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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

お泊まりデート3

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 引き出しに入っていた物を見て、僕は顎に手を当て考えを巡らせる。

 三角型の持ち手の先には見覚えのある灰色の球体が取り付けられている。
 銃タイプの電気マッサージ機。動画で見る『電気マッサージ機』よりもさらに進化しているものだ。

 似ているだけかもしれない。

 ポケットからスマホを取り出し、画像解析を用いて検索する。ヒットしたのはエクサガンハンディと呼ばれる電気マッサージ機だ。類似品を見ると、見慣れた電気マッサージ機も載っていた。

 AIもまた今見ているのが卑猥道具であると判断した。
 まさか初っ端から秘密道具を引き当ててしまうとは。運がいいのか、悪いのか分かったものじゃないな。

 ガチャッ。

 電気マッサージ機と睨めっこしていると不意に扉が開いた。

「着替えを忘れてきちゃった……あ……」

 部屋に入ってきたのはお風呂に入ったはずの日和だった。
 自分の失態に照れているのか朗らかな笑みを浮かべながら入ってくる。僕が視界に移ると同時に時間が止まったように動かなくなった。

 静寂の時が流れる。
 部屋にあるのはデジタル時計のみなので、針が時を刻む音すらもない。

「あ、あ、あ」

 開いた口を動かそうとしているが、驚きで関節が外れたのかうまく動かせないみたいだ。

「誤解です。僕はただ下着を探していただけだから」

 「どっちみちアウトだから!」

 しまった。焦ってしまったあまり、理由を言わずに行動だけを口にしてしまった。早く弁明しなければ。

「まさか本当に文也が下着を探そうとしていたなんて。って今はそういうことを言いたいんじゃなくて! それは!」

 紆余曲折してようやく本題に入る。
 日和は僕の開けた引き出しに向けて指を立てた。

「それは、マッサージするために使ってるの!」

「まあ、電気マッサージ器だしね」

「そういう意味じゃなくて! 体を! 体をマッサージするために使っているの!」

「まあ、電気マッサージ器だからね」

「絶対誤解してる!」

 誤解も何も、電気マッサージ器は体をマッサージするためのものだ。それ以外の用途はないだろう。

「うーんとね」

 日和は自分の言葉に納得いかないようで、おでこに手を添えて考えに浸る。

「分かった! 体全体をマッサージしているの! 全体をね!」

 手で体全体を触る動作をしながら答える。なんだか卑猥な動作に見える。
 なんとなく言わんとしていることは分かった。スマホや勉強などで肩が凝るので、それを解消するために使っているみたいだ。

 だが、今の発言では僕の疑問は払拭されていない。

「体全体をマッサージしてるのか?」

「そう……そうじゃなくて!」

 一度肯定してから、すぐさま両手を振って否定する。
 冷めた熱が再発しているのか、顔は真っ赤に染まっていた。頬を膨らませ、僕の方を睨みつける。

「文也ってかなり意地悪だね」

「ただ普通の質問をしているだけなんだけど」

「嘘だ! 絶対わかってやってる! セクハラ!」

 変なこと言わせようとしているのは確かだ。
 だが、分かってはいない。体をマッサージしている。体全体をマッサージしている。以上の二つから僕の中で卑猥に扱っている線は払拭されていない。

「セクハラっちゃセクハラかもしれませんが、彼氏としては彼女の性事情について知るのは大事なことなので」

 反撃に対して、日和は口を紡ぐ。
 パチンと自分を鼓舞するように両手で顔を叩いた。顔に貼り付けた手をゆっくり下げ、目だけこちらを見つめる。

「マッサージしてないから……せ、せ、性感帯はマッサージしてないから……読書やスマホや勉強で肩が凝るから寝る前にほぐしているだけ」

 日和は白状した。

 どうやら、疚しいことに使っているわけではないようだ。
 実際に使っているわけではなくて良かった。もし、卑猥なことに使ってたら今後付き合う上で意識せずにはいられない。

 それに、これで僕の家に隠された物の件に関しても同情してくれるだろう。あらぬ方向からやってくる変態レッテルほど嫌なものはないのだ。

「教えてくれてありがとう。変な誤解をせずに済んだよ」

「んー、お礼を言われても素直に喜べない」

「それよりも下着を探しにきたんだよね。本当は僕が取って渡しに行こうと思ったけど、帰ってきたなら僕は外で待機してるよ」

 引き出しをしまって立ち上がる。

「ちょっと部屋を片付けたいから、文也が先にお風呂入って」

 部屋を出ようとしたところで日和がそう言った。
 どうやら、まだ隠しているものがあるらしい。明らかに下手な発言だが、気にしないことにした。誰しも見られたくないものの一つや二つはある。

 日和に言われたとおり、先にお風呂に入るため自分のバッグから着替えを取る。

「お風呂ってどこにある?」

「リビングを出て右手にあるよ」

 顔を合わせず答える。
 だいぶ嫌われてしまったみたいだ。仕方ない。日和に変なこと言わせた罰だ。

 扉を開け、部屋を出る。
 扉を閉め、階段を降りたところで日和の部屋からバタバタと音がする。模様替えをするかのような慌ただしさだ。

 何を隠すものがあるのだろうか。
 頭の中で女性が秘密にすることを考えながら階段を下りる。広いリビングを渡り、廊下へと足を運んだ。

 ガチャッ。

 リビングにつながる扉を閉めたと同時に、前にある玄関の扉が開いた。一人の女性が家に入ってくる。

 茶色の髪をポニーテールに結んでいる。
 日和に似た美人な顔立ち。先ほどの彼女に似て顔が赤く染まっているが、弛んだ目から恥ずかしさでなく酔いによって引き起こされたことが分かる。

 彼女は僕の気配に気づいてこちらに目を向けた。
 目と目が合い、膠着状態になる。彼女のマジマジとした瞳はまるでゴーゴンのように僕の動きを止めた。

「私の家に勝手に侵入してんじゃねえよ! 泥棒が!」

 持っていたハンドバッグを握りしめると、僕の方に豪速球で飛ばす。まさか攻撃してくるとは思わなかったので避ける暇もなく顔面にぶち当たった。野球選手顔負けのコントロールである。

 小さいバッグながら多くの荷物が積み込んであるようで重量がある。攻撃を受け、僕は持っていた着替えごと床に倒れ込んだ。

 日和に変なことを言わせた罰はかなりの重罪だったみたいだ。
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