

 強引に説得して渋々、俺の後をついてくる彼女を振り向いて笑顔を返すけど、彼女は困ったように眉を寄せた。

簡単に出来るプデチゲを作って、何時ものように食べ始めた。

いつもより口数少ない食卓は、沈黙が多め。

それでも彼女が一緒に居る。

それでいいと思っていた。

なのに…。

『行ってくれば?』

『え?』

『合コン。気分転換になるし、メンツが足りなくて、熊くんが困ってるって言ってたよ?なんで断るの?』

プデチゲをつつく俺の手が止まった。

“熊”からは確かにメンツが足りないからと再三合コンへの参加を頼まれていた。

“お試し”期間だったこともあり、俺は彼女がいることをまだ公にしていなかったせいもある。

『…なんで、知ってるの?』

聞けば、昨日俺が休憩に入っているときにカフェに来ていたという。

そして、偶然にも彼女は熊と他のバイトの会話を聞いたらしい。

貴重な彼女との時間を奪われた気分になり、ついついちょっとイラついて彼女を責めるような溜め息が出た。

“今日は帰ります!”というメッセージは確かに受け取っていた。

だけど、熊からは何も聞いていない。

それより何より、何で彼女が俺に合コンへ行くことをすすめているのか理解できなかった。

淡々とプデチゲを食べる彼女は、信じられない言葉を発した。

『だって、私はあくまで幸太くんが女慣れ出来るまでの“お試し”の彼女だもん。もう十分慣れただろうし、今の幸太くんなら他の女の子でも大丈夫だと思うよ。』

確かに俺たちは“お試し”の関係だけど、だからって仮にも“カレシ”の俺に合コンに行ってくれば?と言えるものなのだろうか?

『…藍原さんは…平気なの?』

『えっ?』

『俺が…合コン行ったりして…その…他の女の子と…仲良くしても…。』

彼女が何を考えているのか分からず、イライラと不安が募っていく。

『…そもそも私に幸太くんの自由を奪う権利なんてないと思う。お互いに気持ちは“恋愛未満”な訳だし。』

『!?』

俺は顔を上げて目を瞠って、彼女を見つめた。

血の気が一気に引いていく。

“恋愛未満”

つまり…彼女は…

『…藍原さんは…俺のこと…好きじゃないの…?』

俺は祈るように、彼女の顔を見つめた。

『好きだよ、人間的には好意を持ってる。一緒に居れば楽しいし…幸太くんの気遣いが嬉しい時もある。…でも…男としてではないかな…。』

『えっ…?』

『だって、幸太くんだってそうなんでしょ?礼儀正しい私に興味を持った、それに話しやすいから“お試し恋愛”の相手に選んだ訳でしょ?』

…彼女はそう思っていたのか…。

確かに…確かに俺はそう言ったけど、俺の行動を見て少しは分かって貰えていると思っていた。

そんな風に捉えられていたなんて、思っても見なかった。

言葉にしなくても、きっと俺の気持ちは行動で彼女に伝わっていると思っていた。

だけどちっとも…俺の気持ちは伝わっていなかった。

おまけに、彼女を心配して話した事が彼女を更に勘違いさせていたことが分かり、俺はパニックに陥った。

俺は“理想の女性”や“理想の彼女”を求めていた訳じゃない!

ただ、もっと“女性”として、危険を自覚して行動して欲しかっただけだった。

いっぺんに色んな誤解を解かなければならない状況が、更に俺を追い込んでいた。

そして、彼女から告げられた1ヶ月前倒しの“お試し終了宣言”は、俺をドン底に叩き落とした。

『カフェの店員とただの常連客にも戻ろう。ほら、そろそろクリスマスだし、イルミネーションの力も借りて、幸太くんが自信持って甘く告白すれば…きっと直ぐに本当の彼女が出来るよ!』

甘い告白…

そんなの彼女にしか告げたくない!

そう思うのに、俺の身体は言うことを聞いてくれなかった。

パニックに陥った状況の中、たった一つ分かったことは…

“彼女が行ってしまう!二度と恋人として会えなくなる!”

そのことだけだった。

『ま、待っ…!』

なのに、やっとの思いで立ち上がった時には、もう遅かった。

『…じゃあね!』

彼女は悲しそうに笑ってドアの向こうに消えていく。

正式に交際が出来るようになるまではと、俺は頑なに“藍原さん”呼びを貫き通していた。

心の中では何度も彼女を名前で呼んでいた。

思わず、彼女の名前を俺は叫んだけど…引き留めるには間に合わなかった。

静かに閉じたドアを見つめたまま、俺は座り込んだ。

「つぐみ…」

彼女の名前を呼んでみても…一人きりの部屋の空気をただ虚しく震わせるだけだった。

…なんで…一番大切な言葉を…俺は最初に伝えなかったのだろう…。

そのことが大切な彼女に、あんな悲しそうな笑顔をさせて別れを切り出させてしまった…。

俺は初めて、愚かな自分の臆病さを呪った。





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