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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

カタカナ禁止ゲーム

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「いやー、すごく楽しかったです」

 最初のゲームである『NGワードゲーム』は竹中くんにはかなりの好評だった。会話にも積極的に参加してくれたし、誰かがNGワードを言ったら、心底喜んでくれた。

 話していても悪い気はしないし、彼には言遊部に入ってもらいたい。

「良かった。良かった。じゃあ、次は『カタカナ禁止ゲーム』をしましょう」

 最初はご機嫌斜めだった千丈先輩だったが、自分の考案したイベントを楽しんでくれている参加者を見て、すっかり元気を取り戻していた。僕と奏さんが竹中くんに『NGワードゲーム』を勝たせようと思ったところ、一人勝ちしたのは玉に瑕だが。

「先ほどの『NGワードゲーム』とルールはほぼ一緒。話せば1ポイント獲得。でも、カタカナを使ってしまったら、1つにつき1ポイント消失。1番ポイントの高い人が勝利だよ。時間制限は5分間。この4人なら不正はないと思うから自分のしゃべった回数は自分でカウントしてね」

 千丈先輩は持っていたスマホをテーブルの上に置いた。

「それじゃあ、初め!」

 合図とともに、画面に映し出されたタイマーのスタートボタンを押す。

「竹中くんは言遊部以外に気になっている部活はあるの?」

 1つ目のゲームを楽しんでもらえたことで自信がついたのか、千丈先輩は踏み込んだ質問を竹中くんにした。

「特に決めてません」

「じゃあ、言遊部しませんか?」

 奏さんが竹中くんに入部を勧める。

「そうですね。千丈先輩も星宮さんも最上さんも良い人そうですし、今日みたいなことを活動内容としているのなら、入部しようかなって思ってます」

「本当に!」

 千丈先輩が席を立ち上がり、向かいに座る竹中くんを前のめりに見る。

「え、えっと……はい……」

 竹中くんはドギマギしながら僕に視線を送る。前のめりになったことで千丈先輩の下着が見えてしまって困ったのだろう。見た目は女子っぽいが中身はちゃんと男の子なんだな。

「これで4人ですね」

 星宮さんは悩ましい表情を見せる。
 竹中くんが入っても、部員は千丈先輩、星宮さん、竹中くん、僕の4人。部活存続のためには5人が必要だ。

 でも、心配はいらない。
 千丈先輩の方を見ると、彼女も同じことを思っているようで僕を見て笑みを浮かべながら大きく頷いた。

「あ、そうだ。1つだけ質問して良いですか?」

 竹中くんが思いついたように口にする。

「いいよ」

 ポイントを得るために僕が話を促した。

「千丈先輩と星宮さんって最上くんと付き合っていたりしますか?」

 予想外の質問に、向かいに座る女子二人が目を丸くした。

「えっ! そ、そんなことないよ。最上くんと私がカップルなんて! あ……」

 カタカナを使ったので1ポイント減点だ。

「文也さんは私たち以外の人と付き合っています」

 奏さんはふて腐れたようにそっぽを向いて話す。

「そっか。良かった~」

「何が良かったの?」

「中学時代の部活に恋仲の二人がいて色々と面倒なことが起きたから。もし、恋仲同士がいたら入部はお断りさせてもらおうかなと思って」

 はにかんで話す竹中くん。入部希望の部活に自分にとって都合の悪いものがなくて一安心している様子だ。しかし、今の言動はこちらにとってとてつもないほど都合の悪いものだった。

 千丈先輩に顔を向ける。彼女の顔面は蒼白になっていた。
 流石に「カップル」とカタカナを使ってしまったことを悔いているわけではないだろう。今の彼女にはもっと大きな惨劇が襲いかかっているはずだ。

 竹中くんが入部を希望してくれたことで言遊部の部員は4人となった。
 部活を存続させるためには1人足りない。しかし、僕と千丈先輩には最後の1人に宛があった。

 それこそが『日和』だ。
 初めは言遊部に入部させるつもりはなかった。だが、せっかく興味を持ってくれた星宮さんや竹中くんのためにも頼まざるを得ない。

 事情を話せば、日和は絶対に入部してくれるはずだ。
 だから僕と千丈先輩は部員が5人になったという安堵で顔を見合わせた。

 その目論見が竹中くんの今の言葉によって崩れ去った。

 僕と日和が恋仲である以上、日和が入部すれば竹中くんの入部が叶わない。
 部員は日和が入ってもなお4人のままとなる。唯一の方法は僕と日和が別れることだが、それだけは絶対にしたくないし、日和も絶対に望まない。

「あと一人どうしましょう?」

 冷や汗を垂らしながら千丈先輩に尋ねる。

「どうしようね? 絶体絶命のピンチだよ」

「あ、千丈先輩。今、カタカナ使いましたね」

 奏さんが茶々を入れる。

「星宮さんも使ったけどね」

 彼女の指摘に上乗せする形で竹中くんが突っ込む。
 奏さんは慌てて口に手を添えた。その瞬間、スマホが終わりを告げるように高らかに鳴った。

「多分、僕の勝ちですね!」

 竹中くんは喜びの声をあげながら、自分の得点を書いた紙をみんなに見せる。
 僕たちはカタカナ禁止ゲームよりも大事なゲームに負けてしまったので、誰一人リアクションを取ることができなかった。
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