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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

事前交流

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 授業後。
 約束どおり星宮さんを言遊部に連れていくために、彼女のいる教室を訪れた。

 後ろ扉から教室の中をちらっと覗くと、星宮さんは間藤さんと一緒に席について駄弁っていた。間藤さんが僕の存在に気づき、手を振ってくれる。

 僕は教室に入って彼女たちの元に向かう。
 途中、男子から「あいつまた来たよ」と言われたが、無視することにした。別に疾しいことは何一つしていない。

「無事に来てくれたようで何よりだ」

「僕が声をかけたんですから来るのは当たり前ですよ」

「また敬語になってるぞ~」

「あ……」

「難儀だね~。よし。お目当ての人が来たので、私は部活に行こうかな」

 間藤さんは机にかけた鞄を手に取り、席を立った。

「じゃあ、奏も部活を楽しんできてね。また明日感想聞かせてちょうだい」

「うん。麗華も部活頑張ってね」

 互いに手を振り合う。

「んじゃ、あとはよろしくね」

 僕の肩に手を置いて声をかけ、間藤さんは教室を出ていった。

「僕たちも行くとしますか」

「はい。よろしくお願いします」

 星宮さんはそう言って丁寧にお辞儀をした。机に置かれた鞄を「よいしょ」と声かけして右肩にかける。鞄は重いようで重心が右に寄る。少し危なっかしい。

「鞄重そうですね。何か入れてるんですか?」

「いえ、特には。ただ教科書類が重いだけです」

「置き勉とかはしないんですね」

 教科書、ノート、資料集や問題集と主要教科は大体3、4冊程度ある。曜日によっては六時間まるごと主要教科ということもあるので、置き勉しないとなると、20冊程度を鞄に入れて落ち歩かなくてはいけない。

「……移動しながら話しませんか?」

 星宮さんは教室を一瞥してから僕に提案する。
 歩きながらでも話せる内容だったので、彼女の提案を承諾し、僕たちは教室を後にした。

「さっきの続きですけど、置き勉はしない主義なんです。言い方は悪いですけど、クラスの子たちを信用できないので」

 確かに、置き勉は便利だが、誰かに勝手に使われる危険性はある。知らないうちに資料集やらがなくなってたりと面倒な事を引き起こす可能性は否めない。

「何か嫌なことでもされたんですか?」

「いえ……そういうわけでは……」

 後ろめたそうに視線を背ける。

 他の教室には数人の生徒が居残っており、仲睦まじくおしゃべりをしていた。星宮さんは彼らの様子を見つめている。僕からは彼女がどんな表情をしているかは見えなかった。

「最上さんはどうして同級生に対して敬語を使っているんですか?」

 不意にこちらに顔を向ける。
 僕はずっと星宮さんを見ていたので目が合う形になった。彼女は恥ずかしがることはなく、答えを待つように僕の瞳を凝視する。

「それは……」

「最上さんもあまり人を信用してないんじゃないですか?」

 なんて答えればいいか考えながら発言していると、星宮さんが割り入ってきた。

「信用してないから、一線を引くために敬語を使ってるんじゃないですか? 自分のパーソナルゾーンに下手に足を踏み入れられないように」

 核心をつく言い方をされ、声が止まった。

「よく分かりましたね」

 両肩をあげ、降参するような素振りを見せる。
 星宮さんは正解したというのに呆気に取られていた。

「どうしましたか?」

「い、いえ……素直に認めるんだなって」

「事実ですから。敬語で喋るのには、仲を深めないようにって意味があるとは思います」

「思いますって……なんだか意図的じゃない感じですね」

「意図的じゃないですよ。気づいたら、こんな喋り方になってましたから」

「気づいたら……」

 星宮さんは僕の言葉を繰り返しながら言い淀む。歩くスピードが遅くなったようで、僕の後ろに流れる。僕もまた歩くスピードを落とし、再び彼女の横についた。そして、強引に彼女から鞄を奪う。

「あっ! ちょっと!」

「正解したご褒美です。力仕事は男の仕事らしいので」

 そうは言ったものの、星宮さんの持っている鞄は想像以上に重かった。教科書以外にも何か色々入ってそうな雰囲気がある。早く重みから解放されたいと思ったのか歩くスピードが上がった。

「別にいいですよ。もう数日繰り返しているので慣れてますから」

 僕に追いつくために、星宮さんが走ってやってくる。

「平気です。それに今ここで返したら面目ないので」

「なんですか、それ。ははは、最上さんって負けず嫌いなんですね」

 星宮さんは息を漏らし笑う。
 その笑い方は今までの穏やかな笑みに比べて大胆なものだった。
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