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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)
お泊まりデート2
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日和の部屋は以前来た時とほとんど変わっていなかった。
当たり前だ。最後に来たのは二週間ほど前なのだから。この前の休日は僕たちと遊んでいたし、模様替えする暇はない。
ただ、一つだけ変わっていた点があった。
飯塚さんとゲームセンターに行った時に取ったウサギのぬいぐるみ。それが勉強机の右端に置かれていた。
目につく場所に置いてくれていることを嬉しく感じた。
「お待たせ~」
部屋の中を見回っていると、日和がお盆片手に入ってくる。お盆には二つの緑茶が置かれていた。
「何していたの?」
日和はそう尋ねながらお盆をテーブルの上に置く。
おそらく荷物も置かずに立っていたから気になっていたのだろう。
「いや。特には。ただ、部屋を見回してただけ」
「もしかして、変なものでも探そうとしてた?」
不敵な笑みを浮かべて僕を見る。
先ほど紅潮する様子を見られたお返しだろうか。
「変なものとは?」
回答はせず、おうむ返しする。
日和は目を大きくさせてから唇を尖らせてこちらを覗いた。
「私の口から言わせようとするなんて文也は卑猥だね」
「僕が卑猥になるのは日和が卑猥なことを考えていたからでしょ」
「っ!」
図星を突かれたためか、再び頬のあたりを赤く染めた。
「ひとまず! ご飯を食べよう! お腹すいた!」
強引に話題を変える。いつもの穏やかさはなくなり、子供のように怒る。二人きりだと怖さは可愛さに変わるらしい。
二人分の鞄を置いてから、スーパーで買ったお寿司やら惣菜を置く。
いただきますと二人で唱えて互いに適当に食にありつく。買ってきたものは独り占めせず、共有することになっていた。僕も日和もお腹が空いていたからか無言で黙々と食べ、すぐに空っぽになった。
「イベントの開催にあたって場所とタイムスケジュールはどうしようか?」
お茶を飲んで一息つきながら今日決めた内容を元に次のことを考える。
問いかけたものの日和から返事はなかった。どうしたのだろうと彼女を見ると、ジト目をこちらに向けている。
「何かあった?」
「別に。文也って『私と仕事、どっちが大事なの?』って聞いたら仕事って答えそうだなと思って」
「え? どうして?」
「はあ……」
察せられなかったためか日和はため息を漏らす。
中学時代、結花にも同じようなことをされたなと昔を思い出す。
「せっかく恋人同士二人っきりになれたんだから自分たちの話をしようよ」
「ああ、なるほど。それもそうか」
「もちろん。言遊部の存続は大事なことだよ。私もできる限り真奈ちゃんには報われて欲しいから。でも……」
一度口を閉じ、自分の髪を弄ぶ。
「それ以上に私のことを大事にしてほしい」
唇を震わせながら恥ずかしそうに言う。
僕は時間が止まったように動けなくなった。穏やかな様子から何も隠していないと思っていたが、大きなものを抱え込んでいたらしい。
「ごめん。ただ、日和のことは一番大事だと思っている。嘘じゃない」
彼女の目を直視する。
潤った瞳が綺麗に輝く。感情が動いているように感じられた。
しかし、瞬きをした途端に瞳から一切の純情さが消える。
「なんだか嘘っぽい。クズ男の特徴に該当しそう」
「なんでそうなるんだよ」
結構面倒臭いかもしれない。日和の言動に心の中で頭を抱える。
「けど、文也を信じる。だって文也が好きだから」
返された言葉に、心の中の僕は消え去った。
日和にはいつもの穏やかさが戻っていた。いや、いつも以上に心が清らかになった穏やかさだ。
どうやら僕の言葉は届いたらしい。やっぱり結構面倒くさいかも。
「ご、ご飯食べたばっかりだけど、お風呂に入ってくるね」
いつまでも穏やかなままではいられなかったらしい。
自身の発言の痛さに羞恥心を抱えたのか、僕をずっと見てくれた視線が嘘だったかのように、全く視線を合わせずに部屋を出ていった。
僕としてもありがたい。
今になって心臓の鼓動が高まり始めた。
先ほどのやりとりがフラッシュバックする。二人とも芝居を打っているのではないかと思えるほど、発言に台詞感が否めなかった。
とりあえず、気持ちを落ち着けることに専念する。
気持ちを整理する間に色々なことが頭をよぎった。特によぎったのは、日和の言った「変なものでも探そうとしてた?」だ。
そういえば、風呂に入ってくると言ったわりには何も持たずに出ていったな。
下着類はこの部屋にはないのか。もし、この部屋にあった場合、日和は全裸で戻ってくることになるのではないか。
不安が頭をよぎる。
合法的とはいえ、裸を見るのは憚られる。避けた方がいい。
部屋に下着がないかを確認するため、僕は再び部屋に視線を走らせた。
下着をしまっているとしたら、棚か、あるいはベッドの下か。
候補が見つかったなら、すぐに行動に移すべし。
腰を上げ、一番近くにあったベッド下の引き出しに手を伸ばす。
なんだか疾しさを感じる。でも、仕方がない。探さなければ、もっと疾しい結果を迎えることがあるのだ。
恐る恐るベッド下の引き出しを開ける。
「こ、これは……」
僕は思わず絶句した。
ベッドの下には『電気マッサージ機』が置かれていたのだ。
当たり前だ。最後に来たのは二週間ほど前なのだから。この前の休日は僕たちと遊んでいたし、模様替えする暇はない。
ただ、一つだけ変わっていた点があった。
飯塚さんとゲームセンターに行った時に取ったウサギのぬいぐるみ。それが勉強机の右端に置かれていた。
目につく場所に置いてくれていることを嬉しく感じた。
「お待たせ~」
部屋の中を見回っていると、日和がお盆片手に入ってくる。お盆には二つの緑茶が置かれていた。
「何していたの?」
日和はそう尋ねながらお盆をテーブルの上に置く。
おそらく荷物も置かずに立っていたから気になっていたのだろう。
「いや。特には。ただ、部屋を見回してただけ」
「もしかして、変なものでも探そうとしてた?」
不敵な笑みを浮かべて僕を見る。
先ほど紅潮する様子を見られたお返しだろうか。
「変なものとは?」
回答はせず、おうむ返しする。
日和は目を大きくさせてから唇を尖らせてこちらを覗いた。
「私の口から言わせようとするなんて文也は卑猥だね」
「僕が卑猥になるのは日和が卑猥なことを考えていたからでしょ」
「っ!」
図星を突かれたためか、再び頬のあたりを赤く染めた。
「ひとまず! ご飯を食べよう! お腹すいた!」
強引に話題を変える。いつもの穏やかさはなくなり、子供のように怒る。二人きりだと怖さは可愛さに変わるらしい。
二人分の鞄を置いてから、スーパーで買ったお寿司やら惣菜を置く。
いただきますと二人で唱えて互いに適当に食にありつく。買ってきたものは独り占めせず、共有することになっていた。僕も日和もお腹が空いていたからか無言で黙々と食べ、すぐに空っぽになった。
「イベントの開催にあたって場所とタイムスケジュールはどうしようか?」
お茶を飲んで一息つきながら今日決めた内容を元に次のことを考える。
問いかけたものの日和から返事はなかった。どうしたのだろうと彼女を見ると、ジト目をこちらに向けている。
「何かあった?」
「別に。文也って『私と仕事、どっちが大事なの?』って聞いたら仕事って答えそうだなと思って」
「え? どうして?」
「はあ……」
察せられなかったためか日和はため息を漏らす。
中学時代、結花にも同じようなことをされたなと昔を思い出す。
「せっかく恋人同士二人っきりになれたんだから自分たちの話をしようよ」
「ああ、なるほど。それもそうか」
「もちろん。言遊部の存続は大事なことだよ。私もできる限り真奈ちゃんには報われて欲しいから。でも……」
一度口を閉じ、自分の髪を弄ぶ。
「それ以上に私のことを大事にしてほしい」
唇を震わせながら恥ずかしそうに言う。
僕は時間が止まったように動けなくなった。穏やかな様子から何も隠していないと思っていたが、大きなものを抱え込んでいたらしい。
「ごめん。ただ、日和のことは一番大事だと思っている。嘘じゃない」
彼女の目を直視する。
潤った瞳が綺麗に輝く。感情が動いているように感じられた。
しかし、瞬きをした途端に瞳から一切の純情さが消える。
「なんだか嘘っぽい。クズ男の特徴に該当しそう」
「なんでそうなるんだよ」
結構面倒臭いかもしれない。日和の言動に心の中で頭を抱える。
「けど、文也を信じる。だって文也が好きだから」
返された言葉に、心の中の僕は消え去った。
日和にはいつもの穏やかさが戻っていた。いや、いつも以上に心が清らかになった穏やかさだ。
どうやら僕の言葉は届いたらしい。やっぱり結構面倒くさいかも。
「ご、ご飯食べたばっかりだけど、お風呂に入ってくるね」
いつまでも穏やかなままではいられなかったらしい。
自身の発言の痛さに羞恥心を抱えたのか、僕をずっと見てくれた視線が嘘だったかのように、全く視線を合わせずに部屋を出ていった。
僕としてもありがたい。
今になって心臓の鼓動が高まり始めた。
先ほどのやりとりがフラッシュバックする。二人とも芝居を打っているのではないかと思えるほど、発言に台詞感が否めなかった。
とりあえず、気持ちを落ち着けることに専念する。
気持ちを整理する間に色々なことが頭をよぎった。特によぎったのは、日和の言った「変なものでも探そうとしてた?」だ。
そういえば、風呂に入ってくると言ったわりには何も持たずに出ていったな。
下着類はこの部屋にはないのか。もし、この部屋にあった場合、日和は全裸で戻ってくることになるのではないか。
不安が頭をよぎる。
合法的とはいえ、裸を見るのは憚られる。避けた方がいい。
部屋に下着がないかを確認するため、僕は再び部屋に視線を走らせた。
下着をしまっているとしたら、棚か、あるいはベッドの下か。
候補が見つかったなら、すぐに行動に移すべし。
腰を上げ、一番近くにあったベッド下の引き出しに手を伸ばす。
なんだか疾しさを感じる。でも、仕方がない。探さなければ、もっと疾しい結果を迎えることがあるのだ。
恐る恐るベッド下の引き出しを開ける。
「こ、これは……」
僕は思わず絶句した。
ベッドの下には『電気マッサージ機』が置かれていたのだ。
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